2002年Christmas企画作品 クリスマスの夜は熱く燃えて                                       とっと  このパーティーに快くご参加下さいましたみなさまに心よりお礼申し上げます。 §0.開店前 「リュウの方が背が高いんだから、やってよ」 「なんで俺が手伝わないといかんの? 俺は客だぞ?」  脚立に跨がり、天井に飾りつけを行っている僕を尻目に、悪友の酒匂蒼龍はカウンターで一人コーヒーを飲んでいる。カウンターに背を向け、寄り掛かるようにして踏ん反り返り、ご丁寧にカップを掲げて見せる。そんな彼の口から漏れるのは 「がんばんな! いそがねぇと間に合わねぇぞ」  とのありがたくも冷たい、形ばかりの励ましのお言葉。今年は楽できるかと思ったらば、オーナーが間際になって突然パーティー開くなんて言い出すもんだからコッチはてんてこ舞いだ。 「そう言えば、わたしも厳密にはここの従業員じゃないわよねぇ」  型紙とスプレーを使って、ウィンドウの飾りつけを行っていた榛名までが、ニヤニヤ笑みを浮かべながらそんな事を言い出す。思わず溜息が漏れたけれど、僕は榛名の発言を聞こえなかった事にして作業に戻った。今は一分でも時間が惜しい。榛名のおねだりを聞いている暇はない。でも、それがいけなかった。 「ふ〜ん、人がせっかく手伝ってあげてるのにそういう態度をとるんだ。那智黒は」  ギロリといった感じに榛名が睨む。脚立の上にいる僕を、下から見上げる格好になる為自然と上目づかいになり、結構な迫力を有している。 「リュウ、パーティー始まるまでどこか行こうか? 行き先は任せるから」 「俺が女の子を誘う場所は一つしかないぞ」  酒匂の奴はそう言うとニヤニヤしながら僕の方を見上げる。合わせるように榛名も。 「ハイハイ。そのくらいにしといてくれると嬉しいね。僕を苛めるのは。大体リュウのその言動は誰かを思い起こさせるんだけど……」  僕の言葉に彼はすごく複雑な顔をし、榛名は笑い転げる。 「たしかに……あの人もそうかもね」 「俺はそこまで節操なしじゃない。第一俺は人のモンには手を出さん!」  そう言って口を尖らせるリュウに僕は頷き返す。たしかに彼の方がまだ、節度があるかも。 「なんか激しく誤解されてるよな。」  気がつくと、扉のところに黒い影が……いや、影じゃなくて黒いコートを羽織った男が立っていた。ご丁寧に高くあげた片手がカウベルを抑えている。 「TERUさん、いらっしゃいませ」  扉のところにクリス・竜一よろしく、格好をつけて立っている男を僕はにこやかに向かい入れた。ちなみにクリス・竜一とは彼の書いた作品「JunkCity」の主役の名前だ。凄腕かもしれないが、それ以上に女好きの探偵だ。個人的には彼が一番TERUさんに近いと思っている。普段から同じ格好をしている辺り、本人もそう思っているんじゃないだろうか? 「すみません。せっかくいらして頂いたんですけど、まだ準備中なんですが……」  僕がそう言うと彼は一通り店内を見回し、納得いったように頷いた。 「どうりで。ハニーたちがいないんでどうした事かと思っていたんだ」  ハニーたち? 彼の言葉を聞いて僕は彼のいうところの「ハニーたち」が此処にいなかった事に胸をなで下ろす。いたらきっとせっかく準備している飾りつけがパーになるところだ。何故パーになるかって? それは賢明なる常連の皆さんにはわかっている事だと思うけど……。 「仕方がない、もう少しどこかで時間を潰してこようか。どこに行きたい?」  気がつくとTERUさんは既に榛名の隣に立ち、肩に手を回している。抜け目のない人だ。でも、感心している場合じゃない。僕のこめかみに青筋が浮かぶ。 「TERUさん、榛名に手を出したら二度と店の敷居またがせませんよ」  必殺「聞こえない振り」。TERUさんはいつのまにかだー坊の得意技を身につけていたようだ。自分にとって都合の悪い事は全て聞こえなかった事にする。 「わたしも一緒に? どこにつれていってくれるの?」 「僕が女性を誘う場所は決まっている」  コラコラ、榛名までノルんじゃない! ついでにTERUさん、その台詞さっき、誰かがいったのとまったく同じだぞ。彼の言動を見て、僕は彼に対する認識に誤解は一切ない事を再確認した。 「TERUさん、あなたのハニーたちに言いつけますよ」  僕の言葉に対し、いまだ持って聞こえないふりをする彼。TERUさん、榛名の手を握り、腰に手を回すののはやめなさい。でも顔の横を汗が流れ落ちるのが見えた。 「君もきっとわかるよ。マスターよりもいい男がこの世に存在するってことをね。明日の朝には君の口から紡ぎ出して見せるよ。また会ってねって言葉を。みんなそう言うんだから」  朝まで榛名を持ち出すつもりかい! という突っ込みは彼がお客さんである為にとりあえず飲み込む。榛名はおかしそうに笑いながら彼の口説き文句を聞いている。時折僕の方に視線を向けながら。こいつ、また悪い癖がでたな。でもまあ、それならばこちらも安心していられるといいたいところだけれど、相手が彼だと…… 「TERUさん、ガキは嫌いなんじゃなかったんですか?」  僕の持てる止めの一発。これでダメなら黒服部隊だ。でもこの一言は思わぬ反響があった。予定外のところから。 「ちょっと、那智黒! ガキって誰の事よ、ガキって!」  今度は僕のこめかみを冷たいものが流れ落ちる番だった。 「い……いや、それは言葉の綾というか……つい口が滑ったと言うか……」 「マスターも修行が足りないな。まだまだ青い」 「部外者は口をはさまないで!」  榛名の剣幕にTERUさんは肩をすくめた。 「それじゃあ、今まで君を口説いていた僕の立場は?」 「ガキは嫌いなんでしょ!」 「とんでもない。僕は世の中のすべての女性を均等に愛すだけだよ」  大げさに両手を広げて嘆いて見せる彼に僕が一言。 「でも、アダルトな女性が好きなんですよね」 「そう、アダルトな女性だとあんな、ことやこんな事や、あまつさえそんな事までも……って何言わす!」 「わかってますよ。博愛主義者なんでしょ。女性に関してのみ」 「そうだよマスター。