10章 忍びの地図

「ハリー、しーっ!」
 四階の廊下の中ほどで、声のする方に振り向くと、フレッドとジョージが背中にコブのある隻眼の魔女の像の後ろから顔を覗かせていた。
「何してるんだい? どうしてホグズミードに行かないの?」
 ハリーはなんだろうと思いながら聞いた。
「行く前に、君にお祭り気分を分けてあげようかと思って」フレッドが意味ありげにウィンクした。
「こっちへ来いよ……」
 フレッドは像の左側にある誰もいない教室の方を顎でしゃくった。ハリーはフレッドとジョージのあとについて教室に入った。ジョージがそっとドアを閉め、ハリーの方を振り向いてニッコリした。
 ある意味名場面の一つですね。この後この地図が何度となく活躍するわけですが、このときの二人には予想もできなかったことでしょう。ニッコリするジョージが可愛いんですが、一抹の胡散臭さを感じる(笑)。

「一足早いクリスマス・プレゼントだ」
 フレッドがマントの下から仰々しく何かを引っ張り出して、机の上に広げて見せた。大きな、四角い、相当くたびれた羊皮紙だった。何も書いてない。またフレッドとジョージの冗談かと思いながら、ハリーは羊皮紙をじっと見た。
「これ、いったいなんだい?」
「これはだね、ハリー、僕たちの成功の秘訣さ」ジョージが羊皮紙をいとおしげに撫でた。
「君にやるのは実におしいぜ。しかし、これが必要なのは俺たちより君の方だって、僕たち昨日の夜そう決めたんだ」フレッドが言った。
「それに僕たちはもう暗記してるしな」ジョージが言った。「われわれは汝にこれを譲る。僕たちにゃもう必要ないからな」
「古い羊皮紙の切れっぱしの何が僕に必要なの?」ハリーが聞いた。
「古い羊皮紙の切れっぱしだって!」
 フレッドはハリーが致命的に失礼なことを言ってくれたといわんばかりに、顔をしかめて両目をつぶった。
「ジョージ、説明してやりたまえ」
「よろしい……われわれが一年生だったときのことだ、ハリーよ――まだ若くて、疑いを知らず、汚れなきころのこと――」
 ハリーは吹き出した。フレッドとジョージに汚れなきころがあったとは思えなかった。
「――まあ、いまの僕たちよりは汚れなきころさ――われわれはフィルチのご厄介になる羽目になった」
「『クソ爆弾』を廊下で爆発させたら、なぜか知らんフィルチのご不興を買って――」
「やっこさん、僕たちを事務所まで引っ張っていって、脅しはじめたわけだ。例のお定まりの――」
「――処罰だぞ――」
「――腸をえぐるぞ――」
「――そして、われわれはあることに気づいてしまった。書類棚の引き出しの一つに『没収品・特に危険』と書いてあるじゃないか」
「まさか――」ハリーは思わずニヤリとしてしまった。
「さて、君ならどうしたかな?」フレッドが話を続けた。
「ジョージがもう一回『クソ爆弾』を爆発させて気をそらしている間に、僕がすばやく引き出しを開けて、ムンズとつかんだのが――これさ
「なーに、そんなに悪いことをしたわけじゃないさ」とジョージ。「フィルチにこれの使い方がわかってたとは思えないね。でも、たぶんこれが何かは察しがついていたんだろうな。でなきゃ、没収したりしなかっただろう」
「それじゃ、君たちはこれの使い方を知ってるの?」
「ばっちりさ」フレッドがニンマリした。「このかわい子ちゃんが、学校中の先生を束にしたより多くのことを僕たちに教えてくれたね」
「僕をじらしてるんだね」ハリーは古ぼけたボロボロの羊皮紙を見た。
「へぇ、じらしてるかい?」ジョージが言った。
ジョージは杖を取り出し、羊皮紙に軽く触れて、こう言った。
われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり
 すると、たちまち、ジョージの杖の先が触れたところから、細いインクの線がクモの巣のように広がりはじめた。
 双子の息の合った掛け合いが聞こえてくるようです。落ち込んでるハリーを励ますためにこれを譲ろうと考える双子も素敵だし、そんなことを夜話し合ってる二人を想像すると愛おしいわ。フィルチからこれをかすめ盗ったときの無言の連係プレーも見事! フレッドとジョージに汚れなきころがあったとは思えないって、ハリーなにげに超失礼(笑)。まあ、ジョージも自覚してるようなのでいいんですが(笑)。

「ホグズミードに直行さ」フレッドが指でそのうちの一つを辿りながら言った。
「全部で七つの道がある。ところがフィルチはそのうち四つを知っている――」フレッドは指で四つを示した。「――しかし、残りの道を知っているのは絶対僕たちだけだ。五階の鏡の裏からの道はやめとけ。僕たちが去年の冬までは利用していたけど、崩れっちまった――完全にふさがってる。それからこっちの道は誰も使ったことがないと思うな。なにしろ暴れ柳がその入り口の真上に植わってる。しかし、こっちのこの道、これはハニーデュークス店の地下室に直通だ。僕たち、この道は何回も使った。それに、もうわかってると思うが、入り口はこの部屋のすぐ外、隻眼の魔女ばあさんのコブなんだ」
 リーにも教えてあげなかったんだよね…ちょっと気の毒かも。

「ムーニー、ワームテール、パッドフット、ブロングズ」地図の上に書いてある名前を撫でながらジョージがため息をついた。
「われわれはこの諸兄にどんなにご恩を受けたことか」
「気高き人々よ。後輩の無法者を助けんがため、かくのごとく労を惜しまず」
フレッドが厳かに言った。
 この4人が誰かってこと、ハリーは二人に教えたんでしょうか。それぐらい話してもいいよね。驚いたでしょうね、二人も。

「というわけで」ジョージがキビキビと言った。「使ったあとは忘れずに消しとけよ――」
「じゃないと、誰かに読まれっちまう」フレッドが警告した。
「もう一度地図を軽く叩いて、こう言えよ。『いたずら完了!』。すると地図は消される」
「それではハリー君よ」フレッドが気味が悪いほどパーシーそっくりのものまねをした。
「行動を慎んでくれたまえ」
「ハニーデュークスで会おう」ジョージがウィンクした。
 二人は満足げにニヤリと笑いながら部屋を出ていった。
 いきなり口調が変わった様子のジョージを想像するとおかしい。ところでこの地図の使い方、消し方を二人はどうやって知ったんでしょうか。同類の考えることは似ていたんでしょうか。それにしてもけっこう二人は「できる」ってことだよね、やっぱり。

「ナメクジ・ゼリーは? すっぱいペロペロ酸飴は? この飴、僕が七つのときフレッドがくれたんだ――そしたら僕、酸で舌にぽっかり穴が開いちゃってさ。ママが箒でフレッドを叩いたのを覚えてるよ」
 ロンは思いにふけって「ペロペロ酸飴」の箱を見つめた。
「『ゴキブリ・ゴソゴソ豆板』を持っていって、ピーナッツだって言ったら、フレッドがかじると思うかい?」
 フレッドがかじるわけはなかろう ロン(笑)。それにしてもロンに悪さしてたのは大体フレッドですね(笑)。

「(略)――しかしあんなに手を焼かされた二人組はなかったですね――」
「そりゃ、わかんねえですぞ」ハグリッドがクックッと笑った。
「フレッドとジョージ・ウィーズリーにかかっちゃ、互角の勝負かもしれねえ」
 手を焼いてるんですね、ハグリッド…(涙)。でもそれを笑っちゃうハグリッドが素敵だ。











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