4、ぎゃーっ
面白くない。 全く。何だというのだ。 ただでさえ今日は朝から機嫌が悪かったのだ。 何だこの暑さは。 暑いなら暑いで太陽がかっと照りつけて、真っ青な空に入道雲に蝉でも鳴いていればいいのだ。 今日みたいに空が半分曇っているのに暑くって、じめじめじめじめしているような中途半端なのは僕は大嫌いなのだ。 じめじめして空気まで重たくて、窓を開けても風一つ入ってこない。扇風機を回しても生ぬるい空気を掻き回すだけで却って気持ち悪い。 だから僕は頗る機嫌が悪かった。それは認める。 だからと云って、僕を見るなり悲鳴を上げて逃げることはないだろう。僕は鬼じゃないんだから。 そう、せっかく女学生君が来たというのに、この鬱陶しい暑さのせいで不機嫌だった僕も、やっと少しは楽しい気分になれそうだったのに、何なのだ、あれは。 僕は女学生君の悲鳴は好きだが、あれはちょっと頂けない。でも、あの時の女学生の顔は結構面白かった。今まで見たことのないような顔をしていた。 うん。それにあんな声を上げる女学生というのは彼女以外には知らない。だからそれはいい。それは許そう。 だけどそのまま逃げ帰るのは宜しくない。 しかも何か大きな包みを抱えていたじゃないか。あれは屹度僕に持ってきた物の筈なのに。そのまま持ち帰ってどうする。 面白くない。 そう思っていたら、目の前で電話が鳴った。 こんなときにうっかり自分で電話を取ってしまって相手が馬鹿な父だったりしたら最悪だから、和寅を呼びつけて取らせた。 「依頼だったら天気が悪いからと云って断れ。親父か兄だったら僕は死んだと云え」 和寅は溜め息をついて、はいはいと適当な返事をして受話器を取った。 僕は両手を頭の後ろに組んで椅子の背に凭れ掛かっていた。和寅は、ああ、先程はどうもとか何とか応対していたが、そのうち、先生、お嬢さんからですぜ、と云って受話器を僕のほうに差し出した。 馬鹿者。女学生君からだったら何故さっさと替わらないのだ。 受話器を引ったくって出ると、女学生は何だか常時もと違って少しもごもごとしたしゃべり方で、実家から送られてきた缶詰やら何やらを持ってきたのだと云った。いつもお世話になっている方々に渡すようにと云われたらしい。 ほら見ろ。やっぱりあれは僕のところに持ってきたものじゃあないか。 でもそれだけじゃあないだろう? だって郵送すれば済むことなのに、わざわざここまで重い荷物を抱えて来たのだからね。 そう云うとほんの少し間を開けて、女学生は少し怒ったように、じゃあこれから郵便局に行きますと云ったので、僕は慌てて止めた。 どうも彼女はどこまで本気なのか、わざとなのかボケているのか判別し難い。 郵便は宛にならないと本馬鹿が云っていたからやめなさいと云うと、ならやめますと答えた。何故あいつが云ったというとすぐに聞くのか。ちょっと僕は面白くないが、とりあえず女学生がこのまま帰ってしまうことは阻止した。 今何処に居るのだと訊いたら、近くの喫茶店の公衆電話からだと云う。 そうだ、それなら今から僕が其処へ行って、それから何処かへ遊びに行こう。そう思い付いたら何だか楽しくなった。 女学生君も承諾したので、そこで待っているように言い渡した。 「すぐに行くからね。だけど、今度はギャーは無しだぞ、ギャーは。その悲鳴は面白いが、僕の顔を見て云ってはいけない」 そう云うと、女学生君は可笑しそうにくすくす笑って、はい、と素直に答えた。 上機嫌で電話を切って立ち上がった僕に、和寅が云った。 「先生、お出掛けになられるなら服を着ていってくださいましよ、服を」 このバカズトラ! 僕がパンツ一枚で外に出るような変態だと思うのか! あんまり蒸し暑くって服が引っ付いて気持ち悪いから涼んでいただけじゃないか! そう怒鳴りつけて、僕は服を選びに部屋に入った。 |
すみませんすみませんすみませんすみません……ref. |