むかし
<むかし>
今は忍術学園の昼休み。─
例によって野村雄三のもとへ決闘をしに来た大木雅之助は、今日はなんとか勝利 し、保健室での傷の手当てがすむと、ぶらぶらと特にあてもなく、学園内をぶらつい ていた。 と、前方からわいわいと、一年生のものらしい、楽しげなおしゃべりが聞こえてく る。 足を止めて見てみれば、それは彼とも何かと縁のある、一年は組の子供達だった。 そのほぼ中心にいて、彼等と楽しげに話しているのは、は組の教科担任である土井 半助と、実技担当の山田伝蔵だった。 と、伝蔵がこちらの気配に気づいたのか、ふと顔をあげ、こちらを見る。その様子 に気づいた半助も、つられたようにこちらを見た。 「─おう。大木先生か」 伝蔵が気兼ねなく笑いながら、雅之助に話しかけた。半助も彼にあのいつもの笑顔 で、お久しぶりですと頭をさげる。 「こちらこそ、お久しぶりです。何ですか。もしかして、校外実習にでも出かけら れてたのですか?」 雅之助も伝蔵らに軽く会釈をしながら、伝蔵にそう話しかけた。 「おう。この三日ばかり、学園から離れてな」 その伝蔵の言葉に、子供達が元気いっぱいに、そして無邪気に雅之助にまとわりつ き、口々に話し出した。 「でも酷いんですよ〜。夜中に突然起こされて、なんですから」 「そうそう!!学園長の、いつもの突然の思いつき!!」 「いくら俺たちの成績が悪くったってさ〜」 「山歩きがきつかった〜!!」 「でも大木先生って、丁寧な言葉遣いも出来るんですね。何か意外です」 最後の科白は、庄左ヱ門のものだった。 その科白に、雅之助、伝蔵、そして半助は思わず噴出す。確かに、子供達はぞんざ いな口調の彼を見慣れているから、そう思われてもおかしくは無い。 「おいおい、お前たち。今日一日は休みにしてやるから、さっさと風呂に入って寝 なさい。昨日は夜通し歩いて疲れたじゃろ」 その伝蔵の言葉に、子供達から歓声があがる。そして、彼等は元気にじゃれあいなが ら、忍たま長屋の方向へ走っていった。 そして、伝蔵が、半助の方を見て気遣うように言った。 「土井先生、あんたも疲れたじゃろ。子供達と同様、あんたも休みなさい」 その言葉に、半助は笑いながら頷くと、 「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて、休ませていただきます」 と言い、雅之助の方に向いて、ごゆっくりなさってって下さいと言うと、二人に一礼 して、教師の長屋の方へ戻っていった。 「やれやれ。学園長の突然の思いつきにも、困ったものじゃの」 その半助の後姿を見ながら、雅之助は笑いながら言った。その彼も、教師時代はその 被害を大いに被ったものだが。 と、半助の姿が道の角を曲がって見えなくなるのを確認してから、雅之助は、ふい と伝蔵に訪ねた。 「…なあ。あいつって、なんなんだ?」 「なんだんだ、って言うのは、何なんじゃ?」 どこか真剣な表情の雅之助を見ながら、伝蔵は彼の言葉の意味を図りづらく、右頬を かきながらそう尋ね返した。 「ああ、悪い。山田先生は、あいつの過去をいくらかは知ってるのか?」 「…何を突然…」 伝蔵は笑おうとしたが、雅之助の真剣な表情に、ふむ、と真面目に頷くと、どこか 淡々とした口調で話し出した。 「元は瀬戸内の豪族。幼い時分に家族を亡くし、忍びになった。─そのくらいしか知 らんよ」 「豪族?」 雅之助がやや瞠目しながら鸚鵡返しに言った。そして、何やら納得したらしい。 「ああ─どうりでな。何か品が良いっつうか…育ちの良い奴だろうと思ってはいたん だが」 「まあな。わしもそれを知った時は、さすがに驚いたぞ」 「…そりゃ驚くわい。…なにはともあれ、まあ…波乱万丈の人生って奴じゃな…」 雅之助はそうつぶやくと、前触れも無く、ふいとどこかへ姿を消してしまった。 「…なんなんじゃ。一体」 伝蔵は呆れたようにつぶやいたが、雅之助の気持ちもなんとなく理解できるような気 がして苦笑をもらす。そして、とりあえず、自分も長屋で休息をとろうと歩き出し た。 |
「WINDTCAL CLUB」の風音都様から相互リンク記念にいただきました。 風音都様の作品はどれも原作の行間を埋めるような素敵なものばかりで大好きなのですが、これもいかにも大木先生らしくてときめいてしまいます。 原作15巻で、知り合ってさほどまだ付き合いもないはずなのに土井先生の胃の事情(笑)を知っていた大木先生。きっとこんなふうに興味を持ったのでしょうね。 そして、「なんなんだ?」という一言が、土井ファンの気持ちを端的に代弁してくれているようですごいなと思いました。 改めて、風音都様、本当にありがとうございました。 |