第39回
代田、抱いて!

 4/7(月)。その日も普通に仕事をしていた。いや、しているハズだった。

 仕事柄、私は客先に行くことが多い。その日も16時から五反田での約束があり、現地に赴いていた。客の基板が動作しない、ということでデバッグに行ったのである。エンジニアならわかると思うが、技術の仕事でデバッグほどイヤなものはない。まずやっていることが後ろ向きである。開発するのではない、開発したものを動作させるのである。原因がキチっとわかっているのならともかく、大抵はその原因から模索しなくてはいけない。

 今回も、考えられる原因とそれに対するソリューションをいくつも用意して戦場に向かった。しかし!どれをとっても原因は解決しない。客に落ち度がないのである。こうなると完全にハマるケースである。デバッグで客に呼ばれるということは、「動作しませんから来てください」と言うことであるから、裏を返せば「動作するまで帰しません」ということである。モチベーションなど上がるハズがない。デバイスにも原因がない、基板にも原因がないとなるといよいよわからなくなる。

 こういう時、考えて行動していてはいけない。商社たるもの、売り上げは足で稼ぐものだと入社してからずっと言われてきた。そう、立ち止まってはいけないのである。今あるリソースを使ってやれることを全部やらないといけないのである。で、試しに私が持参したPCを使って制御すると…。これが動作するのである。じゃあPCが原因か?ということで客に別のPCを用意してもらうとやっぱり動作する。どうやら、PCに問題があったらしい。しかし設定とかには問題は一切なく(私のPCでも全く同条件でやっている)、やぶれかぶれに「相性ですかね?」と言うと、なんと客も納得しているではないか。じゃあPCに問題がある可能性があることを最初に言えってんだぃ。とはいえ、この事例は至極稀なケースなのでしょうがない。

 さて、長々と仕事の話をしてみたが、今回の本題とは全く関係ない。言いたかったのは、「全然関係ないことを言ったのに問題が(しかも早く)解決できた」ということである。デバッグで1時間を切って客から開放されることなど、私自身おそらく初めてであろう。ともあれ、17時には五反田で私は解放されたのである。

 中途半端な時間でアポが終わると、私の頭の中で考えることは、競馬に行けるか野球に行けるかの2択である(会社に戻る、という選択肢はその後に浮かぶ)。この日は千葉での1試合(ロッテ=近鉄)だけということがわかっていたが、もちろんロッテファンの私としては千葉で試合があるだけで充分である。早速車を飛ばす。湾岸線を走ればものの40分ぐらいで幕張なのだ。

 さて、その幕張。着いた時にはすでに18時近かった。千葉は試合開始が18:15であるから、間に合うことは間に合うのだが、ご存知のようにライトだけはすぐに埋まるので、うかうかしてられない。とりあえずいつものようにメッセの駐車場に入れると車の数が多いことに驚く。この日は月曜日である。もう学校も始まっているような日付(4/7)である。それでもやたらと車が多いのである。と、ここであることに気付く。千葉では開幕ダッシュなんちゃらフェアーと題して、4月の頭の方の試合は内野自由を1000円にしていることに。んなら仕方がない。ま、いつもより客の入りが多かったとしても内野自由だけやろ、と高をくくった。というか、ここまできたのだからどうなろうが球場には入るのである。あれこれ考えていてもしょうがない。

 球場入りすると、丁度スタメン発表時。波留が浦和行きになったようで、センターにはサブローが戻ったようだ。いいことです。しかし、近鉄のスタメンも「1番センター大村」。よう考えたら、これどっちにも当てはまるやん。あとは当たり障りの無いフツーのスタメン。ショートは7番に降格している。これが新外国人だからイヤになる。まあオリよりはマシか。前の方が比較的開いていたので2列目に陣取る。周りを見渡すと子供が多い。そのうちの1人が例によって背番号54をつけており、「ああ、ジョニーか…」と思って名前のところを見てみると「JONY」とある(もちろん、正しくは「JOHNNY」である)。ニセモノやん。チビッ子仲間からよくツッコミが入らなかったもんである。私が子供の頃なら、確実にイジメの対象になっていただろう。

 試合開始に先立って、球場から「今日は小野選手の誕生日です。みんな、応援しましょう」とのコメント。嫌でも盛り上がるライトスタンド。しかし、大体誕生日の人がいると応援団が「ハッピーバースディ」をトランペットで吹くのだが、ロッテはやらないようである。マウンドに登った時にもやらず。こういうところは気が利かない。はぐれ刑事も、青葉城恋唄も吹けるロッテ応援団が、である。これも応援団の特徴の1つか。そういえば、応援団が音頭を取る場所に、今年からやぐらを組んでいた。席数にして20席ぐらいを占拠して、である。満席になることが少ないとはいえ、これはちょっと横暴やろ。