ただどちらかと言うと大人の女性の方が好みなだけだ」 「でも、今は此処に大人の女性は一人もいない」 「そうそう、だからこの際ガキでもいいやと……」  再びTERUは冷汗を浮かべる。隣ではにこやかな笑みを浮かべる榛名。でもその手には……。 「どわぁ〜! いつのまにそんなものを……、いや一体どこから」  TERUさんがそうのたまった瞬間、彼の背後に人影が。 「こう言う事もあろうかと、わたしが護身用にあげたのよ」 いきなり、降って湧いたようにTERUさんの背後に現れるshionさん。 「ああ、shionさん、いらっしゃいませ」  困惑気味に彼女を迎える僕に手帳のようなものを突き出して一言。 「東京PD」  あの〜、ここは東京ではありません。従って管轄外です。いや、それ以前にこの人まだやってるの? 結城詩音を。  ちなみに初めての方の為に一言。「結城詩音」はTERUさんが、shionさんのバースデイ企画への参加作品として書いた「スターシード [STARSEED]」のヒロインです。INNOCENTさんとScript1さんで公開されています。  ますます困惑する僕を余所に彼女はいきなりTERUさんの手を取るとガシャリ。 「TERU! 婦女誘惑未遂容疑で逮捕する!」  そんな名前の犯罪あるのだろうか? まぁ僕にしてみれば充分に犯罪に値すると思うから突っ込まないけれど。彼の手は冷たい金属の輪にからめ捕られた。そして突き出されたその両手の上に榛名がshionさんから貰ったという物を乗せる。瞬時に引きつるTERUさん。 「い……いやだなぁ、ハニー。僕がこんなお子さまを本気で相手する訳ないじゃないか。ジョークだよ、ジョーク。だから早くこの手の上のものを退けてくれないか」  あ、TERUさん、地雷踏んだ。榛名の手に力が入る。彼女の手の中にあるものが渾身の力で握りつぶされ、彼は火柱に包まれた。僕はカウンターの影で深いため息をつく。爆風の納まった店内の状況は推して知るべしだ。 §1.千客万来  ボツボツお客さんが集まろうと言う時間になってようやく僕らの店はパーティーの準備を終えた。店内の内装に関しては若干不本意ながらも店内をメチャメチャにした現況の方々にご協力いただく事にしてようやくと言った感じだった。本来ならどんなお客さんでも、それはお客さんには変わりない事で、とてもそんな事をさせるわけにはいかないのだけれど、どうにも時間がなかったんだ。でも、後でその事を死ぬほど公開する事になろうとは、僕は思いもしなかった。  カラン!  ようやく一息ついたところでカウベルが鳴る。 「なっちゃん、支度済んだ?」  BUTAPENさんの登場だ。 「はい、一応全部済みました。いつでもOKですよ」  僕の返事に頷きながらBUTAPENさんはカウンターの中に入ってくる。あれあれ? と思うまもなく彼女は割烹着を身につけるとそのままお燗を付ける準備を始める。コンロにも鍋を掛け……中身はおでん? 「あの〜BUTAPENさん? 勝手にカウンターの中に入られちゃ困るんですけど……」  僕の言葉を無視するかのようにBUTAPENさん具を煮込む。 「なっちゃん、お出汁これでどう?」  差し出されたおたまを無意識のうちにすすってしまい「おいしいです」。 「よかった。それじゃあ、そろそろ皆さんお集まりになるだろうから配膳の準備、おねがいね」 「はい、女将さん……」  なんで、こうなるんだろう? 女将さんことBUTAPENさんに言われて僕が配膳の準備をし出すと再びカウベルが鳴った。 『いらっしゃいませ』 何故か声を揃えてしまう、僕とBUTAPENさん。あの〜、ここは僕のお店なんですけど。  中に入ってきたのはバーバーリーのトレンチコートに身を包んだ恰幅のいい男。 「ぺんじろうさん、いらっしゃいませ。お待ちしていました。」  僕はちょっと緊張気味にお出迎えをする。キリッと引き締まった表情が現役軍人である事を示している。でも、彼は僕には目もくれず、いつのまにか隣に並んだ榛名を抱擁。その頬にKiss。 「……」 薔薇の花束を手渡されて、榛名は頬を染める。 「さすがジェントルマン。女性にやさしいのね」  そう言うと榛名は僕の方を意味ありげにちらりと見た後、カウンター席の端で女将さんと話し込んでいるTERUさんに視線を向ける。 「格好つけて女の子を口説くのもいいけれど、これくらいスマートにやらなきゃね」  榛名の言葉に頷く男二人。 「僕は、英国スタイルだから。彼はきっとイタリアンなんだろう」  簡潔且つ、明確な説明に大きく頷く一同と、目をパチクリし、何事か訝しがる約一名。 「とにかくご招待ありがとう」 そう言ってぺんじろうさんは手を差し出してくる。 「とんでもない。ご来店、歓迎します」 僕も手をだし、がっちりと握手……手がつぶれる。 「鍛え方が足りないぞ」  ぺんじろうさんは胸を突き出して笑う。体格のいい人だとは思っていたけれど、こんなに鳩胸だったっけ?  僕がそう思った瞬間、その胸元からひょっこり顔をだしたものがある。 「にゃ〜」  あ、猫だ。 「そう言えば忘れていた。さっきそこで凍えそうになっていたのを拾ったんだけど、これにミルクでも貰えるだろうか?」  そう言いながら彼は懐から猫を取り出す。あれ? この猫尻尾が二本……。 「あーあんまり暖かいから思わず寝ちゃった」 猫が喋った。そう驚くまもなく身の丈がニューと伸びて、いつのまにか渡辺謙……もとい、人間の女性が現れる。 「猫又さん……いらっしゃいませ。変わったご来店方法ですね」  苦笑する僕に照れ笑いを浮かべる彼女。 「外、すごく寒いんですよ〜 猫にはとっても堪えるんですから」  猫又さんはそう言いながら大きく伸びをする。背中をそらせずに、丸くして伸びるところが猫だな。僕は二人を席に案内すると、また配膳の準備を進める。 「なんかちょっと仮装パーティー見たいになってきたわね」 暖房の効いた店内で黒のコート羽織るTERUさんに、結城詩音に扮したままのshionさん、割烹着を着込んだBUTAPENさんに、妖怪ルックの猫又さん、そしてぺんじろうさんは……いつのまにかバーバーリーのトレンチコートを脱ぎ去り、ピンストライプのスーツに黒のチェルシーブーツと言う出で立ちになっている。