わたくし流モダンジャズ道へ

とうとう聴いてきちゃいました・・・
ソニーロリンズ・日本ファイナルコンサートに大満足 !


ファイナルコンサートプログラム

2005.11.6(日)夕方、小雨の降る中、4時30分開場と同時に東京国際フォーラムAホールに入った。
 長いエスカレーターで上がったところの最初のロビーで、記念となる二千円也の「プログラム」(右冒頭の写真 JECインターナショナル)と、来日記念として10/31にリリースされたCD「The Very Best Of Sonny Rollins」(ビクターエンターテイメント) をまず買い求め、しばしコーヒーブレーク。

 指定された席についたときは、大ホールはほぼ満席で、二階席のわたくしの席はステージまではちょっと遠いが、真正面である。
 ステージ上にはすでにドラム、ベース、ギター、アンプ、マイク、スピーカーなどが整然とセットされており、これから展開されるであろう熱演への期待が、いやでも膨らんでくる。
 すでに歳がいもなく胸がときめいている。こんなときめきと興奮は、大昔、学生時代に味わったとき以来かもしれない。

 まわりを見渡すと、いかにも年季の入った筋金入りのジャズ通と思われる年配の人、本場のジャズの真髄に触れてみようという果敢な若者たちが、わたくしと同じような気持ちでソワソワしながら座っている。
 カップルも多い。全国各地からきっと聴きに来ているに違いない。長野からなんていうのは近いほうかもしれない。

 少しでも心を落ち着かせようと、今買ったばかりのしゃれたプログラムを開いて見た。この歳になると、そうでなくても活字が最近とんと見えにくくなっているが、ホールの暗い照明下では、濃い色の背景色に白抜きの文字は、ほとんど読めない。

 そうだ目をつぶって、開演まで心静かに待とう。とにかく今まで何十年も聴いてきたロリンズはこのさい忘れよう。邪念、雑念を取り払って、禅ではないが無の感覚で今のロリンズを聴いてみるか。
 そんなことを思いながら、腕時計を見ると、もう開演予定時刻の5時30分を15分も経過している。

 アドリブの神様、ロリンズだって、生身の人間、そのうえ75歳のご高齢、長旅の疲れもあるだろう、日本へ来て三回の公演もすでにこなしてきている。体調がよくないのだろうか、演奏はできるのだろうか、ちょっと不安な気持ちになってくる。
 周りからもそんなささやき声が聞こえてくる。でも、どうしても聴きたい、観たい、このとき会場のファンのみんながそう思ったにちがいない。

会場の照明が少しずつ落ちて来た。拍手が前の席のほうから、そして、すぐに会場全体に割れんばかりの大きな拍手が鳴り響いた。
 左のステージ脇から、丈長のダークジャケットに真っ赤なスラックスをはいたソニーロリンズが、首からぶら下げた大きなテナーサックスを左手で抱えて、右手を上げながら颯爽とメンバーとともに現れたのだ。
 プログラムの写真とは、ジャケットとスラックスの色は正反対の衣装だ。それにしてもツートーンカラーのこのスタイルは、いかにもロリンズらしく、まったく様になっている。

 各メンバーがそれぞれ楽器のあるところに、そして、ロリンズがステージの中央に移動したところで、おもむろに演奏が始まった。
 最初の演奏は、アップテンポで始まった。これは単純なエイトビートではなく、アグレッシブなジャズだ。ラテン系のビートも入った複雑な曲に聴こえる。パーカッションが入っているから、そんな風に感じたのかもしれない。

 興奮のあまり、夢を見ているような、何か上の空で聴いているような、そんな感じだ。今、目の前にいて、演奏しているのが本当にロリンズなのかと。ロリンズのテナーから繰り出される豪快なトーンが、太い管のようになって、わたくしの体の中に入ってくる。
 ものすごく暖かくて、力強くて、しかも、やわらかくすべてを包み込んでしまうような豊かなトーンなのだ。最初からあのロリンズ節をビュンビュンと飛ばしてくる。
 最初から全力疾走である。メンバーのほうが面食らっているのではないかとさえ思うほどだ。

 二曲目はバラードだ。この曲目はなんだったっけ。ロリンズは最初からどれがテーマで、どこがアドリブなのか、そんなことにはおかまいなく、情感こめてグイグイとわたくしに迫ってくる。まさに思考停止の状態にさせられている。
 とにかく理屈はどうでもいいから、ワンアンドオンリーのおれのアドリブを聴け、とでも言ってるかのように。
 この曲が終わったところで、まだ拍手喝采が続く中、ロリンズはマイクのところへ行って、「ドーモアリガトーゴザイマシタ・・・」と日本語で挨拶し、メンバーの紹介を始めた。
9/11ライブコンサートCD
 そして、カリプソ調の軽快な曲が始まった。何といってもロリンズ、イコールカリプソだ。つんのめるような強烈なアフタービートのアクセントにつられて、座っている自分の体も自然と波打ってくる。

