第21回「3度目の正直」

 危険物取扱者に合格した。最も一般的な「乙4類」だ。半導体商社にいる限り、仕事に全く役に立たない資格である。では、何故そんな資格を取ったのか。実は理由はない。今のところ、履歴書の資格の欄に書ける内容は、普通運転免許とけん玉2級ぐらいである。英検2級と漢検2級はハッタリである。しかし、それでもこの会社に受かるのだから、仕事に関係の無い資格なんて、人事はどうでもいいことだと思っているのだろう。面接でもそんなとこにツッコミは無く、社長(さんぎょーのことではない)に至っては「アタック25」の話に興味津々だった。まあ世間で言うほど資格って重宝されてないのね。Avivaも好景気になって資格が騒がれなくなった時が勝負やろ。加藤茶も山田まりやもCMから降ろし、変わってアニメにして花沢さんの声にしたところあたり、金をかけておらず、そろそろヤバイのかもしれないが。ところで、履歴書にウソ書いたら罪になるのだろうか。自分の捺印があるのだから、有印私文書偽造か?そういえば世間では「偽証罪」が流行語になりそうだな。ウソつく事が流行るかも(流行るかい!)。有印私文書偽造になるのかどうか、元法学部のさんぎょーは調べてレポートを提出するように。

 で、この試験のためだけに学生時分さながらの試験勉強である。私は短期集中型ではなく、記憶力が無い方で、じっくり時間をかけて覚えるのはまだ大丈夫だが、一夜漬けが成功したためしがない。例外的に一夜漬けが成功したのは、出題範囲がわかっていて、なおかつ範囲が狭く、一夜で全て理解できる時ぐらいだろう。だから、「持ち込みOK」の試験では、一夜漬けはおろか試験中の「当日漬け」であるから、大体が落としたものであった。そんな私が国家資格である。しかも、一夜漬けがきかない程出題範囲が広い。願書提出が2月Middleだったので、試験準備期間は約3週間である。もちろん、この間に仕事もあるし、弥生賞もあったので、実質は、そう何日もないのは明らかである。

 金曜日(8日)。定時でダッシュして会社から逃げ、とりあえず腹ごしらえ。なにしろ、これから試験当日の時間までが闘いである。40時間ぐらいしかないのだ。腹が減っては戦はできぬ。が、手間をかけて作るには時間が勿体ない。出した結論はカップラーメンである。まあ順当か。40時間のうち、睡眠に6時間(金曜の晩、土曜の晩あわせて)あてるとし、食事だ入浴だと雑用?に3時間、移動に2時間当てるとすると、30時間弱しか残された時間は無いのだ。が、この日までに勉強した量は散々なもので、およそ200ページある参考書のうち、25ページ(表紙、目次、「はじめに」、「危険物取扱者とは」を含む)しか消化していなかった。ただでさえ覚えることが苦手な私である。学生の時であれば、もう諦めていたであろう。しかし、今は一応社会人のはしくれである。ゲンダイの記事に忠実に従って、金曜日は「勉強の日」と決め、会社でも公言をしている。なのに、落ちてしまったらいい笑われ者である。笑われ者ならまだしも、金曜日の付き合いを絶ってまで勉強すると言ってきた手前、そうやすやすと諦めて落ちるわけにはいかない。ここまで来たらとりあえずやるしかないのだ。

 さて、いざ勉強。このあたりは書くことも特にないので早送り。

 土曜日(9日)。と言っても、日付が変わったという便宜上の土曜日で、要は金曜日の24:00以降。全然捗らない。「消防庁」と「消防署長」がゴッチャになっているのが発覚。もうメチャクチャである。前回受験の時は確か「消防署長」だと思ったのに、いつの間にか頭の中で「消防庁」になっていた。許可をもらうって消防庁の誰にもらうんやろか、と冷静に考えればわかることやのに...。