ひょっとしてこれが一着十数万の制服という奴なのだろうか? そう言えば帽子も一万数千円すると言っていたっけ?  こうしてみると、仮装じゃないけど、やっぱり外から見れば仮装パーティーにしか見えないかもしれないと僕は思うのだった。そんな時にこれまた仮装しているとしか思えないお姿のお客さん到着。寒風にさらされてすっかりゴワゴワに固まってしまった白い物体 「朧豆腐さん? いらっしゃいませ。大丈夫ですか?」 「ああ、マスター今晩は。すみませんが少し水足してください」  そう言われて水差しをとろうとしたら榛名が既に準備してくれていた。気が利くじゃないか、そう思い彼の頭の上で水差しを傾けると、そこからは黒い液体が…… 「豆腐にはお水より、お醤油でしょ」  榛名、そこで屈託なく笑わないように。お客さんを食べちゃいけません。 「ところでこの豆腐が担いでいるのが今夜のメインディッシュか?」  それまで忘れ去られていたかのような存在だったリュウが自己主張するかのように朧さんの背後から声をかける。でも朧さんに隠れて姿が見えないのがミソ。でもその朧さんが担いでいるものに興味が惹かれて背後に回ると……  そこには朧さんに突き刺さるかのように伸びた棒とそれに四肢を結わえられて逆さにぶら下がる鹿の子さんトナカイバージョン。この人またつかまっているよ。 「その辺ウロウロしていたから御馳走の足しになるかと思って捕まえたんですよ」  鹿の子さんは朧さんの言葉に瞳をウルウルさせながらイヤイヤするように首を振る。僕は溜息を付きながら鹿の子さんの手足を縛っている荒縄を解くと、朧さんに言った。 「すみません。この人もお客さんです」  仮装パーティーもどきのChristmasパーティー会場に本当の仮装者が現れた。  床に下ろされた鹿の子さんは着ぐるみに包まれた蹄の手でやっぱり着ぐるみのトナカイの頭を掻く。 「また、捕縛されちゃいました〜。てへ」  てへじゃないだろう。そう思いながらも僕は鹿の子さんを迎え入れる。 「いらっしゃいませ、鹿の子さん」  でも彼女は僕の挨拶をまったく無視し、奥の方へとテトテトと駆けてゆく。 「あ〜、ぺんじろうさんだ〜」 「……」  ああ、この店で僕の存在意義って……。なんかのっけからどっと疲れるんですけど。  首を振りながらカウンターの中に戻ろうとする僕に、背後から朧さんの声が。 「あの〜、我が輩は一体どこに座れば?」  すっかり忘れていたよ。どうしよう……。 §2.パーティー開始  床に紙皿を敷きつめて朧豆腐さんの席を確保したところでパーティー開始。  乾杯の為のシャンパンを配り始めると、shionさんもなにやらみんなに配り始める。 「shionさん、それって……」 「ああ、マスター安心してただのクラッカーよ」  あの、shionさん、僕の目にはどう見ても黒光りするそれがただのクラッカーには見えないんですけど。  気がつけば鹿の子さんもせっせ、せっせとなにか配り歩いている。 「あの〜、鹿の子さん?」  見ればそれはキャラクターのついたポケットティッシュ。こんな処でまでバイトですか? 鹿の子さん。  POM! POM! POM!  シャンパンの蓋があちこちで勢いよく飛び出す。そして乾杯の音頭の後はクラッカー……  shionさんに手渡された「ただのクラッカー」の紐を誰もが引っ張る事に躊躇している。その場にいる全員……いや、一人を除く全員のこめかみに冷汗が浮かぶ。各人が考えている事はただ一つ。それが本当のクラッカーの様に先端に向かって火を噴くのか、それとも自分の方に向かって破裂するのか。疑心暗鬼になりながら、お互いを見回す常連客にshionさんが何とも言えない笑みを浮かべる。 「メリークリスマス!」  そう言ってshionさんがクラッカーの紐を引っ張る。  ちゅどーん!  見事に黒こげになるshionさん。でも爆破はそれだけに止まらなかった。  ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん! ちゅどーん!  人数の分だけ爆破が起こる。店内はもうもうとした煙に包まれた。 「これ、マスタースイッチになっているのよね」  クラッカー?の残骸を片手にshionさんがそう言った。彼女だからこそできる体を張ったパフォーマンス。煙が晴れると黒こげになった8人と粉々になって店中に散らばった1名。あれ? 一人足りない。そう思ったらテーブルの下で震えている猫が一匹……。おいしいなぁ。どうやってあの爆発から逃れたのかは知らないけれど。  さて、粉々になってしまった朧さんをどうしようと僕が思案に暮れていると外がなにかにぎやかに。  ちん! どん! じゃらんの鐘の音と共に外に十字の影が……。表にでてみると、台座に据えられた磔台を引っ張る女性が約一名。 「ちょっと遅刻しちゃいましたね」  旅館の仲居とおぼしき女性がこの寒空に額に汗を浮かべながらニッコリ微笑んだ。この鐘は朧さんの葬儀じゃないよね。そう思い上を見上げるとそこには白装束に身を包み、十字に縛りつけられた明葵さんがいた。 「明葵さん、いらっしゃいませ。またですか?」  彼は温泉旅館のオーナーなのによく、自分のところの従業員に磔にされる。思えば、自分のところでは磔、此処にくれば爆発、悲惨な目にあってばかりいるよね、この人。でもまぁ、それを楽しんでいる節もあるからまぁいいか。  そんな明葵さんは僕の問いかけに一言。 「さ、寒い……」 「それなら温めてさしあげますわ。ついでにそこから下ろしても」  明葵さんの言葉を聞いたshionさんががぜん張り切り出す。磔台の根元に大小様々な爆弾を並べ始める。中にはドラム缶のようなものや、明らかに航空爆弾と思われるものまで含まれている。一体、どこからこんなもん持ってきたんだ? この人。 「では、仕上げは私が」  shionさんがあらかた爆弾を設置し終えた段階で、ぺんじろうさんが一歩前に進み出る。その手には拳銃が握られていた。 