 わたくしだけではなく、周りの人たちも同じように、ステージのメンバーと、もうすっかり同化してしまっている。ドラムとパーカッションは、ロリンズのテナーと丁々発止の掛け合い、そしてソロをたっぷりと披露してくれた。

 やっぱりピアノレスのほうが、ロリンズは活き活きとしている。
 最近出たCD「Without A Song」(左写真 ビクターエンターテイメント) での、あのニューヨークでの 9.11テロ直後のライプではピアノが入っているが、どうもロリンズの強烈なテナーとはしっくりと聴けなかった。ロリンズのソロに集中できないのだ。
 たぶん、ロリンズ自身もそう思っているのではないだろうか。ついでに言えば、ギター(昔からロリンズはギターを使うのが好きだ)がロリンズのアドリブをいっそう引き立たせてくれるのだ。

 そして、トロンボーンも曲に厚さというか、深みを添えている。聞けば、ロリンズの甥ごさんだという。さらに、ここはウッドベースでは雰囲気が出ないのだ。エレキベースのいくらか濁ったトーンとリズムのほうが、やはり相性がいいのだろう。長年一緒に組んでいるというから、呼吸もぴったりと合っている。
 そんなどうでもいいことを思いながら、カリプソリズムに乗って体をゆすりながら、わたくしは聴いていた。

 最後はミディアムテンポのフォービートの演奏で、最初のステージを締めくくった。
 ロリンズがステージを去るとき、マイクに向かって「キューケイ」といって会場の笑いを誘う。そうそう、ユーモアはロリンズ東京国際フォーラム・ホールAのおハコだ。ユーモアこそ、彼のトレードマークである歌心とともに、ロリンズ節なのだから・・・。
 ここで、当日のメンバーを紹介しておこう。

   テナーサックス ソニー・ロリンズ
   ギター ボビー・ブルーム
   ベース ボブ・クランショウ
   ドラムス スティーブ・ジョーダン
   パーカッション キマチ・ディニズル

  (6時40分くらいのところでしばし休憩に入る)<
 [右写真 雨に濡れる東京国際フォーラム演奏会場]


休憩時間(25分)の後に、ロリンズがメンバーとともに再びステージに現れた。大きな拍手がなかなか鳴り止まない中、なんの説明もなく、すぐに演奏が始まった。

 理屈はどうでもよい、とにかく俺の今の演奏を聴いてほしい、と言わんばかりに・・・。いかにもロリンズらしい。前のステージの疲れもみせず、ステージをくまなく歩きながら快調にテナーを吹きまくっていく。

 最後のステージも、4曲を終始楽しく聴かせてくれた。最初の曲はアップテンポの独特のビートを持った演奏で、サビ部分から半コーラスは心地よいフォービートを乗せてきた。
 二曲目は叙情豊かに切々と恋人にくどくようなバラード、そして、二部のステージの最高潮になったところで、ロリンズおハコのカリプソと、前のステージと同じ構成の心にくい演出だ。

 最後は6/8拍子の変拍子ジャズ、ここではドラムとの掛け合いがとてもよかった。このドラマーは、プログラムの解説によれば、オールマイティな実力を持っているというが、器用なドラマーである。変拍子、ラテン系のときのグルーヴ感、ビートアクセントがとくにすばらしい。
 聞けば、ロック界の大物ミュージシャンだというではないか。決して派手ではないが、しっかりとしたリズムサポートだ。

 最後のお別れの曲はジャズワルツ風ときたので、これでロリンズはステージを下りるのかな、ここは力いっぱいアンコールの拍手をしようかと思案する間もなく、あのおなじみのメロディとリズム、そう、サキコロの「セントトーマス」が始まるじぁーありませんか。

 これはおまけのサービスか、それともアンコールなのか。それはともかく、会場のみんなが手拍子で、それこそステージと一体となって大いに盛り上がったのであります。
 ロリンズのファイナルコンサートに来てくれたファンへのサービス、感謝の気持ちが、こちらにストレートに伝わってくる。ジーンと胸にきた。

 会場はもう総立ち状態だ。これで終わりにしたくない、全員がそう思った瞬間ではなかったかと思う。いつまでも演奏活動を続けてほしい、引退しないでほしい、そして、遠い日本にもう来なくたっていいんだから・・・。そんな気持ちでみんながもう夢中になって聴いたのです。

 曲が終わっても拍手が鳴り止まない。カーテンコールだ。これ以上ムリを言ってはいけないと思いつつも、わたくしも一緒になって拍手を続ける。
 メンバーとともに一度はステージを後にしたロリンズ、しばらく間を置いて、再び姿を現した。申し訳なさそうに「サンキュー、アリガトウ」と言って、手を上げる。そしてステージから消えた。