 試合開始。小野は同郷やし、頑張ってほしいものである。大村を簡単に一ゴロに仕留めるが、水口、ローズに連続ヒットを浴びる。ローズは開幕から当たりに当たっており、注意が必要だったにもかかわらず、不用意な1球であった。将海も成長しているようでしていない。顔は新井(広島)にそっくりでふてぶてしいのに。ノリにフォアボールを出してのっけからピンチ。続く礒部には追い込みながらも勝負球が高目に浮いて中飛。近鉄が開幕からの流れそのまま先制。6番吉岡を三ゴに抑えて、なんとか1失点で踏ん張ったが、不安な立ち上がりである。

 その裏、ロッテの攻撃。1番サブローが三遊間をきっちり破って出塁。続く井上純が送ってロッテもチャンス。が、福浦が三振。オープン戦からどうもイマイチ。4番は12球団でトップを争う頼りなさのメイである。2球目にライトポールを巻く大ファウルを打つのだが、当たれば飛ぶのである。なんとかしてほしい。するとセンター前にタイムリーヒット。アッサリ同点。開幕から5試合タイムリーが無かったチームとは思えない。さらに5番堀がヒットで続いて6番立川がフォアボール。さあこれから、というときに、ショートがショートゴロ。3者残塁で結局1-1。ツメが甘いのも相変わらず。早く監督を変えるべきである。

 2回表。小野はまだ不安定で、2本のヒットを許すが2死から水口を三振に取りとりあえず無得点。しかし、この三振のスイングの時にどこかを痛めたのか、その裏の守備で早くも水口が下がる(水口→高須)。水口に比べれば高須はバッティングが恐くなさそうなので、まあプラスに考えることにしよう。この回は小さい体を生かして小坂がフォアボールを選ぶも(盗塁も決める)、後が続かず。

 3回。ローズに2ナッシングと追い込んでおいて、フォアボールを出す。どうも小野はムダに球数が多い。ノリは三振だが礒部にライト前に運ばれてまたピンチ。ここは吉岡をゲッツーに仕留めて事なきを得る。まだ本調子ではないようだ。早いところ援護が必要。その裏。福浦遊ゴの後メイがフォアボール。どうやら小野だけではなく近鉄のバーンも制球力がないようである。続く堀には初球に死球。とりあえず騒ぐライトスタンド。で、立川が三振して2死1,2塁。ここでまたもやショート。しかし、この日のショートは違った!ライト線ギリギリに運ぶタイムリーで2-1と勝ち越し。ショートも、フェルナンデスの加入で焦っているようである。確かに外国人枠が厳しいからねぇ。5人(メイ、ショート、フェルナンデス、ミンチー、シコースキー)のうち誰が浦和行きか言われたらショートになるやろうし。続く将海が三振でこの回1点。

 4回。ボール先行の小野の投球は続く。川口一ゴ、星野二ゴの後的山にやっぱり四球。低めを丁寧に突いてはいるのだが…。3人でピシャっと終わらないところが煮え切らない。大村三振で0点。その裏。小坂がやっぱり四球、サブロー送って1死2塁。バッターは井上純。しかしバーンがここで2塁にけん制悪送球で小坂は悠々と3塁。気落ちしたバーンからライト前にタイムリーで追加点。さらに福浦も続いて4-1。らしくない攻めで帰り事故るんちゃうかと不安になってしまう小心者のロッテファン。この回は2点を加点。井上は今年シーズン初安打らしい。よかったよかった。

 5回。高須二ゴもローズに四球。ノリを右飛に抑えるも礒部にまた四球(この間にワイルドピッチも挟む)。また2塁にランナーが行くのだが、吉岡がこの日不調でここで食い止める。相手は近鉄だし、3点なんぞワンチャンス。大事にいきたいところなのに、投手がピリっとしない。不安だ…。その裏。先頭の立川がヒットで出塁。ショートは三ゴも1塁アウトで1死2塁。将海は一邪飛の後、小坂が渋〜くレフト前。これで追加点と思いきや、ローズからの返球でホームタッチアウト。残念であるが、しばらく立川が動けず。心配である。いまや貴重な戦力である彼を失うのはロッテにとって痛手である。それでなくても外野は層が薄いんやから。5回終わってるので球場にはロッテの応援歌が流れているが、バックスクリーンはうずくまった立川を映したまま。ファンもすごく歌いづらそう。で、歌の途中にやっと起き上がったのだが、その時、歌詞の「王者はおごらず勝ち進む」というところを表示。なのに画面は立川が引きずられているところと対照的。不謹慎にも笑ってしまった。この映像を見せられて「勝ち進む」という感じにはとてもじゃないがなれない。