「ちょ、ちょっとわたしのたのしみをとら……」  shionさんが止めるまもなく、引き金が引かれ、轟音と共に目の前が真っ白になる。煙が晴れた時、そこに明葵さんの姿はなかった。 「ハニー、ちょっとやりすぎなんじゃぁ……」  額に汗を浮かべながらTERUさんも苦笑い。BUTAPENさんと鹿の子さんは空を見上げながらキャイキャイ言っている。 「H2ロケットより早いかも」 「シャトルじゃないと行きっぱなしで帰って来れないんじゃない?」  僕はまた、深くため息をつく。と、その足元で猫又さんがひっくり返っていた。口から泡吹いているよ、この人。そう言えば狸の狸寝入りも、あれはネタ振り……もとい、寝た振りじゃなくて本当に失神するんだって聞いた事あるなぁ。とりあえずこんな処で寝ていたら風邪ひくね。そう思って彼女を中に運び入れる為に手を借りようと辺りを見回すと……。 「あらあら、明葵さんお星さまになっちゃったわね。本当はわたしの手で引導を渡してあげるつもりだったのに。この燃えたぎる使命感を私はどこへ持っていけばいいのかしら」  shionさんが不敵な笑みを浮かべながらぺんじろうさんに近づく。ああ、二人目……いや三人目の犠牲者がでそうな気配。これを止められるのはTERUさんだけか。そう思って彼に声をかけようとしたら姿が見えない。彼はいつのまにか僕の足元に跪いている。 「猫又さん、今王子様が眠りから目を覚ましてあげますよ」  TERUさんの顔が猫又さんに近づく。その瞬間僕の足元が炎に包まれる。 「ダーリン、なかなか楽しい事してくれているじゃない。」  すっかり焦げた黒コートの上にピンヒールの踵が……あの、shionさん、あなたは今、ぺんじろうさんと対峙なされていたのでは?  見ればぺんじろうさんはいつのまに背負わされたのか、大きなバックパックと格闘している。 「そっちも逃がさないわよ」  そう言うとshionさんは手の中のスイッチを一押し。ぺんじろうさんの背負ったバックパックが火を噴く。  ああ、ぺんじろうさん、海上勤務から、航空勤務に鞍替えだ。そう思った瞬間、ごち〜ん! という大きな音と共に彼は墜落した。いや、彼等は。飛ぶだけ飛んで帰って来た明葵さんと空中接触したみたいだった。  僕は深い溜息と共に屍累々の表を去り、店内に戻った。そこはやっぱり飛び散った朧さんの白い破片がいまだ健在で、僕は肩を落とす。カウンターでは表の騒ぎを余所に榛名とリュウがこれ幸とばかりにシャンパンを飲みあさり、すっかり出来上がっている。 「あ〜、那智黒! どこ言っていたのよぉ。あなたもこっちにきて飲みなさいよぉ」  グラス片手に真っ赤な顔をして管を巻く彼女を無視して僕は朧さんの破片を拾い集めるのだった。 §3.某ホテル内  実は僕も知らなかったのだけれども、このパーティー、もう一つ別の場所にも会場が設置されていた。いや、設置したのは僕じゃなくてお客さんの一人。彼はハイテク機器を利用してこのもう一つのパーティー会場である市内の某ホテルの一室から、店内の様子を盗み見ていたのだそうだ。  窓際に並べられた大小様々な望遠鏡や赤外線スコープ。ポイント集音機、サーモグラフィー、盗聴器等々ハイテク機器に囲まれながら覗き常習犯……いや、自分の身の安全を第一に計っている彼、ひらさんはルームサービスのピザにかぶりつきながら一人じっと吾眠店内の様子を伺っていた。  全ては後から効いた話ではあるのだけれど、これじゃパーティーに参加しているとはいえないよねぇ。ひらさん、こっちに来ればターキーをはじめ、いろんな料理があるよぉ!  室内に設置されているスピーカーから爆音が響きわたるたびに彼は自分の選択が正しかった事を確信する。店内は時折、イルミネーションとは違った閃光に包まれ、このホテルの一室から眺めているだけでも、異常な盛り上がりを見せていることがわかる。彼はそんな様子をスケッチしながら新しい版画のデザインを考えていた。既にタイトルだけは決まっている。「Mad Christmas Party」。端から見ていてもそこが狂気に満たされている事が充分見て取れるのだから。 『あれ? これなんでしょう?』  その時マイクから不思議そうな声が漏れる。その途端ザザっとこすれるような音がして、一切の音が聞こえなくなった。  しまった。仕掛けておいたマイクに気付かれたか? ひらさんはその時そう思ったと言う。で、音が途絶えたので壊れたのかと思い、試しにボリュームをあげてみる。するとゴソゴソというノイズのような音を少し拾った。どうやら音を拾いにくい場所に捨てられたのであろう。仕方ない。もうしばらく様子を見る事にするか。 『あん、ダーリンたら、どこ触っているの……』 『大丈夫。誰も見ていないって』 『でも、ダメ。みんないるのよ、あん……』  微かに聞こえてくる妖しい声にかれは耳を澄ます。ヘッドフォンを当て、生唾を飲み込みながらボリュームを最大にして聞こえてくる声に耳を傾けた。その途端 ギャ〜〜〜ン!  ものすごいハウリングの音。彼は目を回してその場に倒れたのであった。 §4.吾眠店内  僕が散らばった朧さんをかき集めていると、復活したみんながどやどやと店内に戻ってきた。 「あ〜あ、ひどいありさまね」 「ちょっとマスター、料理にまで朧豆腐さん、侵入しているよ」 「なっちゃん、このおでんも作り直しね。朧さんが煮えちゃってる」  みんな勝手な事を口にしながら、それでも片づけを手伝ってくれた。でも……ひょっとして僕、料理全部作り直しですか?  僕の疑問に皆はありがたいお言葉で答えてくれた。 「大丈夫ですよぉ。マスターが料理し直している間、みんなで朧さんを直して待ってますから」  ちょっと真剣にトナカイ料理にチャレンジしてみようかと思った瞬間だった。  気を取り直してカウンターの中に入る僕ってとっても健気かも。手伝ってもらおうにも榛名は既に出来上がっちゃっていて使い物にならないし。あっ、コラ! TERUさんにしなだれかかるんじゃない。妊娠するぞ! 「マスターは誤解している」  榛名を引き剥がす僕にTERUさんは渋く声を落してそう言った。でもね、TERUさん、爆発の余波でアフロになってるんですけど。 