 ここで「前回の受験」について話さなければなるまい。この試験、実は3回目の申し込みである。1回目は高校2年生(16)の時。もう8年も前の話である。これは、当時のバイト先に工業高校の先輩が多数おり、彼らがみんな受験しているところから影響を受けて受験したものだ。当然、当時高校生で一応受験も控えていたので、こんな資格にならない資格には一生懸命取り組む姿勢がなかった。それでも、担任が化学の先生であったことから、わからないことはその場で殆んど解決できたのは 環境的に恵まれていた。しかし、結局は自分の努力であるから、聞かなければ答えてはくれない。で、聞かないからわからない。何で聞かないかと言うと、勉強していないからである。至極単純な理由でスマン。それより、これもバイト先でハマっていた競馬の方が断然面白かったし、その年はナリタブライアンという怪物くんがいたので、これさえ追いかけていれば「競馬って簡単やな」と思えたいい時代やった。で、当日は当然のように不合格。化学の基本だけしか勉強していないので、当然の結果である。危険物は、「基本化学および基本物理」「法令」「性質ならびに消化方法」の3つに分けられ、各々で6割正解しないと不合格になるのである。化学の知識だけではどうにもならない。2度目は大学3回生(20)の時。それでも4年前。別にオリンピックイヤーに合わせているわけではない。偶然である。これはもっとひどく、勉強は勿論のこと、試験も受けていない。願書を出したというだけである。試験料(3400円)が無駄になっただけである。

 話を戻す。「消防庁」のミスは単に自分が愚かだったのだが、それでは済まされない事態が発生した。「自治省」の存在である。前回の受験が4年前であったことが災いをした。省庁改編は4年前にはされておらず、確かに自治省が存在した。消防庁も自治省の管轄だった。しかし!今回は違う。「総務省」である。時代は変わったな。年を取ったもんや。未だに何省が何省に変わったのか理解できていない私にとって、これは非常事態宣言である。と思っておけば落ちた時の言い訳になると思ったが、自治省→総務省の変換だけでいいので言い訳にならないことが発覚。ここでも自分の実力のせいにしない頑固な自分が恐い。

 それでも、必死になって勉強した。メロスは激怒した。宗男も激怒した。清美に対して。TBSはまたヤラセ。でも、昼にはしっかり競馬中継を観る。クロスヘッドは予想通りダメ着。ガレオンのガセ情報に惑わされなくて正解である。が、大分時間をくってしまった。本来なら見直しをしているぐらいの時なのに、まだ法令も終わっていない。ここで初めて「ヤマをかける」という選択肢が浮かぶ(ここまでは全部やる気でいた。我ながら天晴である)。このペースでは、どう頑張ってもムリなので、しょうがなくヤマを張ることにする。が、過去2度(受験は1度)では傾向がサッパリわからん。とりあえず、覚えなければいけない数字が沢山ある(「指定数量」「保有空地」といった法令に関するものや、「届出は何日以内」というもの、果ては「沸点」やら「蒸気比重」とかもある)。乙4の存在価値を考えると最も試験に出そうなのが「ガソリン」であると踏んだ私は、とりあえずガソリンに関する知識を詰め込むことにした。この段階で土曜日の16:30(競馬終わってすぐ)。試験は日曜13:00なので移動時間等を考えないと残り約20時間。すでに半分が経過。

 で、すぐに取り掛かればいいものを、ここで新聞の買い出し。結局、競馬が気になって仕方がなかった。クリスタルCとフィリーズレビュー。どっちも気になる。確固たる人気馬がおらず、混戦模様だ。これは買わない手はない。と予想しているうちに時間が過ぎていく。まあガソリンは覚えたし、化学、物理は今の知識でいけると思うし、あとは消火やな。