 ロリンズに対する敬意と感謝、そして、いたわりの気持ちが、このときファンみんなの心の中にあったと思う。こちらこそ、すばらしい演奏を聴かせてくれてありがとう。日本にわざわざ来てくれて、ファイナルコンサートをしてくれるなんて、ホントうれしいではないか。 ・・・ファン冥利につきるというものだ。

 もうこれで十分だ、これ以上望んではいけない。ファンのみんながさわやかな気持ちで、会場を後にすることができたと思う。
 8時ちょうどくらいで終演となった。

この余韻と興奮を鎮めないまま、会場を出た。外は土砂降りの雨だ。
 プログラムの中で、児山紀芳さんは、彼とのインタビューの最中にどうにも涙が止まらなくなったと書いておられる。わたくしもまったく同じ気持ちだ。この雨のように・・・。

 それにしても、ロリンズのテナーは、楽器から出てくる音というより、ロリンズのからだ全体から出てくる感じがする。心技体がひとつになったという、ありきたりの言葉では言い尽くせないと思う。
 ロリンズの75年の生き様が一杯つまっていて、そして、この歳にならなければ分からない愛とか、やさしさが、そのまま音になって出ているのだ。ひょっとして、ロリンズ自身が楽器になってしまった? 

 サキソフォン・コロッサス、そうか、「サックスの巨像(神様)」に本当になってしまったんだと。

来日記念発売CD
 会場で買った、来日記念ベストアルバムCD(左写真)を、今なつかしく聴きながら書いているのだが、ロリンズとのおつきあいは、かれこれ半世紀になろうとしている。
 もちろんジャスを聴き始めてから、ということだが、実際のご対面は今回が三度目、二十回以上も来日しているというのに、たったの三回だけなのだ。

 第二回目(1968.1)と第三回目(1973.9)の来日公演を聴いているから、もう三十年以上も前のことだ。ちょうど映画のために作ったという「アルフィー」のレコードが出たころで、フリージャズ全盛の時代、ロリンズがあのモヒガン刈りのころだ。
 また、(なんと)三度目の活動中止から復帰して最初にリリースされた「ネクストアルバム」が話題となっていたころで、エイトビートや電化サウンドがいっせいを風びしていた。

 でも、もう何回も彼のライブに足を運んできたような気がするから不思議だ。それだけロリンズを聴きこんできたからにほかならない。
 クラシック系の女房(第二回目の来日公演と今回の公演、二度も一緒につきあわされて、聴いている) でさえ、近ごろはロリンズ節を口ずさむくらいにまで、今やファンとなっているのだから・・・。

 名古屋、大阪、福岡、東京、札幌、そして再び東京でのきょう、11月11日夜の追加公演が、本当に彼の日本でのファイナルコンサートになるという。
 ステージ上をくまなく歩きながら演奏しつづけるロリンズ、腰が少し曲がり、歳を取ったなぁ、フッとそんなことも感じさせるコンサートでもあったが、この日は聴けなかった「サヨナラ」のことばは、きっと今晩、ラストステージを去るときにファンに向かって言うに違いない。

 さびしいが長い間ご苦労さまという気持ちと、やっぱりこのまま続けてほしいというわがままな気持ちが、今わたくしの中を去来している。
 ロリンズさん、大いに楽しませてくれてありがとう。そして、招聘してくれたJECインターナショナルさん、本当にどうもありがとう。 (2005.11.11記 Copyright (C) 2005-2013 TOKU All Rights Reserved.)


※追補 本日(2005.12.20)発売になったSJ誌1月号に、佐藤英輔氏が「ありがとう! Mr.サキソフォン・コロッサス」のタイトルで、11/11東京国際フォーラムホールCでの最終公演のレポートを熱くお書きになっておられるので、ぜひお読みになってください。
 氏はこの中で、この日の曲目にも触れておられるので、ここに引用させていただきました。  公演日によって前後したり若干の変更はあったのだろうが、ファンにとっては一番知りたいところでもあり、うれしい限りである。

1. Sonny Please  2. Salvador  3. Stairway to the Stars
4. H.S.  5. Someday I,ll Find You  6. Don't Stop the Carnival
7. I See Your Face Before Me  8. Nishi  9. St.Thomas
10. In a Setimental Mood(encore)


  (2005.12.20追記)

 このページ冒頭へ戻る  このウインドウを閉じる   

このページに直接入られた方は、わたくし流モダンジャズ道・ソニーロリンズ本編 もぜひご覧ください。
天性の歌心、そしてユーモア精神、ハードバップ全盛時代にアドリブの頂点を極めた 1950年代のソニーロリンズ(栄光の軌跡) をアップしましたので、どうぞご覧ください。

      表紙(コンテンツ)へ