「僕はそれほど誤解しているとは思っていませんけど」 「僕は触っただけで女性を妊娠させる様な特殊能力はない。そしてそれ以前に避妊には大変気をつかっている」 「なるほど……ってそういう問題かい!」  さすが関西人。明葵さんが僕よりも素早く突っ込む。 「ぼく、えらいわね。ちゃんと女性に対しての気遣いは忘れていないのね。避妊は大切よ」  とはBUTAPENさん。TERUさんをぼく扱いしちゃう辺りもすごいけど、キリスト教って避妊ありだっけ? あれはカソリックだけか?  とにもかくにもぼくは榛名をこの危険な場所から隔離すべく、奥に連れて行くと大急ぎでおじゃんになったクリスマス用の御馳走の作り直しに取りかかる。BUTAPENさんも女将さんよろしく、おでんを煮直しながら、お酌したりして間を繋いでくれたりして。で、みんなは一杯引っかけながら朧さんを回収。 「ところでこれ、どうする?」  回収し終えた朧さんの残骸の前でみんなは途方に暮れていた。 「とりあえず、お皿に盛って……お醤油欲しいですね」  角をフリフリ鹿の子さん。 「いっその事鍋で全部煮ちゃったら?」 「え〜、崩れちゃっていて拾えないよ〜」  ぺんじろうさんの提案に猫又さんが突っ込む。  しかし、みんなそれって食べる相談しかしていないんじゃァ…… 「こんな姿でいると言う事は、この人も妖怪の一種なんじゃないかな? だったら猫又さんなんとかできない?」 「種族が違うから無理です。そういうTERUさんこそ、妖怪OKの人でしょ? なにか方法ないんですか?」 「型にはめたらどう? でもこれだけあると一体何丁できることやら……」  喧々轟々と意見がかわされる中、一人こっそり朧さんを救っては口に運ぶ鹿の子さん。  ガリ! 「あれ? これなんでしょう」  彼女の口からボタン型の金属が現れる。それを見たTERUさんがそっとそれを受け取る。人指し指を口に当て、みんなに喋らないように指示をだし、ハンカチにくるんだ。 「盗聴器だ……」 「ダーリン、一目でよく分かったわねぇ。それも探偵物とか書いているおかげ?」 「も、もちろんだとも……一つのお話しを書く為にはいろんな調査が必要なんだよ」  何故かちょっと焦っている。まさかこの人も盗聴とかしてるんじゃないよね? 「でも、どうでもいいけどいつまでマイスウィートポテトの手を握っているつもりかしら?」  見ればTERUさん、盗聴器を受け取った時から鹿の子さんの手を握ったままだ。ただし蹄がついた手だけれども。この人こんな手でどうやって食事するつもりなんだろう? 「ああ、盗聴器に気を取られていたのと、君に見とれていたのですっかり忘れていた。いやだなぁ、ハニー。僕が君のスウィートポテトに手を出すわけがないじゃないか」  TERUさん、顔が引きつっているよ。そう言うのは不安を顔にだしちゃだめだ。って僕がそんな事をTERUさんに指南できる立場じゃなかったね。  で、結局誰が盗聴器を仕掛けたのかって言う話になったんだけれども、こんな事をする人は一人しかいない。それでTERUさんとshionさんが悪戯を始めた。ハンカチにくるんだままの盗聴器に向かってお芝居を始める。 「あん、ダーリンたら、どこ触っているの……」 「大丈夫。誰も見ていないって」 「でも、ダメ。みんないるのよ、あん……」  大してアルコールも入っていないのにノリノリだよこの人たち。二人はお芝居を続けながら店内に用意したカラオケセットのところへ近づく。そしてスピーカーに盗聴器を張り付けるとボリュームを最大にしてマイクをスピーカーに近づける。  ギャ〜〜〜ン!  店内にものすごい音がこだまする。思わずぼくも耳を塞いだ。それでもクリティカルヒット一歩手前というようなダメージを受ける。店内は屍累々。悪戯を試みた二人も目を回している。この人たち、こういう結果をまったく予想していなかったのか? 自分たちの方が死んでるじゃないか。これでひらさんのほうがなんともなかったらお笑い種だね。 §5.全員復活・勢ぞろい  結局みんなが復活したのは1時間後だった。おかげでなんとか料理も間に合い、皆が食事にありつけることとなる。朧さんは皆の手で二つの団子状に固められ、上下に据えられたところで復活した。 『わ〜い、雪だるま』  豆腐達磨の周囲を猫と鹿が跳ね回る。それに合わせて朧さんもグルグルと回る。なんか前よりフットワーク軽くない? 「球体になったんで回転するのは楽なんですけど、前後左右には踏ん張りが効かなくて動けないんですよ」  朧さんはそう言いながら、斜めになってグルグル回り、遠心力で移動する。 「あ〜、回転止めるにはどうしたらいいんだろう?」  その言葉に一同はギョッとする。すぐ側にいた猫又さんと鹿の子さんがそのまま弾き飛ばされて壁に激突。オブジェと化す。足から壁に突っ込んだ鹿の子さんはまさにトロフィーそのもの。額に入れたいような出来ばえとなった。 「だ〜れ〜か〜、助けてくださ〜い〜」  壁から頭と手の先だけを突き出して鹿の子さんが情けない声を出す。 「これ、このまま此処に飾っておいたら?」 「なかなかいい味出しているんじゃないかしら?」  皆口々に感想を述べるものの、助け出そうと言う者は一人もいなかった。  一方、鹿の子さんとは反対側の壁に飛ばされた猫又さんはアニメキャラよろしくまっ平らになって壁にへばりついていた。 「昔、シャツと一体化した平面蛙の漫画があったよなぁ」  ぺんじろうさんが、猫又さんの背中を見ながら感慨深そうに呟く。 「なんかムートンみたいだなぁ」 「あっしは床に敷く虎の毛皮を連想させられるけど」  そう言いながら男共はその背中を撫で撫で……。途端にそこの毛が逆立つ。  ふぎゃ〜!  あ、猫又さん復活。 「私に触っていいのはダーリンだけなんだからぁ!」  バリバリという効果音よろしく、三人の男は顔に立て筋を作っていた。あ〜あ、猫又さん、泣いちゃったよ。 「ダーリン、ごめんなさい」  騒動が続きながらもなんとか進行していくパーティー。 「女将さん、もう一本!」 