第24回
万馬券をゲットせよ!
〜POG馬でのワイド万馬券取得プロジェクト〜

 全国の競馬ファンが、馬券以外のところで熱くなるゲーム「ペーパーオーナー」。このゲームに参加し、ゲームの勝利より馬券で懐を暖めようとする男がいた。何度も挫折を味わった。何度も自分の馬に裏切られて泣いた。また、2度もワイド万馬券を出しておきながら取れない自分もいた。これは、PO馬でワイド万馬券取得を諦めた男の、涙の復活の物語である。

この辺のBGM:地上の星(中島みゆき)

 平成11年11月27日。秋も深まる福岡、小倉。ここで新たな歴史の1ページが刻まれていた。拡大馬番連勝、「ワイド」の発売である。一人の男が現地にいた。さんぎょー。裏金産業の社長である。彼は、自分で新馬券をいち早く経験すべく現地に赴いたのだった。お目当ては、現地でのメインレース、第35回CBC賞でのダントツの1番人気、アグネスワールドである。海外GI、アベイユドロンシャン賞を勝っての帰国第1戦。負けられるハズもない。1200m(アベイユドロンシャン賞は直線000m)で5勝、夏の同競馬場、同距離の北九州短距離Sで1分6秒5のとてつもないレコードを打ち立てていた。そして、、、さんぎょーのPO馬であった。

 一人の男が滋賀にいた。クールてつおー。裏金産業の草津支店長である。彼は、新馬券の期待と持ち金を天秤にかけ、現地には赴かなかった(赴けなかった)。かつて、自らが自信を持って指名した1頭のPO馬がいた。タヤスブルームである。山内厩舎期待の持ち込み馬、滑り出しは順調であった。新馬、ラベンダーと連勝して望んだGI、阪神3歳牝馬S(当時)では9着に甘んじるが、続くGIIIフェアリーSで鮮やかに重賞奪取。しかし、ここ数回は低迷していた。鞍上には、千田輝彦。シゲルホームランである。

 レースは、アグネスワールドが快勝。2着に春のスプリント王、マサラッキが入り、馬連は1番人気の430円。だが...。3着はタヤスブルームだった。ワイドは発売初日で現地でしか買えないものであったが、彼はさんぎょーに馬券を頼まなかった。「千田だから」。それだけだった。ワイドは、史上初の万馬券が出た。11910円だった。...買えなかった。

 明けて平成12年。クラシックを賑わせる、1頭の馬がいた。チアズグレイスである。山内、牝馬、サンデーサイレンス。クールてつおーにとって、PO馬にするには苦労しない馬だった。チューリップ賞でダントツ1番人気を裏切り、人気を落とした桜花賞では一変、見事戴冠した。その馬がオークスに出走。生来の頭の高い走法から、世間はマイラーと判断。GI馬にもかかわらず1番人気は僚馬に譲り、5番人気と評価を下げていた。

 レースは、その僚馬、シルクプリマドンナが勝利。チアズグレイスはクビ差ながら2着を確保。しかし...。3着は16番人気のオリーブクラウン。ワイドは17390円だった。...買えなかった。

 これまでの2度の失敗から、「ワイド」という馬券に真剣に取り組む気が失せていた。口をついて出る言葉は「ワイドなんか馬券じゃない。」周りからも同様の声は挙がってはいたが、所詮、負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。

 クールてつおーには、大好きな騎手がいた。菅谷正巳。京都競馬場ダート1800mを走らせたら右に出るものはいない関西の名手である。また、逃げ馬を逃げさせるその腕前も天下一品であった。

 その年の11月5日。東京では、第38回アルゼンチン共和国杯があった。このレースで、アルゼンチンが共和国であることを覚えた人も数多くいることであろう。その一人がクールてつおーであった。本筋には関係ないが。

 出走馬に、1頭の逃げ馬がいた。名をサンデーセイラと言った。長いところを使われてきたものの、他の脚質の馬に邪魔されて行き切れずに惨敗が続いていた。今回は逃げ馬が他にいなかった。「総流しだ!」心で思った。そんな中、彼に声をかける一人の男がいた。DD。独自の指数から馬券を購入する、データと自らの経験から結論を導き出すことを得意としていた。「総流しは危険だ!」「何でですか?」「逃げ馬は連対実績がない。ここはワイドが無難だ。」クールてつおーは耳を貸さなかった。馬連のみの勝負だった。

 結果は3着だった。1着に3番人気のマチカネキンノホシ、2着に9番人気のメジロロンザン。そして3着が12番人気のサンデーセイラだった。ワイドは、1着3着が万馬券。9-12番人気の2着3着は7190円だった。DDの忠告は結果として正しかった。

スタジオ収録

膳場 「スタジオにはゲストをお迎えしております。裏金産業草津支店長のクールてつおーさ んです。」
てつおー 「どうもこんにちは。」
国井 「しかし、大変でしたね。自分の馬で2度も取れずに、好きなジョッキーにまで出されて。」
てつおー 「そうですね。しかし、自分の中では、『ワイド』という馬券は頭に入っておらず、選択肢 として無いわけですから、どうしようもないんですけどね。」
膳場 「てつおーさんが今まで歩んできた競馬人生において、この『ワイド』の出現はどう影響が ありましたか?」
てつおー 「順応することの難しさを知りました。何事も草分けって大変なことだと思いますから。」
国井 「そうですね、初めてフグ食べた人とか大変だったでしょうね。」
てつおー 「痛かったと思います。」
膳場 「痛いでしょうね。私なんかも経験ありますから。」
国井 「おや、何があるんですか?」
膳場 「静岡から、初めて東京に出た時、蛇口からお茶が出なかったことに驚きまして、その日の うちにクラシアン呼んで直してもらいました。東京ではまだ無かったらしく、大変珍しいこ とのようでしたよ。」
てつおー 「わかります、わかります。静岡の人しかわからないんですよね、この悩み。」
国井 「なるほど。それは『白い恋人』を『白い変人』と呼んでしまって『死ね死ね団』が頭に浮 かぶのとよく似ていますね。」
てつおー 「はーそうですね。『鉄腕アトム』が初めてのアニメだからって「♪はーじーめてーのアト ームーはじめてのーむじんくんー」って歌うのと一緒ですね。」

