第62回
クインテット

 世間はまだまだマツケンサンバIIがブームらしい。確かにノリがいいからカラオケでも盛り上がるのは盛り上がる。カラオケボックスでやるにはちと狭いが。しかし、この歌で改めて感じたのは宮川彬良の力である。彼は現在NHKで「クインテット」という音楽番組をやっているが、この番組も10分番組としては勿体無いほどのいいデキだ。記憶が正しければ宮川彬良は元々ミュージカルの作曲家だから、マツケンサンバレベルの大人数が動いて盛り上がれる歌を手がけることは難しくないのだろうか。それにしても10年も前にこの歌を作っていていまさらのブームという世間が一番すごいのだろう。おばはん、金持っとるなー。あ、ちなみに今月のひと(2005年3月)のアキラはこの人のこと。

 クインテットはどちらかと言うと子供向けの番組だが、内容は大人でも充分楽しめるものだ。演奏曲目はクラシックだけでなく、童謡や回によってはオリコン上位を占めるような歌をアレンジしてたりする。アレンジャーはアキラなんだろうが、それも含めてこの人の才能に脱帽だ。父はこれも有名な宮川泰だが、この親子はどちらも好きなので、少なくとも服部良一をはじめとする服部一族よりはメジャーになってほしい。そら宇宙戦艦ヤマトには勝たれへんやろ。

 アニメ音楽というのも嫌いではないし、最近では注目を集めつつあるのでいろんなメディアが取り上げているし、ここ何年かはそのアニメの主題歌というよりも、アニメのタイアップを利用して普通の歌い手がアニメと関係ない歌を歌っているので注目を集めて当然といえば当然だろう。しかしながら、アニメ主題歌と言われて兄貴(水木一郎)かミッチー(堀江美都子)が先に浮かぶ私にとっては昨今の流れはあんまりよろしくない。それ以前にアニメを見ないのでわからないということもあるにはあるが。

 さて、アニメ以外で最近注目されているのがゲーム音楽である。CDメディアのハードが世に登場してから、最大の敵であった「メモリ容量」というものにとらわれることなくゲームを構成することが可能になり、それに伴いゲーム音楽もバラエティが富んできた。ファミコンの時代は無機質な電子音でしかなかったのが、(カートリッジであったが)スーパーファミコンあたりから質も量も変わったものである。しかしながら、私はファミコンのあの電子音が大好きである。音楽の質を上げるのも確かに大事なのかもしれないが、あの電子音が「ゲームをやっている」という感じに浸れるのもまた事実。

 上記のように、初期のファミコンといえば容量との戦いだった。ロクに音楽データも入れられなかっただろうし、そもそも最初はBGMという概念すら無かったゲームも数多い。「ポートピア連続殺人事件」なんか、最初にサイレンが鳴る以外はBGMなど一切ない。ひたすら喋る音(声ではない、「喋る音」だ)があるだけ。そんなゲームも多かった。そんな時代だから、そこにオリジナルの音楽を作曲、編曲して入れようなどという考えは殆んど無かった。そのせいか、初期のファミコンには著作権に抵触しないクラシック音楽を多く取り入れている。「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をマリオブラザーズで覚えた人も少なくないだろう。かくいう私もその一人だが。大学時代、エリック・サティを聞いて初めてバイナリィランドのBGMだと感動したこともあった。

 BGMの多様性に一役買ったのは、ナムコではないか、と私は思う。ナムコは「遊びをクリエイトする」のキャッチコピー通り、ファミコン創世記から様々なジャンルのコンテンツを提供してきた。元々はゲームセンターのハード筐体を得意としてきた会社だが、ファミコン発売からのスムーズな以降は見事である。私はファミコンカセットを発売しているサードパーティの中ではドラクエのエニックス(現スクウェア・エニックス)に次ぐ高評価である。

