第81回
西国三十三箇所巡礼の旅 vol.6
〜2006 夏休み特別企画〜

 6日目。日曜日。この旅始まって以来、スタート地点が家じゃない(当たり前か)。まあ家の布団と違い、そこはビジネスホテル。快眠快便。7時起床予定が大幅に遅れ、8時ちょっと前の起床。当然のように開門は8時なので、1発目に8時に行くことは不可能。近くの宿なのでそう焦ることもないと言われればないのだが。

 宿 9/3(日) 8:20 総走行距離 1184.3km

 とはいえ、時間を疎かにするわけにもいかない。素早く身支度を整えてチェックアウト。フロントに行くと、最後に「サービスです」と言って謎の小袋を1つ渡される。中身を見ると朝食用にということだろう、おにぎり、サンドイッチ、それにお茶とコーヒーのパックが入っているではないか。なんと気の利いたサービスなんだろう。宿でちゃんと朝食取りたい、という人は別だが、私のようなとにかく先を急ぐ旅をしている人にはこれ以上ない有難さである。舞鶴じゃ普通のサービスなのか?とにかく断る理由など何一つない。もらって車に乗り込む。

 最初は前回の終わりにも少し書いたが、舞鶴市内にある第二十九番札所、松尾寺。近いとはいえ10kmちょっとはある。まあ車で行けば数十分だが。その間、いただいたおにぎりとサンドイッチで朝食を取ることに。しかし和洋折衷だな、この飯は。

 幹線道路から外れると、やたらに狭い道。例によって車1台分の幅。だが朝ということもあり対抗車が現れる様子は全く無い。狭い道はやはり時間がかかるのだが、最後の方に派手な登り坂が控えており、運転技術も問われる。これも修行のうちだ。対抗車が来たらホンマの修練だが、最後まで1台も見かけることは無かった。

 松尾寺 9/3(日) 8:47 総走行距離 1202.5km

 苦労して辿りついたらもう9時前。ちょっと時間にルーズになってしまった。

 松尾寺には山門らしきものが無い。入口の写真でお茶を濁す。本堂はすぐ見つかる。大きい寺ではないし、入山も無料。おにぎりの件もあり、この日は時間の話を置いておくといい滑り出しである。

 

西国第二十九番札所
青葉山 松尾寺
山門
本堂

 松尾寺 9/3(日) 8:59 総走行距離 1202.5km

 滞在時間はいつもよりさらに短め。ようやくこれで朝飯分とでチャラぐらいか。時刻は9時。

 急ぐのには理由がある。前日から寺の間の距離が半端じゃない、というのが主な理由ではあるが、次にはこの旅最大の難関が待ち構えているのである。難関は今までいくつもあったじゃないか、とお考えの貴方。それはそれで正しい。那智勝浦にも行った。徒歩63分(しかも片道)も経験した。1日11箇所回ったこともあった。ロープウェイにも乗った。だがそんなレベルではもうないのである。

 次は第三十番札所、宝厳寺。名前を聞いてピンと来る方はかなりの寺社仏閣通、もしくはクイズ研。この寺はとある理由で断崖絶壁に建てられており、移動手段が限られているのである。ちなみに所在地は滋賀県長浜市。旧町名が「びわ町」。さ、ヒントは第3ヒントぐらいまでいきましたよ。そろそろ浅井慎平ぐらいだったら答えてるところ。

 と、ここで出し惜しみしてもしょうがない。このお寺、竹生島にあるのである。琵琶湖の中に浮かぶ島。ということで、徒歩でもロープウェイでない、次なる手段であるフェリーでの移動を強いられるのである。あな怖ろしや。

 この行程は一体どれだけバラエティに富めばいいのだ。西国三十三箇所をここだ、と決めた人はもうちょっと考えてほしい。四国八十八箇所でもすべて徒歩で行けたはずだが、こっちはあまりにいろいろありすぎる。書写山は頑張ればロープウェイを使わずに登れるが、フェリーだけは何ともならん。泳ぎが入る時点でもう一線を画す。

 とフェリーの移動だと強調してはいるが、まずはフェリー乗り場まで行かないと話にならない。ここは舞鶴。ここからフェリー乗り場まではまだまだ遠い道のりなのだ。

 フェリー乗り場は全部で4つ。竹生島は琵琶湖の中でも北の方にあるので乗り場も北に固まっている。北から、木之本、今津、長浜、そして彦根。一番南で彦根である。舞鶴からなら今津が一番近いのだが、三十一番札所は近江八幡市にあり、琵琶湖の右岸。今後のことを考えると右岸にある長浜か彦根から乗っておきたいというのが正直なところ。

 ところが。この4つの港、全て同じ間隔で同じようにフェリーが出航しているわけではないのだから話がややこしい。また、この4つの港では2つの会社がフェリーを出しているが、「今津と長浜」「彦根と木之本」というペアになっており、今津→竹生島→長浜などのように片道で行くことも可能らしい(今回は車で来ているのでこの航路は実質不可能)。

