榎木津は恰も帝王の如く学内に君臨していた。学問、武道、芸術は勿論、喧嘩色事に至るまで、やること為すこと人並み外れて優秀で、加えて家柄も良く眉目秀麗だった彼は、学生達の羨望と近隣の女子学生達の熱い憧憬、おまけに男色趣味の古参学生達の好色な視線までも一身に集めていた。硬派、軟派を問わず、学内には誰ひとり榎木津に敵う者はいなかった。……(略)……万人の憧れの的という 「人の記憶を再構成して見てしまうやっかいな男なのだよ、あいつは」(姑獲鳥の夏・中禅寺) 「彼は子供の頃から視力が弱く、稀に 榎木津は法律を学んだことがある。成績は優秀だった。しかし真剣に思い出さぬ限り、どんな些細なことも、今では皆目解らぬ。そして、彼がそれを真剣に思い出すことは生涯ないかもしれない。(魍魎の匣) 目が悪い癖に目聡い。 榎木津は、人の名前は一向に覚えない癖に、つまらぬことだけは善く覚えている。 口から出任せがすらすらと云える。 (魍魎の匣・関口) 「ここは微暗いので厭なものが善く見える」(鉄鼠の檻・本人) あの躁病の気のある変人は、他人の記憶を盗み見るのだ。ただ、それは心を読み取るのとは違うらしい。……ただ漠然と 「あの探偵は良い眼をしておる。凡て見透かされているようで、私は心底怖かった」(鉄鼠の檻・祐賢) あの人は皆、 「 榎木津は商売も上手な筈なのだ。ただ、単に興味がないだけなのだ。 その証拠に、榎木津は例えば絵を描かせれば画家並の作品を物すし、楽器を弾かせればあっと云うまに楽人並に上達する。運動競技なども教わることなくすぐに呑み込む。 ただ、興味がないモノに就いては幾度反復しようと全く反応しない。榎木津は人の名前など百万遍聞いても憶えない。社会人としての適性には欠ける。(塗仏の宴 宴の支度・敦子) 榎木津は一見華奢なのだが、喧嘩をすると滅茶苦茶に強い。(塗仏の宴 宴の始末) 「探偵は何もかも知っています。彼は真相を視ているんです。ただ――」 ただ意味を知らないのですと京極堂は云った。(陰摩羅鬼の瑕・中禅寺) 真理は常に世界の真ん中にあるのだろう。そして榎木津はそれを視ることが出来る特殊な人間である……(略)……榎木津の凄いところは……その非常識な能力自体ではなく、世界を社会や世間や個人と強引に接続してしまう生き方にこそあるのだと思う。(邪魅の雫・益田) 「彼奴を侮ってはいけない。 探偵だからねと中禅寺は云った。(邪魅の雫・中禅寺) 「彼の場合、そうした特技とは別に、先ず 「榎木津さんはぴたりと当たる……(略)……だからあれは、動体視力が異常に発達してるんでしょうね。ケモノ並」(五徳猫・益田) 「榎木津は、自由自在に他人の記憶を視る能力を持っている訳じゃないのですよ。あれは、好むと好まざるとに拘わらず、他人の記憶が |