第20回「富士山」

 「富士は日本一の山」。唱歌「富士山」を挙げるまでもなく、富士山は日本で一番有名だと思われる山である。さらに、これもご存知のように、この山は静岡、山梨両県に跨って存在する。余談だが、「山梨、静岡」と言わないと山梨県人は怒る。早慶戦と言うと慶応の人が怒るのと一緒だ。立同戦と同立戦との違いほどではない。

 いきなり余談から入ってしまった。本筋の前に余談である。いくらこのエッセイが脱線大好きでも、これではいけない。脱線して喜ばれるのはお笑い関係と天声人語だけだ。その富士山であるが、現在の住まい(横浜)からでも晴れた日は見ることが可能である。高速を降りてから会社に着くまでの間、ほぼ真正面に見えるのである。冬は(というか真夏以外は)雪化粧で真っ白である。なかなか優美である。日本人に生まれて良かったと思えるひとときである。

 高速を降りると、会社は西にある。つまり、富士山も西に見えるのだ。これが何だと思うかも知れないけれど、実はかなり大事なことなのだ。私の実家は静岡市であるが、ここから見ると富士山は東にあるのである。静岡市のかなり西のはずれに住んでいて、静岡東高校に通っていた私は、通学中に富士山を見ることができた。3年間見ていたので、富士山は東にあるものだと頭が認識している。それが今は、西にあるのである。非常に気持ち悪い。この先、職場が変わらない限り、富士山は西にある。

 富士山は、成層火山である(コニーデ?だったと思う)。特長は、きれいな円錐形をした山の形状である。だから遠目にも美しい。成層火山といえば、クイズに出るのがアララット山である。確かトルコかどこかの最高峰だったと思うが。「ノアの方舟」の方が多分に有名であろうか。とにかく成層火山である。富士山に対する形容詞として、とかく使われるこの「きれいな円錐形」だが、これは当てはまらないことは静岡県人は知っている。  富士山には、宝永山という、ちょっとでっぱった山がある。この山は、文字通り、宝永年間にできたものだが、静岡側からしか見ることができない。ただ、この山のおかげで、静岡側からは円錐に見えないのだ。宝永山は、山の中腹(5合目付近)にある。これが火口とかにありゃーいいモノが、5合目にあるので目立ってしょうがない。富士山を知る上で、大事な要因である。写真で見る富士山は、山梨側から見たものが殆んどである。そういえば、5000円札の富士山も山梨側からである。

 去年(2001年)の11月、山梨に行った。河口湖マラソン大会出場のためである。何故、このマラソンに参加しようとしたか、それは会社でほぼ強制的に参加させられたのである。山梨に行くのは、人生通しても何回も無い。隣の県なのに、それほど魅力がないのだ。用事も無いのだ。別にWINS石和に行きたいわけでもないのだ。前回の山梨は、T寄との「箱根駅伝疑似体験ツアー」だった。コースと違う道を走っていたと思ったのに、目の前に函領洞門が見えた時は驚いたり、小田原中継所の鈴廣でかまぼこ買って帰ろうと小田原市内に入ったら、鈴廣が10件ぐらいあってどれが中継所の鈴廣かわからなかったりと、なかなか満喫したあのツアー以来である。で、山梨側から富士山を見たのだが、やはり、これぞ「きれいな円錐形」と呼ぶにふさわしい、まさに「富士は日本一の山」であった。マラソンは散々だったが(25kmを4時間かかって走ってたら、車両制限解除のため断念せざるを得なかった。ちなみに、タイムリミットは42.195kmで5時間だった)。マラソンの触れ込みが、「片山右京と一緒に甲斐路を走ろう」だったにもかかわらず、右京は走らなかった。 右京といっても、お好み焼きの「うっちゃん」ではない(わかる人だけわかってくれ)。

 登山家のことを「アルピニスト」と言うらしい。アルペンに登るからアルピニスト、か?ようわからん。パラグアイに「アルパ」という楽器があって、これを弾く人を「アルピスト」と言うのだが、よく混同する。私はクラシックをよく聞く(CDが安いから)が、認知度がイマイチ低い。アルパって知ってます?上松美香に頑張ってもらうことにしよう。

 登山と言えば、修学旅行が登山だった。高校の、である。静岡の高校なのに、長野(白馬)である。真夏に、である。学校の意図がわからない。おかげで、高校生クイズに1回出られなかった。まあ結果は残したからよしとするが。しかし、真夏の白馬って何もない。「自由時間」って言われても、何もすることが無かったのを覚えている。ショッピングもできなければ、アミューズメントも無い。1994年のことなのでオリンピックフィーバーも一切無い。グラススキーをやりに行く人もいたが、コケて火傷して帰ってきたヤツもいた。4時まで麻雀やって次の日5時起床で山登りはつらかった。そもそも、白馬のペンションには、冬のスキー客に備えて暖房はあったが、冷房が無かったから夜は非常に暑かった。じめじめしてた。軽井沢ってほんとに避暑地なんか?菅平ってほんとに合宿所か?

 というわけで、私にとって「山」のイメージなど、ロクなものはない。外部から眺めるのが一番である。登山家ってどうやって生計立てるんやろ。メスナーってそんなに偉いのか?謎は深まるばかりである。


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