 6回。立川はそのまま守備に。先頭の川口が三遊間に抜けそうなゴロをショートがファインプレーで三ゴにする。隣の兄ちゃんが友達に電話で嬉しそうに「三遊間のゴロをショートがファインプレーした」と言っていたが、これだけではショートがリック=ショートなのか小坂(遊撃手)なのかがわからないと思う。友達は理解できたのだろうか。ファインプレー言うたら小坂がやりそうやし、おそらく勘違いしていると思われる。星野が遊ゴで的山が3球三振。やっと三者凡退。  6回裏。ピッチャーがバーンから小池に代わる。バーンは降板。オンワードバーンは竹柵で落馬(ヤネは菊地)。先頭サブローが三振。で、井上に代打で佐藤幸彦。さすがは生え抜きの選手、声援も人一倍大きい。まあ幸彦の場合応援が簡単なんだが。結局四球を選んで出塁。代走に代田。幸彦が引っ込んだ時からライトスタンドは「代田出せー」との声。さすがにファンもわかってきたようだ。福浦が四球で1死1,2塁の後、メイがまたタイムリー。今日のメイ、なんかおかしい。2塁から俊足を生かして代田が生還。福浦も3塁へ。これで5-1。代田の俊足にシビれたか、後ろのお姉ちゃんは守備に着く時、「代田さん、抱いて〜」と絶叫。おもしろすぎる。一部には「代田さん、サイテー」にも聞こえていたようで、また祭発動。これだからロッテファンは恐ろしい。

 続く堀からは右が続くので小池はお役御免。代わって出てきたのは寺村。もはや敗戦処理に成り下がってしまったか。ロッテが手放したのは正解かもしれん。この寺村がヒドい。堀にタイムリーで福浦生還(6-1)、この間にメイが自慢の足を生かして3塁を陥れる。返球はサードに来てタイミング的にはアウトだったが、ノリがボールをこぼす。その間に堀は2塁へ(記録上はワンヒットワンエラー)。ライトはタオル回しが始まる。立川は三ゴでメイが三本間に挟まれて2死1,3塁。しかしショートがまた打つ(7-1)、将海四球で満塁の後、小坂がストレートの四球で押し出し(8-1)、打者一巡でサブローが先ほどの三振の汚名を挽回すべく初球をセンター前に、2者生還(10-1)。もうグチャグチャ。隣近所の連中とハイタッチももう疲れた。最後には抱きついてたからねぇ(女の子も含む)。代走のはずの代田が打席に立つ(スコアボードに"R"がついている人が打席に立つのを見るのは珍しい。これでホームランなんか打つとすごい記録なんだろうが、生憎代田には長打力が乏しい)。ちなみに代田の応援歌は、某法律専門学校のCMソングである。「どこまーでもー、どこまーでもー、果てしーなーいー空ー…」というアレである。歌詞も全く一緒。ロッテの応援は基本はパクリなのだが、そのソースがわからない、というのが最近の傾向であったが(小坂も応援歌が変わったし)、この応援歌はあからさますぎる…。工夫が感じられない。せめて歌詞ぐらい変えようや。澤井(ガガガSPの「卒業」)でも変えてるのに。で、この代田が右飛でやっとチェンジ。30分は攻撃していただろうか。応援も疲れる。寺村は堀の時から一切代えられず、やはり敗戦処理だったようである。

 7回。小野はマウンドを降り、代わって藤田。代田はそのままレフト。1番から始まる打順も、大村に代打下山。キャンプ前半、あれだけ騒がれていた(そんなに騒がれてないかもしれないが)下山だが、シーズンに入ってからは大した活躍もしておらず、ここでも見逃し三振。高須三ゴ、ローズ三振で三者凡退。頼れるセットアッパーである。裏。福浦が左飛もメイがライトスタンドにライナーで飛び込む一撃。私のいた角度から見るとファウルに見えたが、1塁塁審の新屋が手を回してホームランのジェスチャー。声援もやや歯切れが悪かったところを見ると、やはりファウルだったのだろう。梨田以下コーチ陣も何人か講義に来ていたが、覆らず。球場もリプレイを流すもボールを追う画面は映さずと、球団ぐるみの詐欺行為に梨田は引き下がる。それより、まだ寺村を代えないところがすごい。もうプライドなんかズタズタやろうね。堀が三ゴで立川には代打垣内。今年の新加入選手の中で、一番面白くてカッコイイ応援歌である。去年のヒットは喜多だったが、今年は垣内だろう。出場機会も多そうだし、これからが楽しみである。この垣内が四球で出塁もショートが三振で残塁。