「ぺんちゃん強いわね、それ十本目よ」 「現役軍人たるもの、これしきの酒には飲まれませんよ」 「マスター、お代わり」 「またバーボンですか? クリスマスらしくシャンパンにしといたらいいのに」 「この店は客の飲み物にケチ付けるのか?」 「そう言うわけじゃないですけどね」 「しゃちょ〜、フルーツとっていい?」 「あの〜榛名さん。あっしは社長じゃないんですけど……」 「だって温泉旅館の社長でしょ?」 「いや、だからオーナー……」 「細かい事気にしちゃだめ。ねぇしゃちょ〜、いいでしょ?」  榛名の奴はまだアルコールが残っているなぁ。弱いくせに飲みたがるんだから……。 「マスター、この馬刺しおいしいですぅ」 「いや、鹿の子さん、それ鹿刺し……」 「……」(冷汗) 「ふぅ、ふぅ」 「猫又さん、そんなことしたらせっかくのスープが冷めちゃいますよ」 「だって、これ熱いんだもん」 「コールドスープと取り替えましょうか?」 「そうしてくれる?」  妖怪でもやっぱり猫舌なんだなぁ……。 「そっちの猫ちゃんもおでんどう? 爆弾とかおいしいわよ」 「ヒー! え、遠慮しときます」  あ、テーブルのしたに隠れちゃった。猫又さん、爆弾ってshionさんのじゃなくておでんのネタだってば。また、一族の長に怒られちゃうよ。それでも妖怪かって。 「私は人間として暮らすって決めてるからいいの〜。ああ、早く人間になりた〜い。だ〜りん!」  あんたは妖怪人間かい……、それとも角の生えた宇宙人かい。  そんな喧騒の中、一人スクッと立ち上がる人物があった。 「やっぱりせっかくのパーティーに招待されながら、やってこない人がいるのは許せない!」  shionさんはそう言うと懐から一本の筒を取り出した。 「ハニー。一体それはなんだい? 新手の爆弾か?」 「失礼ね、ただの花火よ。魔術弾ってほら色とりどりの玉が連続で飛び出す奴があるでしょう?」  本当にただの花火なのだろうか? 皆が訝しがる。この人がただの花火を脈絡もなく此処で取り出すとは思えない。 「あの〜、筒にWBの文字が見えるんですけど」  そっと突っ込む朧さんにshionさんが筒の先を向ける。 「朧さん、もう一度散ってみる? 今度はグラマラスな女性体にでも固めてさしあげましょうか?」  ニッコリ微笑むshionさん。朧さんはあわててクルクル回りながら逃げ去り、勢い余って数人を弾き飛ばしながら窓にへばりついて止まった。 「WBって……映画会社じゃないですか……」 ぼくの言葉にもshionさんはニッコリ。 「そう、映画会社の作った花火。面白そうでしょ」 「あの……店内でのこれ以上のテロ行為は……」 「まぁ、見てなさいって」  僕の哀願も聞き入れることなくshionさんは筒に火をつける。導火線を火が伝わり筒の中へ…… 「……」 「……」  でも何事も起こらない。 「へんねぇ」  そう言ってshionさんが筒を覗き込んだ瞬間。  POM! POM! POM! POM!  筒から火の玉が飛び出し始めた。まぁ、お約束だな。トムとジェリー辺りでは定番のギャグだ。WB製の花火ならこれくらいの事はありだよね。  shionさんは顔面に火の玉の直撃を受けのけぞる。でも次の瞬間にはもう復活。 「お前たち、ホテルでこの部屋を覗き見している男をつれておいで!」  号令一下、花火達は窓を突き破り、夜の虚空へと消えて行った。そして僕は電卓を弾く。作り直した料理の代金に加え、窓ガラスの修理代。もう完全に足がでてるよなァ。  ものの5分もしないうちに店の前を一陣の風が吹き抜ける。その後からハラハラとこぼれ落ちる画用紙。それには食卓を囲む僕らの絵。ただ、一人の女性が僕のお皿に黒い球体を載せようとしているけれど……。  拾った絵を眺めていると風が右に左にと何度も吹き抜ける。黒い影の後ろを色とりどりの火の玉が追いかけてゆく。拾い集めた画用紙を手に、ぼくの視線は右に左にキョロキョロ。でも、次の瞬間には背後に人の気配を感じ、僕の目の前で色とりどりの火花が散った。そして僕の中で時間が止まったのだった。 §6.プレゼント交換  僕が目を覚ました時、時計はさらに一時間進んでいた。 「マスター、鍛え方が足らないな。一時間も寝ているとは立派な職場放棄だぞ」  目を覚ました途端、ぺんじろうさんから一括される。 「ぺんじろうさんだって、一時間寝てたじゃないですか」  と言う僕の言い分も一蹴された。 「僕は客だから寝ていても問題ない。でもマスターが寝るのは客に対して失礼じゃないか。だいいち僕の場合は不慮の事故に寄るものだ」  あの〜、僕の場合も不慮の事故によるものなんですけどと言う突っ込みは、さらなるお叱りを引き出しそうな気がして引っ込めた。 「わかりました。申し訳ありません。今後どの様な場合でも寝てしまわないように努力します」 「努力しなくていいから。結果さえ出せば」 「……」  この人たしか部下にもこんな事言っていたよなァ。 「マスタ〜、もう料理ないんだけど……」  ようやく正気に戻った僕に駆けられる無情な声。そんな極悪非道な客はと振り返れば、残った料理をみんな抱え込み、一人食べているのはひらさん。なんであなたは無事なんですか……。  恨めしそうに彼の事を僕が見ていると、いきなりパンパンと手が叩かれる。 「さて、皆さん。ご歓談中申し訳ないですけど、お時間が押して參りました。此処で恒例のプレゼント交換を行いたいと思います」  あの〜、榛名さん、君、いつのまに復活したんですか? そしてなんで君が仕切ってるんですか?  とは言うものの、たしかに時間が押している。みんな交代交代で気絶していたんだから、進行が遅れるのは当然か…… 「さあ、皆さん。各人自分のプレゼントを持って輪になってくださ〜い!」  榛名の音頭で皆がぞろぞろと席を立ち、テーブルを避けるようにして輪になる。狭い店内の事で円とは呼べないほどいびつではあるけれど、どうにか隣の人と手をつなげるくらいの距離をおいて皆が繋がった。それぞれが手にプレゼントの包まれた箱や袋を持っている。 「ハ、ハニー……そのプレゼントずいぶん重たそうだけど……」 「わたしの愛情がいっぱいつまっているからよ。ぜひともダーリンのところに届いてほしいわね」  TERUさん、顔が引きつっているよ。