〜書は人と人を繋ぐ〜

「沙夜香沙夜香!明葵さんの感想文記入帳の方で面白いコトが起こってるよ!」
 双子の妹で仲居の魔夜香の言葉に私、沙夜香は興味を示して、庭掃除が終わってから図書室に置いてある一冊の感想ノートを開いた。
 私の勤める神芦堂温泉旅館の図書室には色々な人々が図書の閲覧に来て下さいます。それは本当に多くの人々が来館し、ついでに温泉に入って帰る、という人が大半を占めていて、常連のお客様も多数できました。嬉しいことです。
 大勢の人が来るということは必然的に知っている人と出会う確率も高くなっているということで、私が見たノートには明葵さんが読んだら喜ぶようなコトが書いてありました。

あり? 投稿者:榛名  投稿日:11月26日(月)12時09分29秒
TOMCATさん、こん○○は、
TOMCATって、あの「宇宙駆ける翼」のTOMCATさんですか?
間違っていたら御免なさい。

 魔夜香が指差すところを読むとまず、こう書かれていた。榛名さんは最近からこのノートに書き込みをしている方で、造詣も深く、明葵さんの作品に色々と助言をしてくれる明るくて、美人の素晴らしい方です。対するTOMCATさんも比較的最近から利用してくれている方で、明葵さん自体とは別の場所で知り合ったらしく、親交は比較的長いみたいです。
「知り合い、みたいね?」
「みたい。明葵さん、知ってるのかな?」
「さぁ...なんだか最近忙しいって走り回ってるよね」
「うん。本当に忙しいのかどうかはわかんないけど」
 ノートの続きを読んでみる。

……ばれた 投稿者:TOMCAT  投稿日:11月27日(火)15時46分16秒
>榛名さん
う"、こちらでは初めましてです榛名さん♪(激汗
世間は狭すぎですなぁ……
どうも、わたくし本人でございます。
拙作をご存知のようで、ありがとうございます。
鋭意、執筆中です(脱兎)年内にはなんとか……

 と返信が打たれている。
「お知り合いみたいだね?」
「うん。この後の書き込み見たらわかるんだけど、結構ニアミス繰り返してるみたいだよ」
「不思議なこともあるんだね?」
「言えてる」
「『吾眠』に行く?行ったら面白いことになってそうじゃないかな?」
「いいよ。じゃあ今日の仕事が一段落したら行こっか」

