マリアヴェール
全ての物に恩恵をもたらす太陽。
闇を静かに照らす月。
この星ではどちらか一方しか望めない。
永遠に続く太陽の日差しは砂漠を作り、永遠の闇は大地を氷で閉ざしてしまった。
その苛酷な環境の中で人は生き続けている。
海で互いを分けられた、2つの大地で・・・。
片方は暑さに耐え、日差しを遮り、枯れた大地に命を宿らせた。
片方は寒さに耐え、氷を溶かし、科学の力で生活を培っていった。
厳しい自然と闘いながらも、両者は次第に安定した暮らしを送れるようになっていった。
だが・・・
氷の大陸『ラキ』の科学者が発見したクリスタルによって、全てが変わってしまった。
300年という時間、月の光だけを浴びて育った氷の結晶の中に八面体の結晶が生まれることがある。
氷の大陸で発見されたその結晶は、後に『ラキティス』と呼ばれる究極の宝となった。
氷の結晶体ラキティスは太陽の光を浴びる事によって、冷気を、そして闇を生み出した。
その後、砂漠の大陸『ガラ』でも同じように結晶が発見された。
300年の間、太陽の光だけを浴びた砂の中に現れる八面体の結晶。
この砂の結晶体ガラティスは、ラキティスとは逆に熱と光を生み出したのである。
この大発見に大陸中が、いや、世界中が喚起の声で沸きあがった。
つらく厳しい自然に対して、やっと開放されるのだと。
互いの結晶を交換することによって、平和で穏やかな時代を迎えられると、誰もが喜びに沸いたのである。
しかし、その平和な世界への夢は見事に裏切られた。
ガラの大陸の人間に対し優れた知恵を持ったラキの人間は、より高い利益を求める為にその知恵を使い出していた。
逆にガラの人間には後ろめたい気持ちが生まれ始めていた。
世界に幸福をもたらしたのは自分達ではなくラキの人間だという事実に。
・・・いつかその事でラキの人間に優位に立たれるのではないのかと。
両者のすれ違いは時が経つにつれて深い溝を作り、ついには大陸間での戦争という結末をもたらす。
平和と豊かな生活を求めすぎた人間への罰だろうか?
ただ人間が愚かなだけだろうか?
何も分からぬままに世界が戦渦の中に巻き込まれていった。
常に太陽の日を浴びて育ってきたガラの民はその体を武器とし、戦いを挑んできた。
逆に体の弱いラキの民は頭脳と道具を駆使して戦争を続けていく。
結末は体力、精神力、共にタフだったガラの民の勝利で終わる。
いや、終わりではなくそこが始まりだったのかもしれない・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇
大陸戦争の終結から数年、ラキの大陸政府はその自治権を完全に失っていた。
いたる所にガラの人間の支配が及び、ラキの民は過酷な生活を強いられることになる。
だが、抵抗は出来なかった。素手での戦いでは相打ちにすらならない事を戦争で痛いほど理解した。
泣いても悲鳴を上げても誰も助けようとはしない。
地獄の様な日々が続いた。
そんな中、一人の少女がラキの大陸に現れた。
金色の髪に小柄な身長。ラキの民族衣装をまとった、どこにでもいるような少女。
だが、他の人間とは明らかに違う所があった。
紫色の瞳。
例外無くガラの人間は赤、ラキの人間は青の瞳を持って生まれる。
だが彼女は違った。
その紫の瞳を持った少女は、自分の事を『マリアヴェール』と名乗ったと言う。
大陸中の至る所に現れてはラキの民を救い、ガラの人間に対して十字架によって裁きを与えた。
ガラの人間は紫の瞳を持った少女マリアヴェールを、『イレギュラー(紫の瞳を持つ魔女)』と呼び、
怒りと恐怖の中で、その抹殺に莫大な賞金まで懸けた。
一方、ラキの民は救いの女神として突然現れた少女に感謝し、抵抗運動を始めた。
マリアヴェールという名の少女が現れてから、わずかに数年。
ガラの民はラキの大陸から居場所を失い、大陸に平和が戻ってきた。
愚かな戦争の爪痕はどちらの大陸にも大きな損害を与えたため、
互いの大陸で条約が結ばれる事によって、平和で穏やかな日々が実現したのである。
ラキの人間はマリアヴェールを探し、大陸を挙げて感謝と褒美を取らせるつもりだった。
しかし、どこを探しても見つからず、その存在は伝説として語り続けられることとなる。
人は彼女をこう呼んだ。
『救いと裁きの女神、マリアヴェール』と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして現在。
300年の時を経て、結晶ラキティスとガラティスが再び世界に現れた。
過ぎ去った時間は過去を忘れさせ、大量の財を獲得しようとまたしても世界中で争いが生まれていく。
もはやどちらの人間が勝利すると言うものではない。
自分の欲を満たす為、強者が弱者を支配する。
逆らうことの出来ない人々はただ救いを求めるしかなかった。
もはや伝説としてしか語り継がれていない人物。
世界に救いと裁きをもたらした、マリアヴェールの事を・・・。