どう見てもお約束だもんね。あのプレゼント。  でも……shionさんのは中身が想像つくけど、他のみんなも結構怖い気がする。ぺんじろうさんとかもプレゼント片手に不穏な笑みを浮かべているし、鹿の子さんなんかも瞳を輝かせている。客の顔をぐるっと見回しながら僕はこの中なら明葵さんからのプレゼントが一番いいかもと思った。多分一番無難そうだし。無茶する人じゃないからなぁ。 「それじゃあ、歌に合わせて順繰りに隣の人にプレゼントを回して言ってください。歌が終わった時に手に持っているものがあなたへのプレゼントになります。ちなみにご自分で持ってきたものがあたった場合はもう一度やり直しです」  完全に進行を榛名に握られちゃってるよ。僕。 「歌は鹿の子さんにちなんで赤鼻のトナカイです。それじゃあ行きますよ。せいの!」 『真っ赤な、おっ鼻の〜♪』  榛名の合図でみんなが歌いながらプレゼントを右から左へと回す。ちなみに並び順は僕から左にBUTAPENさん、shionさん、ぺんじろうさん、鹿の子さん、明葵さん、リュウ、朧豆腐さん、猫又さん、ひらさん、TERUさん、榛名だ。僕は心の中でshionさんのプレゼントがあたらないように祈りながら手を動かす。多分、みんな同じ気持ちだろう。彼女のプレゼントを持った人はその重量に腰を落している。ありゃぁかなり強力なやつだな。 『喜びました〜♪』  歌が終わり、各人の手が止まる。みんな期待に満ちたような、それでいて不安げなような複雑な表情で手の上にあるものを眺めている。約一名を除いては。 「なんで俺のところにこれがくるんだ〜!」  下手に落とすと危険な為、(多分)不本意ながらも大事そうにプレゼントを抱え込むリュウが叫んだ。御愁傷様リュウ。 「なんで、ダーリンのところにいかないのよ!」  shionさんも切れている。 「いや、ハニー……これはあくまでも順番があるのだから……」 「私はちゃんとダーリンのプレゼントをゲットしたわよ! 私に対する愛情が薄いからプレゼントを引き寄せられないのよ!」 「い、いや……ハニーのことは充分愛しているし、愛されていると思っているよ。でも君のその崇高な愛を僕が独り占めするのはあまりにも申し訳ないと言うか……」  額に汗を浮かべるTERUさん。そんな二人のやりとりを見てリュウの奴が元気を取り戻した。 「やっぱ、こう言う愛情のこもった贈り物は貰うべき人が貰わなきゃな」  リュウはそう言うとshionさんからのプレゼントをTERUさんに渡す。 「じゃあ、これを君に……」 TERUさんは引きつりながらもリュウから荷物を受け取り、代わりに自分の持っていたプレゼントを手渡そうとする。 「あ、いや。それは俺のだから受け取れないね。まぁそれもあんた向きだから貰っといてくれよ。俺はスタッフみたいなものだからプレゼントは遠慮しとくよ」  準備中は客と言い張っていたリュウはいつのまにかスタッフに鞍替え。二つのプレゼントをTERUさんに押しつけると涼しい顔をしてカウンターに戻り酒を飲み出す。そんなリュウをTERUさんはすごく恨めしそうな顔で見ていた。 「さあ、それじゃあみんなプレゼントを開けてみましょうよ」  BUTAPENさんの言葉でみんなが恐る恐るプレゼントを開け始めた。 「なにこれ?」 大きな包みをガサゴソやっていたBUTAPENさんが取り出したのは…… 「自作の版画と……コレクションのおもちゃの一部と……流木です」  どうやらひらさんからのプレゼントがあたったらしい。 「版画と……おもちゃはまだわかるけど……なんで流木なの?」 「水槽に入れようと思って買ったんだけど、使う予定が立たなかったのでプレゼントに……」  ひらさん、それって単に不要物を廃棄しようとしたんじゃあ……ひらさんアクアリウムやるからなぁ。まあ、その辺はひらさんのサイト「TOY BOX HOUSE」をご覧になってください。 「これを私にどうしろと言うのよ」  かさばるプレゼントに呆然とするBUTAPENさんだった。 「さあて、ダーリンはなにをくれたのかな〜」  意気揚々と包みを開けるshionさん。 「何々、ユネビタンCとこれは……」 ザバー! 頭から水をかぶるshionさん 「……天井バケツ……」  shionさんのこめかみに青筋が浮かぶ。 「ダーリン! これ全部他力本願じゃない!」 「い……いや、時間がなかったんだ。ほ、ほらハニーのところの三題噺に結構時間をとられたし……それに他にもいろいろプレゼントを……」  ここでTERUさんはハッと気がついたようだった。 「他にもいろいろ? プレゼントを?」 「い……いや、いやだなあハニー。勘違いしないでくれよ。仕事がらみでほら、いろいろとあるんだよ」 「問答無用! 天誅!」  店内に火柱が立ち上った。 「これは結構マトモそうだ」  包みを開けたぺんじろうさんが呟く。 「あ、それわたしの」  嬉しそうにそう答えたのは榛名だった。 「いいカップでしょ? ロイヤルコペンハーゲンの年代物なのよ」  は……榛名それって…… 「それじゃあかなり高額なものなんじゃないのか? ひょっとしてマスターのコレクションの一つ?」 「そうだけど、格安の品。何たって呪いのティーカップだもの」  カップを落しそうになるぺんじろうさん。 「あ、それ落しても割れないみたいよ。100人の人を呪い殺すまでは絶対に割れないみたい。その代わりその衝撃が全部落した本人に伝わるんですって」  ぺんじろうさんの顔がみるみる青ざめる。なぜなら彼にはよくものを割る奥さんが存在するからだ。 「か、返す。そんな物騒なもの!」 「あら? 軍人たるもの敵に背中を見せても良いわけ? 正々堂々と立ち向かってくださいね」  がっくり肩を落とすぺんじろうさん。榛名、それはあんまりだと思うよ。  鹿の子さんには僕からのコーヒー豆とカップのセット。ブランド物のような高価なものじゃないけれど、結構おしゃれで何時か店で使おうと思っていたものだ。よかったね鹿の子さん。無難なもので。 「マッサージ券!」  歓喜の声を上げたのは明葵さん。 「いやぁ、あっしもこの頃肩こりとか激しくて」  明葵さん、それマッサージでもタイマッサージってなっていますよ。