「口外法度なんだよ」
「口外してるじゃないか」
「え?」
「え、じゃないでしょうに。口外法度なら、なぜそうぺらぺらと簡単に喋るのかを尋いてるんですよ。榎さんに探偵としてのマナーはないのかい?」
「ないよ」
(魍魎の匣)

榎木津の運転は上手いのか下手なのか皆目判らなかった。技量は慥かに人並以上のものを持っているのだろうが、乱暴なことに変わりはなく……そもそも著しく視力の悪い榎木津が何故運転を許されているのかが私には理解出来ぬ。(魍魎の匣・関口)

榎木津は人の名前を大抵は省略して覚えてしまうのだが、語呂が悪いと時偶とんでもない圧縮や変形を加える。それでも駄目な場合はこのような無茶な呼び方で象徴ヽヽしてしまう。(狂骨の夢)

榎木津は外出の用意が遅い(鉄鼠の檻・関口)

ただひとり無関係な榎木津は立ち上がって伸び上がり、欄間を見ていた。
落ち着きなく鴨居や欄間の細工を見ていた。(以上鉄鼠の檻)

「流石に並の探偵ではないな。絶妙のタイミングじゃ。と云うより、あちこちで総当たり的に悶着を起こしておったかな?」
……悶着は間違いなく総当たりで起こしている筈だ。(鉄鼠の檻)

鳥口は榎木津に対する信用の仕方ヽヽヽヽヽと云うのを少しは心得ているつもりだ。何もかも支離滅裂のようだが、嘘だけは云わぬ。ただ一般人と違うところを見ているから一般人に伝わらないのだ。(鉄鼠の檻)

「榎木津君なんざ君を担いであの山を下りたんだから大したもんだ」(鉄鼠の檻・久遠寺)

容姿と立ち居振舞いが完全に乖離している。……(略)……何しろ榎木津と来た日には、殺人事件の現場に高笑いで登場するような男なのだ。そんな探偵はどこを探してもそうは居ない。(絡新婦の理・益田)

どうやら固有名詞を覚えることを放棄して、属性を呼称として採用したようである。(絡新婦の理・美由紀)

そう云いながら榎木津は、目もくれぬまま二人のやくざを打ち倒した。本当に――強いのだ。(塗仏の宴 宴の始末)

「この容赦のねえ蹴りは榎木津だな。まったくあの男、顔は可愛い癖にどうしてこう乱暴なんだろうなあ……(略)……育ちはいい筈なんだがなあ」(塗仏の宴 宴の始末・川島)

榎木津は常に――間違ったことだけは云っていなかったのである。(邪魅の雫・青木)

榎木津の説明は常に適当だし、選ばれる語彙も奇天烈で幼稚だから、何を云っているのか正確には解らないのだ。(邪魅の雫・益田)

「彼のことは――説明できないな。慥かに」
 僕ァしたくないですと益田が云った。
「見ず知らずの人間を出合い頭に叱る――そう云う男がいるんですよ」(邪魅の雫)

何だか――この世のものとは思えない。物凄く非常識だ。
まるで銅鑼でも叩いたかのように鳴り物入りで登場するや、高圧的な罵倒語を間抜けな口調で高らかに捲し立てる。(鳴釜・本島)

普通にも振る舞えるらしい。(鳴釜・本島)

探偵の運転は極端に乱暴だった。(鳴釜・本島)

榎木津は……始終不平不満を云っていたが、その割りには手際も要領も良かった。(鳴釜・本島)

兎に角、どうしたって榎木津は脚が速い。(鳴釜・本島)

 僕が付けた火種に油を注いだのは――しかも大量に注いだのは榎木津自身なのである。否、油を注ぐどころか、あの探偵の蛮行は、たきぎをくべて爆薬まで仕掛けたのに等しいようなものだった。(瓶長・本島)

僕が土産に持って行って出しそびれていた最中を出すと、半分喰っただけで突然出かけてしまったのである。
……(略)……
 怒っちゃいませんよと中禅寺は真顔で云った。
「我慢して半分も喰ったんでしょう。あの男にしてみれば相当の努力ですよ」(瓶長)

 そして何より難しいのが――榎木津の動きを封じろと云う最後の命令である。そんなことが一般人である僕なんかにできる訳がないのだ。米軍だって無理だろう。(瓶長・本島)

「まあ、お父上がご病気だから見舞いに家に帰るってのは普通ですよ。でもね、あの人は喪服を着て行ったんですからね」(雲外鏡・益田)






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