第17回「暗号馬券」

 競馬を始めて8年になる。年齢と競馬歴が合わないのは、高校生の頃からやっているからである。高校時代のバイト先の先輩に教えられてハマったのだ。

 最初は、ダビスタだった。このスタート地点はおそらく間違っていなかっただろう。このゲームで競馬を覚えた人も少なくあるまい。だが、ダビスタで終わっておけばよかったものを、近所の幼なじみがPATを持っていることが発覚し、のめり込んでしまったのだ。始めた年は、ナリタブライアンという怪物くんがいたので、「競馬ってこんなもんか」と思っていたが、後にその考えは簡単にくつがえされるのは想像に難くない。

 競馬には、「万馬券」という言葉がある。読んで字の如く、万単位の金が返ってくる馬券である。馬券の発売単位は100円であるから、100倍以上のオッズの馬券のことである。この万馬券、1本目を取るまでに実に5年かかった。長いスパンである。開始当時からロクな馬券の買い方ではなかった私が、である。取れたのは、偶然ではあるが、そこに至るまでは、情報量がものを言ったのではないかと思う。高校時代と大学では、まわりにいた人間の競馬の知識量が違っていたのは事実であるから。

 万馬券を取るためのファクターとして重要なものの1つに、「暗号馬券」がある。これは、その馬名や馬番、レース名や時事ネタでつながりがある馬を買って取るという、予想としては非常にお粗末なものである。しかし、これが馬鹿にできないから面白い。RUQS競馬部での語り草としては、「山村美沙」「ブリリアントグリーン」「マークプロミスでマークミス」などがある(ちなみに最後のヤツは馬券を取ってない)。

 例として、「山村美沙馬券」を紹介しよう。これは、函館で1回だけ行われたことだけで有名な重賞、「シーサイドS」でおきた事件である。シーサイドSは、1996年9月7日に行われた。同年9月5日、山村美沙が亡くなっている。ご存知のように、山村美沙は京都を舞台にしたミステリーを数多く残しており、「京都の女王」の異名があった。この異名がキーワード、暗号である。名探偵コナンで言えば、予告編の後に言う「Next Conan's hint」である。シーサイドSは、前走まで5連勝(その中には、後にシーサイドSに代わって重賞となるエルムS(当時1500万下)も含まれている)と波に乗っていたタイキシャーロックが1番人気、後に「本賞金1億円クイズ」でいつも切り札となったメイショウアムールが2番人気であった。そしてこのレース、堅くは決まらなかったのである。要因はいくつかあるが、一番の原因はタイキシャーロックのヤネが横典であった ことであろう。さて、結果はと言うと...1着キョウトシチー、2着ヤエノジョオー。もうおわかりであろう。まさしく「山村美沙馬券」である。しかもこれで8000円もついてしまったのだから驚きである(万馬券では無かった)。

 つい先日、私は「千石イエス馬券事件」を経験した。経緯は次の通りである。

 千石イエスが亡くなった明けの日曜日、私は淀の指定席にいた。金曜日に大阪出張だったため、そのまま残っていたのだ。この日はGIの中休み(旧スプリンターズSの日時)なので、やたらと空いていた記憶がある。事実、フィガロは前日の熱が響いて病院に行ってから来たので遅かった(昼飯時ぐらい)が、指定に座れたほどである。まあ私が関西にいることがあまりなくなっているので、この機会に親睦を深めたのである(それほどのことではないが)。で、事件は中山最終12Rで起きた。それまで、「せんごくいえす」の暗号馬券も出ず(ダート1000mが5-9で決まったのが1例。でも人気サイド)、それなりに平和だったレースだったが、DDさんがコンキスタクラウンの生産牧場が「明牧場」であることを発見。坂井明しか「千」が無いと思っていた我々に、チャンスが訪れたのだ。で、馬柱を見渡すと騎手に「神」の文字が。これで出来上がりである。コンキスタクラウンはともかく、石神騎乗のレオウインザーは人気薄であった。万事OK、京都でいい思い出が出来る。レースはこちらも人気薄、ドウカンタイヨオーの逃げで始まる。ちなみにこの馬、○地なのだが、中央に入って4戦、まるでいいところがない(掲示板経験無し)馬である。しかし、人気薄の逃げ馬が恐いのは競馬の常識。菅谷を見ればよくわかる。あれよあれよという間にもう4コーナー。ハイペースで逃げたハズのドウカンは、タレるどころか二の足を使ってもう一延び。コンキスタクラウンにはつかまるが、ついには2着に粘ってしまった。石神は掲示板すら乗れずじまい。これで今日の千石イエス馬券は無かったか...とふと馬柱を見直すと、ドウカンタイヨオーの騎手に「部」の文字。で、出来上がりである。当然、誰一人として取っていない馬券であった。

 とまあ、このように数多くの暗号馬券が競馬界にはびこっている。この暗号馬券の大きな欠点は、「気づかない」ことである。気づいたとしても、レース後であったら全く意味が無い。つまり、日ごろからネタを蓄えることが大事である。この辺はクイズ研の得意分野であるから、信頼できるリソースを探すのが近道であろう。健闘を祈る。

PS:他にも暗号馬券があれば教えて下さい。採用させていただいた方には、もれなく社長のありがた〜いサイン色紙を差し上げます。発表は発送を持って代えさせていただきます(すでに「もれなく」じゃなくなってるところがポイント)


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