 ナムコのゲームミュージックといえば「ゼビウス」に代表されるようにゲーム音楽としてだけでなく、普通にサントラを出しても売れるぐらいの素晴らしい出来である。先日、私はとあるDVDを購入し、その思いがさらに強くなった。ファミコンミュージックDVD ナムコット編である。ナムコがファミコン参入してから初期の頃の音楽と映像を集めたものだが、かなりの逸品だ。

 ナムコの音楽性を語るにあたって、欠かせない人物がいる。「小沢純子」という人物をご存知だろうか。数多くいるナムコのサウンドクリエイターの中でも異彩を放つのが彼女である。ファミコン世代なら避けて通れない、一度は経験したゲーム、「ドルアーガの塔」の音楽を担当した人である。最近では任天堂とのコラボ、「ドンキーコンガ」の音楽も担当されている。ドルアーガの塔をクリアした後のクレジットで、純子のスペルが"ZUNKO"になっているので有名。理由は不明。会社の新人研修でZ80を使って自分の名前を出力する、という課題で頭の1文字を抜いてしまったらしいが、それはご愛嬌。余談だが、ドンキーコンガは叩くものと出てくるキャラクタ以外のゲーム性などは「太鼓の達人」とほとんど一緒だが、こっちはナムコのオリジナルなので問題ないのだろう。初めてこのゲームを見た時には「ここまでパクっていいのか!!」と他人事ながら心配になってしまった。

 もともとドルアーガの塔BGMはこのゲームためにあったのではなく、小沢氏が作ったものにゲームのイメージを合わせたそうだ。これはサウンドクリエイタの力ではなく、ゲームを作った遠藤雅伸の力である。この人こそ化け物だ(前述のゼビウスをはじめ、この人を知らない人はファミコン初期を語る資格が無いほどの有名人)。続編である「カイの冒険」も当然このコンビ。やりこんだ私にとっては本当にいい想い出のゲームだが、これらはそのBGMも想い出の1つである(前述の小沢氏、遠藤氏のエピソードはこのゲームに関してのものだったかもしれない。参考文献がなくて不明…。申し訳ないです)ゲーム自体は小学生にはとても難しく、どうしてこのカセットを選んでしまったのか(クリスマスプレゼントに親にねだってもらったものだった)を後悔したが、そんなエピソードも含めて語りきれない想い出がある。

 このDVDを見て、やはり昔のファミコンの良さが改めて浮き彫りになる。電子音の良さもさることながら、容量のハンデを構想でカバーする当時の発想の豊かさがわかる。小沢氏は「スカイキッド」の音楽も担当しているが、このゲームもキャラの可愛さと音楽がものの見事にマッチしている。バラエティ性を持たせたシューティングゲームは後のパロディウスに通じるものがあるが、そのジャンルを開拓したスカイキッドとそのゲームを盛り上げる小沢氏の功績は計り知れない。

 さらに、ドルアーガの塔、スカイキッド共にプロ野球の応援歌に使われているというところも特出すべきである。ドルアーガの方は通常プレイ時のBGMではなくクリアした時の音楽が日本ハムの奈良原浩にいまだに使われている。スカイキッドは近鉄のレギュラーのショートが代々引き継いでおり、おそらく初代であると思われる吉田剛はファミスタで打席に立った時にBGMがスカイキッドになるという演出まであった。近鉄が消滅したため、今後2度と使われることはないとは思うが、ゲームが発売されて10年も15年も経ってその音楽がまだ使われていた(いる)というのはやはり出来の良さなんだろうなと感心する。

 昨今、ゲームを頻繁にやらなくなった私であるがゆえ、昔を懐かしむようなこの手のDVDの発売と「ファミコンミニ」に代表される昔のカセットのブームは大歓迎である。同世代と話がロクに噛み合わない私にとってはいいツールであるのだ。小沢氏はまだまだナムコで頑張っておられるので、今後の活躍を心待ちにしたいと思う。


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