自分で書いてて馬鹿らしくなったから中略。忘れてちょうだい、 忘れてちょうだい。

膳場 「プロジェクトは、いよいよ大詰めを迎えます。果たして万馬券は取れたのでしょうか。」

 平成13年のドラフト会議。クールてつおーは2頭のサンデーサイレンス産駒を指名した。前述、チアズグレイズの全弟、チアズシュタルクと、○市で1億円で取引されたタイガーカフェである。

 チアズシュタルクは順調だった。デビュー戦こそ、後の京成杯馬、ローマンエンパイア&合コン大好き武幸四郎に負けるも(ちなみにヤネはデムーロだったけど)、続く返り新馬を快勝。年が明けてシンザン記念ではタニノギムレットの半馬身差の2着、共同通信杯では、およそ届きそうに無いところからの剛脚で差し切り勝ち。さらに続く毎日杯ではメンバー中ただ1頭57kgを背負うも横綱相撲で押し切る。5戦3勝2着2回。連対率1.000。一方タイガーカフェは波乱万丈。新馬戦4着から返り新馬戦(1200m)を使わずに1800mの未勝利戦に出走し勝利。続く札幌2歳Sでは追い出しタイミングを思いっきり誤り12着に惨敗。短期放牧明けの葉牡丹賞でサスガに後塵を拝すものの、有馬記念の日のホープフルSで400万の身ながら快勝。弥生賞3着で皐月賞優先出走権を確保し、ようやく皐月賞にこぎつけたのである。

 皐月賞。GIの2頭出しは初めてである。戦歴を見ると、明らかにチアズの方が実績その他から強く、人気サイドと思われる。が、この日は違った。単勝はタイガーの方が人気しているのであった。「なんだこの不当な人気は?」

 その年、世間を一つの大事件(!?)が襲っていた。阪神タイガースの大躍進である。タイガース、タイガーカフェ。いつの時代も、人々は暗号を追い求めているのである。増して、カフェの西川清さんの勝負服は黄地に黒のたすき。タイガースのカラーである。加えて5枠。疑う余地の無い暗号馬券であった。最終的に単勝オッズはチアズの方が人気していたが、タイガーは実績よりも評価の高い8番人気であった。

 レースはローマンエンパイアの出負けで幕を開ける。淀みないハイペースで、逃げ宣言のメジロマイヤーが逃げる。連れてダイタクフラッグ。タイガーカフェは好位。チアズは大外枠から中団よりやや後ろ。3コーナー。まだ中団の人気どころは仕掛けない。4コーナー。大外一気のタニノギムレット、さらに後ろのローマンエンパイア、チアズシュタルク、モノポライザー。

 直線。ダイタクフラッグが頭出るが、伸びてきたのはノーリーズン。大外からとんでもない脚を使うタニノ、内をすくうタイガー。チアズはもう伸びてない。オッズの関係上、チアズに厚く張っていた男は、崩れ去っていた。いや、崩れ去るハズだった。タイガーがまだ脚を使っている。ダイタクを差したがタニノが猛追してきたところがゴール。結果は?

 長い写真判定の末、タイガーが粘っていた。馬連は5万、1-2着ワイドは1万だった。

この辺からのBGM:ヘッドライト・テールライト(中島みゆき)

 猛反省に猛反省を重ね、2頭出しにもかかわらず、手持ち2万円にもかかわらず、馬連、ワイドを総流し握っていた(しかも1万円はガレオンの頼まれ馬券に消えていた)。最後まであきらめないデムーロの騎乗。過去を振り返って、高い授業料を払って会得したワイドの購入。そして人気薄、ノーリーズンの激走。すべてがいい方向に向かっていたのだった。

 グリーンチャンネルで見ていたクールてつおー。配当を確かめると、一目散に桜木町(WINS横浜)に向かった。無論、払い戻しのためだ。日曜の夕方、ちっとも動かない新横浜通りをひた走る愛車もフィット。払い戻しは5時までなので、時間がない。4時40分にようやく到着。が、コピーが無い。緑のおじさん(横断歩道にいて、児童を補助している人ではない、って前にもこのネタ使ったな)に聞くとコピーの場所を指さした。...ローソンだった。諦めきれなかったが、諦めた。記念の馬券 である。何としてでもコピーが欲しかった。

 日も暮れた頃、一本の電話が。主はガレオンだった。土曜日の分のtotoが全部当たっていて、今日の結果が知りたいと、出先からの電話だった。馬券を頼んで、その結果を知ることよりもプライオリティが高かった。1億と5万とどっちが大事かと問い詰められた。言い返せなかった。が、許せなかった。罵声を浴びせたった(結局は3等だったそうだ)。

ナレーション:田口トモロヲ


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