天衣無縫というか、天真爛漫というか、子供のようなところが多くあって、私にはそこが魅力的だった。(姑獲鳥の夏・関口) 如何なる時も自分が目が覚めた時が朝(魍魎の匣・本人) それなりに父を尊敬している榎木津は、またそれなりに一般常識も持ち合わせていて それなりに これは先祖の霊です。私は選ばれた霊能者なのですと割り切って、 そんなものでないことは解っている。ただどんなものか解らないだけである。 聡明でいる、それ故の胡乱である。 榎木津と対話する者は、いつの間にかその仮面を剥がされ、気がつくと素顔を晒していることが多い。しかしそれは榎木津の会話術だとか対人処方が優れている訳ではなく、彼が単に肩書きや身分を無視した非常識な対応しか出来ない所為なのだが。(魍魎の匣) ……剃刀と渾名される程の切れ者だった。 それはあくまで軍務に於いての話である。伊佐間の榎木津に対する感想はただ奇天烈のひと言に尽きる。(狂骨の夢) 何だってやれば人並み以上にできる癖に、何の役にも立たぬことに心血を注いでいる。これは逸材の無駄遣いと云う意味で、大袈裟に云えば一種の社会的損失とも云える。(狂骨の夢) 榎木津礼二郎―― 最悪の探偵である。 少なくとも関口にとってはそれ以外の何者でもない。 兎に角訳が解らない。榎木津とは学生時代からの長いつき合いになるが、関口には未だにその人間性の全貌を掴み切れていないのである。(狂骨の夢) 榎木津の周囲は一年中無礼講なのである。(狂骨の夢) 大方の混乱の元凶(狂骨の夢) たぶん、あの男だけは死のうが生きようが、どこでどうなったってどこに行っても異質だ。(狂骨の夢・関口) 彼は囲いのない男だったのか。(鉄鼠の檻・今川) 「あんな奇天烈なものが乱入したら現場の攪乱は必至、警察との軋轢は倍増、捜査の難航は火を見るよりも顕か」(鉄鼠の檻・関口) 「僕は探偵だ。だから真実しか云わないんだ。あなた達の言葉で云えば天魔だ」 「第六天魔王」(以上鉄鼠の檻・本人) 大義名分どころか理屈も道理もない。報酬もまともに貰わぬらしいし、自分の中で謎が解明されればそれが依頼人に伝わらなくとも一向に構わないと云う豪快さである。是非は兎も角潔い。ただ、そこまで行くと、最早探偵と呼べるかどうかも疑問。(絡新婦の理) 「名前などどうでもいい。真に自由を勝ち取りたかったら名前に対する拘泥りなんかとっとと捨てるべき」(絡新婦の理・本人) 「あんな 「犬だろうが毛虫だろうが便所の蓋だろうが男だろうが老人だろうが、可愛いと思えば可愛いと云うし、不細工だと思えば不細工だと云う」(絡新婦の理・本人) 榎木津と来たら、他人の話は聞かないし、話したいことだけは一方的に話すし、退屈になれば寝てしまうし、まるで幼児の如き反応しかしない。……(略)…… 敦子の思うに、榎木津はどこかが少少一般より頭抜けているのだ。だからどうしても既成の枠に収まり切らない。食み出した部分は当然、枠の中では役に立たないことになる。不幸なことに、一定の度合いを越してしまえば、優れていることも劣っていることと同義となってしまうものらしい。……(略)…… だから榎木津に対する批判の殆どは、批判者が理解できない部分に対する理不尽な攻撃なのである。そして残りは全て嫉妬羨望から来るそれである。……(略)…… 榎木津は、それは滅茶苦茶飛躍はするのだけれど、決して方向を間違うことはない。 榎木津は、考えようによってはどんな男よりも、女から遠い。そして多分、男からも遠いのだ。 ジェンダーの呪縛が効かないと云うことか。 (以上塗仏の宴 宴の支度・敦子) 「天下の羽田隆三の使者をすっぽかすとは、大した度胸やで」(塗仏の宴 宴の支度・羽田) 「腕は確かだけどその辺は馬鹿だからお金要らないと思うし」(塗仏の宴 宴の始末・司) 頼ったり頼られたりする凭れ合いの関係を、榎木津はきっと軽蔑しているのである。(塗仏の宴 宴の始末・益田) 「エヅ公も、あれ根は真面目でしょ」……そうだよあいつ育ちがいいからさあ(塗仏の宴 宴の始末・司) 「あの榎木津さんが怒鳴り付けたんだから大した小悪党だったよ」 「怒鳴ったんですか? あの大将が――」 榎木津が真面目に怒鳴ることはない。否、鳥口はないと思っていた。余裕があるから真剣になるまでもないのだろうと、そう考えていた。(塗仏の宴 宴の始末・鳥口) 榎木津は子供に攻撃を加えるような男ではない。(塗仏の宴 宴の始末・鳥口) 歩み寄りだの協調性だの、そうしたものとは無縁の男である……変なのだ。社会に於いては役立たずの変人なのだ。 榎木津はまるで金銭に執着がないし、家柄だの血筋だのも気嫌いする性格のようだ 榎木津が父から受け継いだのは余人には理解出来ない変人の気質と、凡人には習得出来ない奇妙な帝王学だけなのだ。 榎木津は暴力的に寝起きが悪いのだ。否、覚醒しない訳ではないのだが、起きたとしても当分は使い物にならない 相手を怒らせることにかけて、榎木津の手腕は一流である。 榎木津は努力や我慢が大嫌いなのだ。 (以上陰摩羅鬼の瑕・関口) 何ものにも諂わず、何も怖れず――。 温かにして 恭にして安し――。 そう見える。(陰摩羅鬼の瑕・由良) 「礼二郎には経理や経営という概念がない。経済と云う社会の仕組みに興味がないんだな」 「面と向かって三十分も経過すれば 「あんな男は居ない。少しでも良識を持った人間には存在が理解できない」 (以上邪魅の雫・今出川) 基準が判らない(邪魅の雫・青木) 彼の探偵の異性関係は――二人の言葉が真実ならば――実に淡泊なものであるらしい。(邪魅の雫・益田) 「あれはあれで結構照れ屋らしいんだよ。京極堂曰く」(邪魅の雫・関口) 彼は、世界と対等に渡り合っていた。 彼は、云い訳などひとつもしない。正当化もしない。代償も求めない。嫉まない。怨まない。(邪魅の雫・宏美) 「他人が何を考えているのかなんてあの人には全く興味がないから、そもそも知ろうとも思わないんですよ」(鳴釜・益田) 「あれはそんなに優しい男じゃないですよ」(鳴釜・中禅寺) 世間の常識も権力の構造も社会の枠組も何もかも通用しない(瓶長・本島) 「解んないのよ……解らなくても解決だけはするみたいだから。解んないけど」(五徳猫・セツ) 「榎木津と云う男は他人には迷惑 …… 神だからな、と中禅寺は吐き捨てるように云った。(五徳猫・中禅寺) 榎木津の辞書に負けの文字はない。あの男の辞書にあるのは面白いか、面白くないかの二種類だけである。(雲外鏡・本島) 榎木津が企業の便宜を計るような仕事を引き受ける筈もない。(雲外鏡・本島) 正確には榎木津の所為ではないようなのだが、兎に角榎木津が絡むと、どうしたってあの人の所為に思えて来る(雲外鏡・本島) 「あんなものは歩いているだけで恥をかいているようなものですよ……一緒にいると三十分に一回はこっちも恥をかく」(雲外鏡・中禅寺) 「 榎木津は金や名誉なんかには洟も引っ掛けませんよ(雲外鏡・中禅寺) 「あそこにいる榎木津探偵には手を出さない方が身のためですよ。いいですか、 猛烈な勢いで馬鹿になるんです(面霊気・中禅寺) 「榎木津はね、あれはあれで、榎木津と云う面を被って暮らしてるんですよ。何も被ってないように見えるし、本人もそう振る舞っているけれど―― |