本来榎木津家は旧華族の家柄――名門である。彼の天真爛漫な性格も、育ちの良さに起因する部分があるのだろう。しかし、彼の父という人が榎木津に輪を掛けて変わった人だったらしく、その影響もあったのだと思う。

今では押しも押されぬ財閥である。

 子爵は自分の子供達が成人すると、成人おとなを養う義務はない、といってさっさとヽヽヽヽ財産を生前分与してしまったのだ。そのうえ元子爵は自分の会社を息子達に継がせることすら潔しとしなかった。
 (以上、姑獲鳥の夏・関口)

 現在の榎木津の肩書きは探偵と云う二文字だけなのである。華族の末裔が生業なりわいにするにはあまりに間抜けな肩書きであるような気もするし、かと云って会社員だ魚屋だと云うよりは相応ふさわしいような気がする。(魍魎の匣)

「榎木津グループの次期総帥?」(絡新婦の理・海棠)

「榎木津と云えば大財閥です。探偵榎木津礼二郎の顧客名簿には政財界の重鎮も名を連ねている」(邪魅の雫・山下)

 加えて榎木津は大層な家柄の資産家の御曹司でもあるらしいのだ。更に加えてこの日本人離れした容姿であるから、本来ならとてつもなく凄い人の筈なのだ。(鳴釜・本島)

 榎木津は偉そうに座った。その姿を目聡く見つけた何人もの人間が寄ってきて、探偵に丁寧に挨拶をした。
……
 榎木津は過度な社交辞令に対する冷淡なあしらい方だけは慣れているようである。榎木津の父親と云うのは聞いていた以上に大物のようだった。(鳴釜・本島)

「そうでなくては幾ら道楽元子爵でも、あんな不肖の放蕩息子に命令したりなんかはしませんよ。……全く信用していない。世界一信用し合っていない親子です」
……
「仲が悪いのですか?」
「仲は良いんです。信用してないんです」(瓶長)

「馬鹿だな、手前の家族は」
 ああ馬鹿だよ――榎木津は机に突っ伏して、つまらなさそうに相槌を打った。それに関してだけは妙に素直だ。(瓶長)

「元公家である榎木津家」(面霊気・中禅寺)






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