 日曜日(10日)。結局金曜からの睡眠時間は3時間。学生やないねんから...。もうヘロヘロ。でも、せっかくの試験やし、せっかくの万馬券指定レースやし、参加。9時半に家を出て東横線。寝不足なのに座れず。横浜駅って中途半端やから、イスがもう埋まってるのよ。この睡眠時間で立ちっぱなし。席を譲られる対象である、「体の不自由な方」にこれほどなりたいと思ったことは無かった。が、仕方がない。かと言って新聞を広げるスペースもない。眠れもしない。ウォークマンもない。ただただ退屈なだけである(「勉強」という選択肢は存在しない)。で、渋谷駅→WINS渋谷。ここは、さんぎょーがあのサイキックの時にあきやんを無理から引き連れて行ったというイワク付き(?)のWINSである。当時は500円単位だったが、去年からめでたく100円単位となっている。で、クリスタルとFレビューとを買う。が、武庫川Sにナリタダイドウが出ているのに気づく(WINSで知った)。ここは金もないし、テキトーにBOXにしようかと思ったが、1番人気(と思われる馬)のグロリアスサンデーがピリっとしていないようなので、ここは思い切って総流し。この思い切りが 後にドラマを生むのだ。クリスタルこそテキトーにボックス。Fレビューは隠し玉、池添のランディスティニーから総流し。池添で3回目の万馬券を取る日は近い。

 試験会場は新宿。京王線で少し行った幡ヶ谷である。買い目の決まっている馬券を買ったのが11時ぐらいで、幡ヶ谷到着は11時半。もう一度書くが、集合は13:00である。すでに1時間半も見誤ってしまった。まあその辺のファミレスにでも行って飯食って時間を潰すか、と思った自分が甘かった!なんと、会場は住宅街のど真ん中にあったのだ。ファミレスはおろか、飯を食えそうなところが何もない。コンビニもない。その代わり、緑だけはやたらと豊富である。下調べ思いっきり不十分で思わぬところでダメージを喰らった。大体、会場(消防センター)がなぜ住宅街にあるんや。サイレンが(もし鳴るのであれば)やかましいだろうし、警鐘が(もし鳴るのであれば)やかましいだろうし、消防車が(もしいれば)やかましいだろう。場所が不釣合いである。恐るべし、新宿(幡ヶ谷だが)。

 公園で時間を潰す。こんなことならキッチリ寝とけばよかったと後悔。ここで寝られればいいのだろうが、午前中も試験があったのだろう。出てくる頭の悪そうな連中が騒ぎ出してとてもそんな雰囲気ではない。かけて加えて、この日は温いを通り越して暑かった。厚着をしていたのでそれも堪えた。だから、ただひたすら時間が来るのを待つしかなかったのだ(ここでも勉強という選択肢は存在しない)。

 13:00。試験についての説明が始まる。眠気はピークで、話なんぞまるで聞いていない。

 13:30.試験開始。とりあえず、問題用紙を配られた瞬間に、覚えておいたことを全部書き出す。まあこれは高校の時からやっていたことだし、カンニングではないのでかなり有効な手段だとは思っている。試験内容と言えば、ガソリンは出てくる、指定数量は出てくると、ヤマはバッチリである。私のポリシー「楽するための苦労は厭わない」に今回は見事にマッチ。化学に至っては、