首とか180度回転させられちゃいますよ。僕の心配をよそに喜ぶ明葵さん。その影でBUTAPENさんが目から妖しい光を放っていた。 「これはなんでしょう?」  朧さんの手? には二枚の紙切れ。 「それは英国海兵隊 ロイヤルマリーンの入隊志願書と、やはり英国空軍第101飛行隊の体験搭乗権だ。これでどんなにやわな男手も鋼のような男になれるぞ」  そのあと朧さんにそれがどんなものか熱く語って聞かせるぺんじろうさん。でも、豆腐はどんなにがんばっても鋼にはならないとおもうな。  チョンチョンと肩をつつかれて振り返るとそこにはトナカイが二頭。 「鹿の子さんと……猫又さん?」  コクコクと頷く二頭のトナカイ。猫又さんの方は鼻まで赤い。 「トナカイ着ぐるみ。ルドルフバージョンですぅ」 「猫も人間もやめてトナカイになる事になりました」  あの、猫又さん? 人間になってダーリンと結婚するって話はどうなったんです? 「もう一着プレゼントするから彼女のダーリンにもトナカイになってもらうんですぅ」  それで? 「みんなで街頭にならんでティッシュを配りましょう」  ちょっと頭痛がしてきたかも。 「夜でもOKなんですよ」  そう言って鹿の子さんがスイッチを入れると猫又さんの鼻が赤く輝く。これってとっても恥ずかしい気がするんですけど。  僕がそういう前に二頭のトナカイはキャイキャイいいながら立ち去ってしまった。 「これ? 温泉旅館招待券?」  ひらさんは、温泉旅館のチケットがあたったらしい。 「あ、あっしのやつです。年中無休、いつでもお泊まりになれます。」 「つまりいつもそれくらい空いているってことね」  あ、榛名の言葉に明葵さんが死んだ。榛名〜 8万ヒット言っているサイトさんに向かってそれはないと思うんだけど……  TERUさんは未だにプレゼントを開封するのをためらっていた。 「ダーリン。こわがらなくても大丈夫よ」  自信タップリにshionさんがそう呟く。どこからその自信が沸いてくるのか聞いてみたいけれど、怖くて聞けない。 「そ、そうだね。ハニーを信じなきゃね」 「そうそう、これまで数多の爆発に耐えてきたダーリンだもの、これもきっと大丈夫よってなに違う方の包みを開けてるのよ」  見ればTERUさんはリュウのプレゼントの方の包みを開けている。 「いや、ハニーのは最後のお楽しみとっておこうかと……ぼくは食事の時も好物を後にとっておく質なんだ」  そう言って包みを開けたTERUさん。 「こ、これは……」 「マジックマッシュルームの詰め合わせ」  いつのまにかリュウが彼の背後に立っている。 「な、あんた向きだろう?」  う〜ん、ここで同意するとまたTERUさんに誤解しているって言われるんだろうなぁ。 「なんてものをダーリンに渡すのよ!」  あ、shionさんが怒った。あ〜あ、リュウのやつ、明日の朝日は拝めないな。 「さあさあ、次はわたしの奴よ」  黒こげになったリュウを尻目にshionさんはTERUさんに開封を求める。おっかなびっくり包みを広げるTERUさん。中からでてきたのは大きな箱一つ。天井が開閉式の蓋になっている。TERUさんはそれをそっと開けてみる。途端、中からバネ仕掛けの爆弾が飛び出る。導火線に火がついている。 「どわぁ〜」  あわてて箱を投げ出すTERUさん。 「飛び出す時に導火線に点火する仕組みなの」  自慢げなshionさん……。  皆が固唾をのんで見守る中、導火線の火が根元まで……爆弾は二つに割れ、中からさらに小さな爆弾が……。  そんな事を繰り返し、最後には指先に載るくらいの小型サイズになってしまった。爆竹より小さなそれに安心したTERUさんが、それを拾う。 「なんだ、かわいいじゃないか」  途端  ドッカーン!  店内がビリビリと震えるほどの轟音が店内に木霊したのだった。TERUさん、フォーエバー。 「さあて、私はなにかな」  榛名が包みを開けると鍋と豆腐すくいが。 「冬は湯豆腐がおいしいですから」  朧さんの言葉に榛名の目がキラリと輝く。 「肝心の豆腐も目の前にあるしね」  朧さんがなにか言うまもなく丸ごと鍋に押し込まれる。 「さあ、小腹のすいた人はこのまま湯豆腐をつつきましょう」  そんな榛名に朧さんはグツグツと煮えたぎる鍋の中から一言。 「ああ、いい湯だ」  そしてみんなの視線が僕の手元に集まる。 「マスターのはなんなの?」  興味津々のみんな。仕方なく開けてみるとそれは……  気がついた瞬間、ぼくは猫になっていた。 「○○技術総合研究所製、猫セットです」  妖しい研究所に勤務とは聞いていたけれど、そこではこんなものも作っているの? 「これ、長く装着していると精神そのものも猫になっちゃう機能がついているんです」  得意気に説明する猫又さん。やめてくれ〜、猫なんかになりたくない!  あわてて外そうとするけれど、どうやってもはずれない。 「あ、それ暗証番号打たないとはずれません。被験者が勝手に外しちゃったら実験できなくなるでしょ」  ぼ、ぼくはモルモットじゃな〜い。だれか助けて〜 §7.party終了  大騒動のプレゼント交換も終わり、そろそろお開きの時間。僕がその旨を告げ、お礼の挨拶を述べるとshionさんがマイクを奪い取る。 「さあ、皆さん!最後に皆さんの今後のご活躍を祈って一本締めで締めましょう」 クリスマスパーティーで一本締め? 「それでは皆さん、お手を拝借 よ〜ぉ」  shionさんが手を広げた瞬間、ぼくは見てしまった。彼女の手のひらに小さなスイッチが載せられているのを。 「や、やめ……」  パン!  皆の手が合わさった瞬間、店中が閃光に包まれ、煙が引いた時には吾眠は跡形もなく消滅していた。 「計算通り」  真っ黒に煤けたshionさんが勝ち誇ったように言った。 「店内の飾りつけを手伝った時に店中に仕掛けておいたのよね」  ああ、やっぱりこの人たちに手伝ってもらうんじゃなかった。ぼくは天を仰ぎながらどうやって店を再建しようかと途方に暮れた。  冬の夜空には数多の星と、今さっき星になった人たちが神々しいばかりに輝いていた。 了