物心付いたときには「人形のよう」と云われることに慣れていた。
それは只そう見えると云うだけのことで、必ずしも賛辞なのではないし、
少なくとも僕自身が選んだものでも努力して手に入れたものでもない。
だからうっかりすると自分でもそんな気になって、酷くつまらなくなる。
屹度僕は誰かに造られた人造人間なんだ。
だから両親とも、兄とも色が違う。
何かが出来なくて苦労した覚えもない。
だから生き甲斐だの遣り甲斐だのというものが理解できない。
でも多分、造った人はどこか線を一本繋ぎ損ねたんだろう。
時々妙な物が視えたのはそのせいだ。
そしてきっとあの強い強い光で、中途半端に接触していたその線が、きっちり繋がってしまったんだろう。
生身の人間なら繋がっていない場所へ。
そんなふうに考えると凡て辻褄が合ってしまって、そして僕はつまらなくなる。
喧嘩をしているときだけは楽しかった。
相手が強くて手応えがあれば尚良い。武道よりは動きが読みにくい分スリルがある。
そして勝利は確実に僕のものだ。僕だけのものだ。
親も家も育ちも関係ない。僕の身一つで、僕自身が身体を動かして得たものだ。
誰に称賛されなくても。そのとき僕は慥かに生きていると感じた。
只一つ儘為らなかったのが世間で謂う女心というやつかもしれない。
しかしそもそも、僕はそれを得ようと心を砕いたことなどあっただろうか。
失いたくないと、惜しんだことがあっただろうか。
離れ去る女性を追うこともなく、ただ少しつまらないと思っただけで、何日かすれば名前も忘れた。
隣を歩く人に手を差し出す。
柔らかな手が僕の手を取ってくれることに安堵する。
短めに切り揃えられた髪。化粧気のない頬。
首筋も身体もまだ直線的な印象の、只の少女が臆することなく僕の顔を見る。
この瞳を見失わないように、この体温が消え去らないように、大切に、大切に。
この存在を僕は惜しむ。
少女が女性になるまでに、僕は人間になるから、
常時も、何時までも、どうか僕の隣に在ってほしい。