「12℃のとき1,000gのガソリンが32℃になると量は何gになるか。ガソリンの体膨張率を0.00135とする」

1:1,025g 2:1,026g 3:1,027g 4:1,028g 5:1,029g

 のような問題が出題。膨張率だとか、難しいことを知らなくても、与えられた情報を加味すると、どうひねっても3番しか導き出せない問題である。また、

「次の???に入る言葉は何か。『完全燃焼とは???が発生する化学反応である』」

という問題の下に、

「物質の完全燃焼は、以下の式で表わされる。」

C+O2→CO2+394cal

とかいうフリがあったりと、出題者が寝ながら作ったとしか思えない問題が目白押しでかなり楽しませてもらった。こんなんで資格与えてええんか。法令よりも注意力重視やん。

 というわけで余裕シャクシャクで試験終了。会場をとりあえず出る。競馬の結果の確認である。携帯の電源を入れた瞬間にガレオンからTEL。「ナリタ(ダイドウ)、買ったか?」の声。ということは、ナリタが来たんか?と聞くと、「いや、発走前だけど」の返し。さんぎょーソックリである。つくづく、いい人間関係の中で仕事をしていると思えるやりとりである。「とりあえず買ってます」「何だ、買ってるんか...」「どういうイミですか?」「いや、買い時だと思うぞ」「そうですか。じゃあガレオンさん(ホントにこう呼んでいるわけではない、念のため)も買って下さいよ」「そうだな」というようなやりとりがあって発走前に電話は切れた。試験結果が4時には発表になるのだが、それまでテレビも何もない消防センターで1時間ヒマを潰さねばなるまい。まあ新聞持ってるし、ナリタが来たら電話が来るやろ。しかし!待てど電話は来ず。諦めていたのだが、フィガロから「お返しやな、万ゲット?」のメール。ここで言う「お返し」とは、前日にフィガロの馬(マイネルレガリア)が出した万馬券のことである。彼はこの馬が万馬券を3回も出しているのに、そのただ1度もゲットしていないことを付け加えておく。「ナリタは人気サイドやと思ったが...」「人気薄引っぱって2万シュー」「試験勉強蹴ってWINS渋谷に行った甲斐があった」「渋谷と言うと特券か?」「残念ながら渋谷はすでに100円単位で も買える」というやりとりでナリタから万馬券であることがわかった。それにしても連絡をくれないガレオンは、優しくない。おそらく、自分が取ってないからふてくされているのだろうと思い、こちらからも電話をしなかった。

 万馬券なのはいいとして、1つ心配がある。払い戻しの時間である。発表が4時。不合格なら即お帰りなので、渋谷にいけば充分間に合う。が、合格ならば免状発行の手続きがあるため、時間がかなりギリギリである。当初、発表は16:15と言われていたので、半ば諦めていたのだが、それが16:00に繰り上がり、望みが出てきた。それでも時間が際どいのは変わりないのだが。しかし、こうなると手持ちの金が2万増える方が、意味のない資格を取るよりよっぽど有意義だと思う。どうせ、ヤマ以外のところは当たってないやろから、6割の正解率はムリやろ。渋谷行ったろか、と思うが、万が一受かっていたら、この試験時間はおろか、試験勉強時間も試験料もまったくのムダになってしまう。まあ合格発表を見てから行くぶんには時間的に余裕がまだあるから見てから行こうと決意。...こういう時って、やはりなってほしい状況にならんもんやね。受かってしまうんだ。

 手続きが始まる。合格率が39%と言っていたが、受験者が1000人ぐらいいたので390人が一斉に手続きである。すぐには終わらない。証紙(免状発行に必要)販売窓口が2ヶ所しかないのが最大の問題である。よう考えて設置して欲しいものである。30分ぐらいでなんとか終了。とガレオンから図ったかのように電話。「ナリタ取ったか?」「取りました」「俺はボロボロ。イーグルなんちゃらって何だ」「あ、それゲンダイで推奨してました」「お前、そういう情報は早く言えよ」ちなみにガレオンは、夕刊フジ派である。このやりとり終了で16:40。消防センターから幡ヶ谷駅まで猛烈に走って5分。そこから2駅である。新宿着が16:55。渋谷は到底ムリなので、ほぼ駅前のWINS新宿にダッシュ!到着が16:58。奇跡である。間に合った。シャッターは半分閉まってたが。で、緑のおばさん(朝の横断歩道にいるおばちゃんではなく、JRAの職員という意味。ってわかるやろ)に「コピー機どこですか?」「あー、ここには無いよ。」......この瞬間、幡ヶ谷から総距離1km(推定)に渡って準備運動もせずに走った私の努力は露と消えた。間に合うと思って悪あがきし た私が悪いのか、証紙販売窓口が2ヶ所しかない消防センターが悪いのか、図ったかのように電話してきたガレオンの間が悪いのか。おそらく全部悪い。これも本厄の影響なんやろね。あーついてない(万馬券取って言う台詞ではない)。

 16日に関西遠征だと言うのに、資金があるというのに、現金が無いという異常事態。やはり、いいことってそうそうあるもんじゃない。3度目の正直で危険物が取れたことで運を使い果たしてしまったようだ。そういえば、競馬と何かをかけもちでやって両方いい結果だったのは、今回が初めてである(100%喜ぶ状況ではないが)。だから、今回は特別許す(誰に対して?)。次回のかけもちは、マークプロミスで万馬券を取り逃した、WINS後楽園&東京ドームの野球観戦。大事な毎日杯、チアズシュタルクの運命やいかに?


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