7、君がわらった

 益山が、依頼してきたのは女学校だと云うから僕は来てやったのに、女学生がどこにもいなくて、愚かそうな学校関係者ばかりだった。
 やっぱりこいつを助手にするのはやめようかと思い始めたころ、彼女は姿を現した。  ああ、やっと可愛い女の子がいた。
 なのにその可愛い女学生は、折角の可愛さ台無しにしてしまうぐらい、何故だか少しやつれて、顔色も悪かった。
 顔の筋肉はこわばって、周りの大人達を全力で拒絶し、侮蔑の色すら浮かべた表情をしていた。
 それでも僕を見た時の目には、確かな意思の強さと賢さ、そして好奇心の光を宿していた。
 うん。なかなか良い娘だ。
 そう思ったから、僕は蜥蜴のような厭らしい男から、彼女を解放した。

 二度目に会ったときも、女学生は少し強ばった顔をしていた。何か考え事をしているようで、僕がいることに気付きもせずに独り言を云っていた。それだけで面白い子なのに、声を掛けたら面白い悲鳴を上げた。
 きゃあきゃあ云う普通の女学生達も勿論僕は好きだが、こんな個性的ユニークな女の子なら尚更だ。
 まだいろんな事が解ってないようだったが、なかなか前向きで見所がある。
 そう感じたから僕は、あの良くないことをしていた娘に追い詰められた彼女を救い出した。

 それだけだのことだ。
 他意は無い。

 礼拝堂の冷たい床に倒れてしまった彼女を医務室に運んで、瞼を閉じた青白い顔を見た、それが最後だった、筈だった。

 それからしばらく経って、ある日突然女学生は僕の目の前に再び登場した。
 青白かった顔は、今度は少し赤くなっていたけれど、やはりどこか強張った表情をしていた。
 そしてやはり、いろいろ解っていないで、無駄なことに迷っていた。
 もったいない。
 笑ったら屹度もっと可愛くなるだろうに。
 そこで僕は彼女を外に連れ出すことにした。

 いつまでもそんなところに閉じこもっていてはいけない。
 蜘蛛の巣みたいな迷路に、自分からはまり込む必要はないだろう。
 うじうじしているは僕は嫌いなんだ。
 本人にその意思がないなら何時までもそこから出られないよ。
 さっさと階段を駆け下りて振り返ると、彼女はあの時のようにしっかり僕に付いてきた。
 ああ、やっぱり善い娘だ。
 嬉しくなって笑ったら彼女も笑った。
 ほら、こんなに可愛いじゃないか。


 あれから何年かが過ぎ、可愛かった女学生は今も可愛くて賢くて一所懸命だ。
 驚いたり、怒ったり、そしてたまに何故だかどきりとするような表情をする。でもやっぱり君は笑ってるのが一番いいよ。
 そんな彼女のいろんな顔を見たくて、僕はついつい彼女を構いたくなる。
 それだけのことだが、他意は、ある。    







「破籠の階」の榎さん視点みたいな。
何と申しましょうか、案外難しかったんですよ、今回のお題。君が笑ったということは、笑う前は笑ってなかったということで、それはどういう状況だったのかと考えると、何かどこかで見かけたような話になってしまうような気がしてですね。これといったアイディアが出なかったんですよね。
というわけでちょっと逃げた感じです(笑)。  








目次に戻る