 8回。ピッチャーは舩木。垣内はレフトに入り、代田がライトへ。また、堀が下がって原井がセカンド、キャッチャーは将海から橋本将へ。しかしそんな守備変更もあまり関係なく、中村、礒部、吉岡と三者凡退。裏のロッテの攻撃は淡白に終わり、いよいよ9回。

 先頭川口の打球を福浦が処理を焦り、エラー。続く前田(星野から代わっていた。しかし近鉄はずっとショートが穴だな…。真喜志もコーチやっとるんなら、後継者を育てないと。なんてコメントはロッテにも通じるところがあるのだが。酒井がいないのがつくづく悔しい。酒井がいないがために、小坂は今年から守備範囲が増大し、一人で三遊間も二遊間も守らなきゃならんようになったのだ。インタビューで「小坂と酒井が二遊間を守ると防御率が1点下がる」という迷言を残したのは我らが園川。ちなみにこの後、きっちり「そんなことはない」というツッコミがインタビュアーからあったそうな。ともかくそんな前田が(どんなだ)ヒットで続いて無死1、2塁。代打鷹野が三振で1死取るも、下山四球で満塁。で、高須に2点タイムリーツーベースを打たれる。最後ぐらい気持ちよく終わりたかったのだが、大量リードの気のゆるみか。いや、1点差でもこんな風にして点を取られることは、ことロッテに関しては多い。1死2、3塁となったが、ローズ中村を連続三振でゲームセット。やりゃできるのになぜ高須に打たれる!

 そんなわけで、ロッテは大勝した。年に幾度もない二桁得点、2試合連続の二桁安打だった。ただ、両軍合わせて21安打、16四死球のかなり大味な内容。勝ったからいいようなものの、負けたら間延びはするわ、レベルは低いわ、試合には負けるわでかなりストレスの溜まる試合だっただろう。試合終了が22時チョイ前。長すぎやわ。

 ヒーローインタビューも聞かず、一目散に駐車場を目指す。さすがにこんな大勝をした日のプロ野球ニュースぐらいは見ておきたいものである。メイのホームランも気になるし。しかし、駐車場に行ってもなかなか車が見つからない。小さい車やし、人の入りが結構あったし。何より、駐車場自体がものすごーく広いのである。それもそのはず、このメッセ屋外駐車場は、知る人ぞ知る、あのGLAYの10万人コンサートの会場である。そら広いわ。しかし、ようこんなところでGLAYもコンサートやったもんである。交通の便悪いし(車で来ればそうでもないが、肝心の駐車場がコンサート会場である)。ちなみに、ロッテの応援団はどさくさに紛れてここでロッテグッズを売っていたらしい(応援団に聞いたから多分間違い無い)。コンサートが真夏だったことから、うちわとか扇子が良く売れたそうな。ウソみたいなホンマの話である。しかし応援団も商魂逞しい。球団も見習えっちゅうねん。

 浦安の某東京ネズミーランドもさすがにこの時間では帰る客にぶつかることもなく、幕張から横浜まで40分で走破。途中のオービスに引っかかっていたら知らないが、何事もなく帰ってきた。時間は11時をちょっとだけ回ったところ。よし、これでプロ野球ニュースが見られる!と意気込んで家に帰ってテレビを付けると…ビデオ予約してあった中国語会話が映し出された。ご存知の方は多いと思うが、うちのテレビはテレビデオで、裏番組が見られないのである。中国語だけならいいが、ここから2時間、4番組分の予約である。どう考えてもプロ野球ニュースが入り込む余地がなかったのである。突発的に野球観戦に行ったもんだから、忘れていたのだ。人間、浮かれていると視野が狭くなるものだと実感。仕方ないから再放送分(25:00〜25:50)を予約して床についたのである。

 今年もアクティブに観に行く野球。その公式戦初戦を白星で飾れたのは縁起がいい。これでロッテは勝率5割。去年は1回もなかった数字である。今年は是が非でも優勝戦線に残ってほしい。幸い、西武に送り出したロッテの刺客(椎木)が小久保をダメにしてくれたので、ちょっとは望みがあるんではないかな?しかし、これで中途半端に3位ぐらいにでもなろうものなら、エカ児は続投なんやろうな…。早く袴田あたりが監督やってよ。んで山下大輔の横浜と日本シリーズで「静岡決戦」とシャレ込もうではないか!

 ………いや、地味だ(その前に有り得ないっちゅうねん)。


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