整った顔立ち。驚く程に大きい目。鳶色がかった瞳。皮膚の色も東洋人とは思えない程白い。日に透かすと、髪の毛の色さえも栗色を通り越して茶色である。
色素の薄い男なのだ。
ああ、西洋の 米軍のパイロットのような格好 どう見ても航空隊 大正時代の華族が舞踏会にでも行くような格好 (以上姑獲鳥の夏・関口) 着てみると何となくバーテンのような感じになった。だから蝶ネクタイを捜し出して結んだ。(魍魎の匣) こう云った照明で見ると榎木津はまるで石膏像のヘルメスのようである。 赤いスエーターはだらしない着熟しではあるが、それなりに決まってはいる。 榎木津は颯爽と立っていた。 黒いクラシックなスーツに赤いスカーフ。あくまでハズす男である。(以上魍魎の匣・関口) 何だか威張っている。作り物のように綺麗な顔だ。子供の頃からそうだった。木場は鍾馗様でも、榎木津はお内裏様だった。(狂骨の夢・木場) 革の―― 二百三高地を攻略しに行く兵隊のような古式床しい防寒服を身に纏った、かの探偵榎木津礼二郎が――満面に笑みを浮かべて立っていた。 このまま黙っていれば多分誰もが見蕩れてしまう程の、所謂美男子である。(鉄鼠の檻) その精悍な目つきも、今川にとっては何だか射竦められているような感じで、どうにも落ち着かなかったのだと云う。(鉄鼠の檻) 硝子玉のような眸は周囲の雪を映して灰色の光を放っている。作り物のようだ。(鉄鼠の檻) 西洋人形のような探偵はその色素の薄い白い肌を一層白くして……(鉄鼠の檻) 人形のように整った顔立ち。日に翳すと透けてしまいそうな色素の薄い肌や髪。大きな鳶色の瞳……青い襯衣に、縞の緩やかな黒っぽい筒服を穿いている。まるで探偵には見えないが、かと云って他のどの職業にも見えるものではない。(絡新婦の理・益田) まるで希臘彫刻のように整った顔だったのだ。……これ程綺麗な顔立ちの男を美由紀は初めて見た。(絡新婦の理・美由紀) イカレた麗人は服装の趣味もかなり不思議で、 年齢不詳(絡新婦の理・木場) 端正な風貌は慥かに性差を越えて美しくはある。(塗仏の宴・宴の支度 敦子) 「礼二郎のような派手な顔付きは榎木津の血だよ」(邪魅の雫・今出川) 麗人――なのである。 栗色の髪の毛に大きな眼、鳶色の瞳。色素の薄い上品そうな顔立ちを、凛凛しい眉がきりりと引き締めている。僕はこれ程整った顔の男を見たことがなかった。これぞ美男子だ、と云う顔なのである。(鳴釜・本島) 誰が見たって怪しい格好なのだが、この男の場合もう怪し過ぎて誰も怪しまないだろう。(鳴釜・本島) これだけ整った容姿でい乍ら何を着ても同じように外して見えると云うのはどう云うことなのだろう。だらしのない格好が一番サマになるような気がする。(鳴釜・本島) そしてその彫刻のように整った顔を自が下僕に近付けた。 この男の顔を真っ向切って目の当たりにしてしまうと、大抵の者はたじろいでしまう筈だ。男でもどきりとするだろう。僕等周りの人間は、もしや榎木津のこの上なく馬鹿っぽい振る舞いに、寧ろ救われているのかもしれない。(山颪・本島) 口を利かずに、黙って坐っていたならば、まあ、ご婦人なら十人中九人は惚れる。否、野郎でも惚れる。実際男色趣味の親爺に迫られて困ることも多いらしい。(雲外鏡・本島) 榎木津礼二郎と云う男は顔形が整っている分、何だか異様に威圧感があるのだ。そう、榎木津は黙ってさえいれば大層周囲を威圧する磁場のようなものを持った男なのである。 …… 真剣な顔の榎木津は――結構怖いのだと云うことを僕は初めて知った。(雲外鏡・本島) 「おじさんでしょ。若作りだけど。もう三十幾つかですからね」 まあ――。 そうなのだが。とてもそうは見えない。 |