忌日俳句のこと   佐藤 俊童

     

俳句で詠まれる忌日というのは、どのくらいあるんでしょうか。
「俳句月別歳時記(高橋悦男編:博友社)歳時記」から拾ってみました。

忌日俳句の心得
忌日俳句の詠み方の注意として、「自分の師であるか、その人物について充分な知識があるか、でなければ軽々しく忌日俳句を詠むべきではない」という方もいるようです。
歳時記をみて、「今月は誰それの忌だから・・・」と安易に一句詠むという作句方法は感心しない、ということでしょう。

忌日俳句と季語:
忌日俳句には、「牡丹忌」のように明らかに季節感をともない季語として使われるケースと、それがなく他の季語との併用という場合があります。
   例えば、「西鶴忌」が井原西鶴の忌日であることは分かっても、それが8月10日であることは、よほど詳しい人以外は知らないのが普通でしょう。
このように多くの忌日は季節感がないのだから、「季語」としては弱い訳で、他の季語との併用で詠むのが、むしろ正しいとも考えられます。
従って、忌日俳句の場合は、忌日のほかに季語が入っているからと言って、必ずしも重季というものでもないと言えるのではないでしょうか。

春の季語
義仲忌、陰暦1月20日、木曽義仲の忌日

  紅梅を近江に見たり義仲忌  森澄雄

実朝忌、陰暦1月27日、源実朝の忌日

  鎌倉に実朝忌あり美しき  高浜虚子

西行忌(=円位忌)、陰暦2月15日、西行法師の忌日

  思ふまま旅したまひき西行忌  石田波郷

多喜二忌、陰暦2月20日、小林多喜二の忌日

  多喜二忌の毛蟹抛られ糶られけり  菖蒲あや

利休忌(=宗易忌、与四郎忌)、陰暦2月28日、千利休の忌日

  利休忌を待って茶杓をおろしけり  厳谷小波

三鬼忌(=西東忌)、4月1日西東三鬼の忌日

  横文字の新聞燃やす三鬼の忌  桂信子

虚子忌(=椿寿忌)、4月8日、高浜虚子の忌日

  漱石の猫か虚子忌の墓の辺に  宮下翠舟

啄木忌、4月13日、石川啄木の忌日

  啄木忌いくたび職を替へてもや  安住敦

梅若忌、4月15日、謡曲「隅田川」の哀話の主、梅若丸の忌日

  語り伝へ謡ひ伝へて梅若忌  高浜虚子


夏の季語
万太郎忌(=傘雨忌)、5月6日、久保田万太郎の忌日

  あぢさゐの色には遠し傘雨の忌  鈴木真砂女

四迷忌、5月10日、二葉亭四迷の忌日

  四迷忌や夕浮雲の移りをり  秋元不死男

たかし忌(=、牡丹忌)、5月11日、松本たかしの忌日

  取出す遺愛の鼓牡丹忌  松本つや女

多佳子忌、5月29日、橋本多佳子の忌日

  田川にて足洗ひしよ多佳子の忌  平畑静塔

桜桃忌(=太宰忌)、6月19日、太宰治の忌日

  上水に大魚の影や桜桃忌  原田正一

業平忌、旧暦5月28日、在原業平の忌日

  老残のこと伝はらず業平忌  能村登四郎

茅舎忌、7月17日、川端茅舎の忌日

  茅舎忌や魚板を叩く雨しきり  磯崎美枝

秋桜子忌(=喜雨亭忌)、7月17日、水原秋桜子の忌日

  薄紅き酢漬けの生姜秋桜子忌  秋川ハルミ

河童忌(=餓鬼忌)、7月24日、芥川龍之介の忌日

  河童忌や水の涸れたる植木鉢  羽吹利夫

原爆忌(=広島忌、長崎忌)8月6日、8月9日、原爆が投下された日

  原爆の日の病む手足洗ひをり  石川桂郎


秋の季語
敗戦忌、8月15日、敗戦の詔勅が宣布された日

  落書きが紙幣にありて敗戦忌  土生重次

震災忌、9月1日、関東大震災が起こった日

  聞き伝へ語りつたへて震災忌  星野立子

西鶴忌、陰暦8月10日、井原西鶴の忌日

  町住の暑さもすでに西鶴忌  後藤夜半

子規忌(=糸瓜忌、獺祭忌)、9月19日、正岡子規の忌日

  いつも忌に横顔の子規老いし子規  山口誓子

去来忌、陰暦9月10日、向井去来の忌日

  去来忌や月の出に雨すこし降り  藤田湘子

蛇笏忌(=山盧忌、雲母忌)、10月3日、飯田蛇笏の忌日

  蛇笏忌の岩うつ滝の音聞ゆ  飯田龍太

日蓮忌、陰暦10月13日、日蓮上人の忌日

  山門の上に月あり日蓮忌  山口青邨


冬の季語
久女忌、1月21日、杉田久女の忌日

  ひたすらに何をもとめむ久女の忌  大橋敦子

蕪村忌(=春星忌)、陰暦12月25日

  蕪村忌やさみしう挿して正木の実  村上鬼城

草城忌、1月29日、日野草城の忌日

  ばら色のままに富士凍て草城忌  西東三鬼

翁忌(=時雨忌、桃青忌、芭蕉忌)、旧暦10月12日、松尾芭蕉の忌日

  芭蕉忌や鳩も雀も客の数  一茶

亜浪忌、11月11日、俳人臼田亜浪の忌日

  亜浪忌や叱られしことのなつかしく  大野林火

嵐雪忌、11月13日、俳人服部嵐雪の忌日

  老残の鶏頭臥しぬ嵐雪忌  石田波郷

波郷忌(=忍冬忌、風鶴忌、惜命忌)、11月21日、石田波郷の忌日

  波郷忌の四国の山が見えにけり  大串章

一葉忌、11月23日、樋口一葉の忌日

  あらひたる障子たてかけ一葉忌  久保田万太郎

三島忌(=憂国忌)、11月25日、三島由紀夫の忌日

  湯気噴いて鉄瓶たぎる憂国忌  高橋悦男

漱石忌、12月9日、夏目漱石の忌日

  本郷に赤門古りぬ漱石忌  松本澄江

一茶忌、陰暦11月19日、小林一茶の忌日

  一茶忌や親しきものに軒雀  福田蓼汀

近松忌(=巣林子忌)、旧暦11月22日、近松門左衛門の忌日

  けふもまた心中ありて近松忌  高浜虚子


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