風を詠んだ俳句      佐藤俊童

     

日本語には、気象に関する言葉が沢山ありますが、そのいずれもが麗しい響きを持ち、その時々の季節の情趣を豊かに表現しています。
例年9月ともなると台風が吹き荒れる時期ですので、今回は、「風」に関する季語を、歳時記から拾って勉強してみました。
出典「俳句月別歳時記(高橋悦男編:博友社)



★春の季語★

春一番 [傍題:春一、春二番、春三番、春四番]
立春を過ぎて初めて吹く強い南風。2月下旬から3月初め頃に吹く。

   胸ぐらに母受けとむる春一番  岸田稚魚

春北風(はるならひ) [傍題:春北風(春きた)]
 春になっても吹く寒い北風。

   あきなひの小物ならべて春北風  長谷川双魚

東風 [傍題:強東風、荒東風、朝東風、夕東風、梅東風、椿東風、桜東風]
 春になって東から吹いてくる風。雨を伴うことが多く寒気はゆるむが、春風というにはまだ寒い。

   裏がえる絵馬一つあり東風の宮  阿部みどり女

涅槃西風(ねはんにし) [傍題:彼岸西風、涅槃吹く]
 涅槃会の前後1週間ほど吹き続くやわらかい西風をいう。西方浄土からの迎え風と信じられている。

     おん瞼開け給へと涅槃西風  高橋利雄

春嵐 [傍題:春荒(はるあれ)、春疾風(はるはやて)、春はやち]
 春の強風。乾燥した烈風が吹きつづけ、巻き上げる砂塵で空が黄色く濁ることがある。

   春疾風石で押へる設計図  角田サチ

貝寄風 [傍題:貝寄、貝寄吹く、貝寄する風]
大阪四天王寺の聖霊会の筒花は、難波の浜に吹き寄せられた貝殻で作ったという謂れからこの頃吹く風をいう。

   貝寄や南紀の旅の笠一つ  飯田蛇笏

風光る [傍題:光風、風眩し、風かがやく]
 晴れた春の日に風が吹きわたると、あたりの風景が眩しく輝き、あたかも風が光っているように感じられる。

   吊橋を渡る青年風光る  梅田テ男

春風 [傍題:春の風、春風(しゅんぷう)]
 春は気象の変化が激しく疾風が吹きすさぶこともあるが、春風といえば駘蕩とした温和な風のことである。

   退院の一歩春風まとひけり  朝倉和江


★夏の季語★

黒南風(くろはえ) [傍題:荒南風、白南風]
 梅雨の頃に吹く黒雲を伴った南風。梅雨明けの頃の明るい南風を白南風という。

   黒南風や島山かけてうち暗み  高浜虚子

南風(なんぷう) [傍題:南風(みなみかぜ)、南風(みなみ)、南風(はえ)、南吹く]
 夏の季節風。風力は強くなく、気温、湿度が高い。

   雨降りて南吹くなり港町  高浜虚子

青嵐 [傍題:夏嵐、風青し]
 青葉の頃、森や草原の草木を吹き渡る強い風のこと。

   青あらし吹きぬけ思ひくつがへる  加藤楸邨

風薫る [傍題:薫風]
 夏の南風が緑の草木を渡ってきて匂うようなすがすがしさを感じさせてくれる。青嵐よりやわらかな風。

   揺り椅子を揺り薫風の庭にあり  福田蓼汀

朝凪
   海岸地方で夏の朝、風がまったくなくなる時のこと。

   朝凪やサハリンの影うつすらと  小川ユキ

夕凪
 海岸地方で、海風から陸風に変わる夏の夕方、風がはたと止む状態。大へん蒸し暑い。

   夕凪や素足にぬるき汐よせし  久保より江

風死す [傍題:風絶ゆ]
盛夏に、風がはたと途絶えて、耐えられない暑さになる。

   風死して鉛の色に湖たたへ   富安風生

土用凪
 土用中の、まったく風のない状態。蒸し暑く耐え難い。

   夕餉して居どこにまよふ土用凪  石塚友二


★秋の季語★

初嵐
 陰暦7月末から8月へかけて、台風期に入る前兆として、やや強い風が初めて吹くことをいう。

   空を飛ぶ鴉いびつや初嵐  高浜虚子

台風 [傍題:颱風、台風圏、台風の目、豆台風、時化、暴風雨]
昔は野分といったが、今はタイフーンの訳語としてこの語を用いる。二百十日。二百二十日前後に多い。

   颱風一過女がすがる赤電話  沢木欣一

野分(のわき) [傍題:野わけ、野分雲、野分後(のわきあと)、野分晴、野分吹く、野分過ぐ、夕野分、野分浪]
 秋の暴風のことで、野の草を吹き分けるほどの風という意味。主として台風やその余波の風をいう。

   野分過ぐ高圧線を唸らせて  神坂玉子

青北風(あおぎた)
   西日本で9月から10月にかけて、晴天の日に北から吹くかなり強い季節風のことをいう。

  青北風やカラオケハウスの窓ひとつ  栗山妙子

黍嵐(きびあらし)
   高々と茂っている黍に吹き付ける強風のことをいう。

   風の戸の鳴る暁や黍嵐  桂信子

秋風 [傍題:秋風(しうふう)、秋の風、金風、素風、爽籟、色無き風]
 秋は季節風の交替期で、定まった風位はない。日々冷気を加え、身に沁みて、そこはかとなく哀れをそそる。

   秋風や模様のちがふ皿二つ  原石鼎


★冬の季語★

 [傍題:木枯、夜凩]
 11月下旬に吹き、季の葉を落し裸にしてしまう強い風である。

   海に出て木枯帰るところなし  山口誓子

北風 [傍題:冬の風、朔風、寒風、北吹く(きたふく)、北下し(きたおろし)]
 冬吹く季節風のことである。

   北風にあらがふことを敢へてせじ  富安風生

空風(からかぜ) [傍題:空つ風(からつかぜ)、北颪(きたおろし)]
天気続きに吹く乾燥しきった寒風をいう。特に関東地方に多く、砂塵を捲き上げて吹く勢いはすさまじい。

   からつ風吹きて黒富士くつきりと  倉内法子

隙間風 
 壁や戸障子の隙間や破れ目から部屋へ入ってくる風のことをいう。

   かみ合はぬ話に黙す隙間風  加藤武夫

虎落笛(もがりぶえ)
 冬の烈風が柵、竹垣などに吹きつけて笛のような音を発するのをいう。

   虎落笛子供遊べる声消えて  高浜虚子

鎌鼬(かまいたち) [傍題:鎌風]
旋風などの際に、空気中に真空を生じて、人体がこれに触れると、鎌で切られたように傷つくことをいう。

   話には聞いてをりしが鎌鼬  高橋秋郊

冬凪(ふゆなぎ) [傍題:寒凪、凍凪]
 強い海風がはたと止んで凪ぎわたることをいう。

   冬凪といふと雖も浪の音  高浜虚子

初嵐 [傍題:春の初風、年の初風、初松籟]
 元日に吹く風のこと

  初松籟武蔵野の友数ふべし  石田波郷

初東風(はつこち) [傍題:初東風す、初東風渡る、節東風]
 新年になって初めて吹く東風のこと。

   初東風に沖黒潮の帯をひく  富安風生

初凪 
 元日の海に風がなく穏やかに凪ぎわたるのをいう。

   初凪の岩より舟に乗れといふ  川端茅舎

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