「こんにちはー」
 ちりんちりん、と開けた扉についている鈴が鳴る。私達は旅館を他のスタッフに任せてちょっと遠出して喫茶『吾眠』にやってきました。外はもう寒くて暖かい店内に入ると天国みたいです。
「いらっしゃい。おや、神芦堂のお二人さん。こんにちは」
 マスターの羽黒那智さんがいつもの愛想のいい笑顔を浮かべながら迎えてくれる。店内を一通り見まわすと、
「あ、やっぱりいた」
 私達が見つけたのは、マスターの彼女である、霧島榛名さんであった。私達の勤める神芦堂温泉旅館にもよく来館しており、先のTOMCATさんとのやりとりの発端になった女性です。
「はるなさんっ!」
 いきなり魔夜香が榛名さんの背後から目隠しをする。
「きゃっ!」
 驚く榛名さんに笑いながら二人で挨拶。
「いつも私達の旅館をご利用下さってありがとうございます」
「沙夜香さんに魔夜香さん!どうしたの?」
 榛名さんに勧められてカウンター席に座る。と、絶妙のタイミングでマスターが淹れたてのコーヒーカップを出してくれた。
「ありがとうございます」
 早速一口飲む。相変わらずここのコーヒーは美味しい。生豆を店で炭火焙煎し、ミルで轢いてサイフォン方式で落とすやりかたはコーヒーの味と香りが最も良く現れますね。
「おいしー」
「寒くなってきたからホットがいいですね」
「そうだね、僕としては温泉に入りたいんだよ」
 マスターがちらっと榛名さんを見ながら呟く。どうやら誘っているみたいだけど、当の榛名さんは全く気付いてないみたい...ご愁傷様?
「今日はどうしたの?」
 榛名さんがコーヒーカップの淵を指でなぞりながら尋ねてくる。
「図書室の書き込みをみて、面白そうだったから来てみました」
「あー、あれね。驚いたわよ、本当に」
 大げさな身振りをつけながら榛名さんが話しをしてくれた。
「TOMCATさんのこと?」
 マスターが話に入ってくる。お店は...私達以外にお客様は居ないみたい。心配するべきところなのかな...
 魔夜香が那智さんにおおまかな話をすると、
「みたいだね。このまえウチにもいらっしゃったよ。榛名と3人で色々しゃべったけど、楽しい人だね」
「那智、話に加われなかったってあとでひがんでたじゃん」
「う...」
 このお二人の会話は聞いてて飽きません。那智さんが主にボケてることが多いんですが、時には榛名さんがボケに回ったりとまるで漫才を見てるみたい。ってこんな事言うと怒られそうですね。
「なんだか嬉しかったです」
 私の発言に榛名さんが首を傾げて「?」の返事。
「神芦堂をきっかけにして別サイトでニアミスを繰り返してた人達が出合えるっていうのがすごく嬉しかったんです。旅館やっててよかったな、って」
「あー、そういうことか。それは僕も同意見だよ。こうやって喫茶店やってるとふとした所で見たことある人がやってきたり、以外な人とも出会えるからね」
 那智さんが同意してくれた。榛名さんや魔夜香もうなずいてる。
「そういえば最近明葵さんはどうしてるの?全然姿、見ないけど」
 榛名さんが不思議そうに尋ねてくる。
「あー、明葵さんはですね...」
 神芦堂に半永久的に宿泊している自称3流小説家が明葵さんです。主にラブコメ路線の小説を書いているのですが、実は本人は...ってここで正体バラしちゃうと殺されそうなので秘密にしておきましょうか。
「明葵さん、色々忙しいみたいですよ。四六時中走り回ってはぜーぜー言ってるし。最近小説も書いてないんじゃないかなぁ」
 魔夜香が答えると、
「そうなんだ。ほら、最近スペオペ物、書いてるでしょ?」
「はいはい。なんでも仲のいいかたから依頼されたとかで。そういえば榛名さん、色々と書いてましたね」
「うん。那智にも見せたら色々問題がでてきたから明葵さんに教えたの」
「明葵さん、ナンにも考えずに小説書きますからね...」
 しばらく明葵さんを肴にして話が盛り上がる。
 チリンチリーン
 お客様が来店。思わずいつものくせで「いらっしゃいませ!ようこそ神芦堂温泉旅館へ!」って言いそうになりました。あはははは...
「おや、噂をすればなんとやら。TOMCATさんじゃないですか」
「えぇっ!?」
 入り口を見ると、確かにTOMCATさん。鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてる。ちょっと可愛い。
「ほえ?」
「ちょうどTOMCATさんの噂話をしてたんですよ」
 私がTOMCATさんに話の大まかなあらすじを説明すると、
「あれには僕も驚いた」
 そこから再び話に華を咲かせました。気付いたらあっさり休憩時間が過ぎてて慌てて魔夜香と旅館に戻ったんですよ。あの後。
 榛名さん、TOMCATさん、面白いお話、ありがとうございました。那智さん、美味しいコーヒー、ありがとうございます。榛名さんを大事にしてあげてくださいね?
 そしてこの日記をご覧のみなさん、神芦堂温泉旅館にぜひ一度、足を運んで見てください。もしかしたら貴方もお知り合いの方と出会えるかもしれませんよ?って宣伝になっちゃいましたね。あはははは。
 それでは、私は仕事に戻ります。またお会いしましょうね!



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神芦堂温泉旅館の明葵さんから1000HIT記念に頂きました。
TOMCATさん同様、「君嘘」の世界と「神芦堂温泉旅館」をミックスした作品。色々とお忙しい中での投稿です。作中に登場された「沙夜香さん」と「魔夜香さん」は「神芦堂温泉旅館」にてお会いできます。明葵さん、ありがとうございます。