 迷った挙句、時間的にも距離的にも近そうな今津を選択。今津から近江八幡は琵琶湖大橋を渡ることに。フェリーに乗るとなるとその他の場所との時間の兼合いもある。最短時間で回れると思しき経路を選択したつもり。

 今津港 9/3(日) 10:19 総走行距離 1266.7km

 舞鶴から約80分、今津に到着。車を駐車場に停め、フェリー乗り場に。道路を遮るようにできている不思議な乗り場。

フェリー乗り場

 時刻表を見ると、次の出航が10:50。だいたい30分ぐらい待機。前の便とちょうど中間ぐらいの時間に着いてしまったようだ。1箇所しかないチケット売場でチケット購入。料金はなんと2420円!!高いよ…。

時刻表。1日5便
チケット。当然のように往復。

 時刻表を見て改めて気づく。一度島に入ると、来た便に乗るのは現実的ではないので(5分しかない)次の便になるのだが、滞在時間が75分もあるのである。竹生島で回れる場所などたかが知れてる。お寺の境内と少々の土産物屋しかないことを事前に知っていたからだ。どうやって75分も潰せばいいのだろうか。加えてこの日はかなりの好天。暑さで体力を奪われるのも間違いない。行く前から不安要素満載。

 出航時間近くになると、さすがに人が増えてきた。とはいえ、30〜40人くらい。この日は日曜日だが、果たして平日には何人の乗客がいるのだろうか。5便もいらんのちゃうか?いや、75分以上待たされるのはおそらく発狂してしまう。5便ほしい。周りには興味本位で行く人はおらず、目当ては100%宝厳寺。西国三十三箇所を回られている方も多いようで、話かけると同士に喜んで声をかけてくれる。醍醐寺、書写山に比べて自分の足で稼がなくてよい距離というのは人を笑顔に変えてくれる。いいことだ。その代償として2420円があるのだが。

 そうこうしているうちにフェリーが入港。この人数がちゃんと乗れるか心配だったが、100人乗っても大丈夫そう。ひと安心。

フェリー「うみのこ」外観
間違いなく竹生島行き
船内。2階にデッキもある

 航行時間は25分。醍醐寺の63分に比べれば屁でもない。1歩も歩いてないしね。航行中は琵琶湖の説明から竹生島の説明など、いろいろあったが当然聞く耳持たず。乗り物系に乗るとすぐ寝られるのが私の特技。25分中、最初の5分と最後の1,2分以外は記憶にございません。

 竹生島 9/3(日) 11:15 総走行距離 1266.7km

 フェリーは竹生島に到着。10:19に今津入りだから、ここですでに1時間経過。贅沢な時間の使い方だこと。

 上陸(陸じゃなくて島の場合は何て言うんや?)してすぐ目についたのはこの看板。市町村再編があっても頑なに以前の看板を(無理やり)使うその根性や良し。

いや、でもさすがに無理がある

 本来の目的である、宝厳寺に。土産屋が軒を連ねる小道を抜け、階段を登ろうとすると目の前にゲートが立ちふさがる。どうやら、ここで入山料を払えということらしい。400円。島=寺みたいなものだから、入山料というよりは入島料という方が正しいかもしれない。お土産だけ買って帰る人は払わなくていいが、そんな奴おらへんやろ。

 ゲートを抜けると上り階段。これが急でしかも段数が多い。さらに幅が狭い。年寄りがいるとすぐ詰まるのである。ただ、前述通り制限時間は75分もある。こんなところでカリカリしててもしょうがない。

 階段を登って下を見るとかなり急であったことがよくわかる。高所恐怖症の方、並びに足腰の弱い方にはおすすめできませぬ。

階段の登り口
こちらは上から。眺めは壮観

 上の方にある本堂に。山門は無いので本堂の写真だけ。

西国第三十番札所
巌金山 宝厳寺
本堂

 時間が大量に余っているので、隣接している都久夫須麻神社にも行く。「つくぶすま」と読むので、おそらく竹生島の名前の由来かと思われる。それっぽいことは書いてなかったけど。神社とお寺をつなぐ渡り廊下がかなり趣のあったものだったので紹介。秀吉の御座船を使って作ったらしい。まあ船っぽいと言われればそんな気がしないでもないが。

渡廊、「舟廊下」

 ちなみに残念ながら千社札群の中には斉藤一人さんはいらっしゃいません。

 神社の鳥居は切り立った崖に湖に向かって建っており、立ち入ることができなかった。その他に島の中には鐘楼やら宝物殿、三重塔など文化財が山のようにあったが、75分もある時間を埋めるには至らなかった。周囲およそ2kmの島のうち、ほとんどが崖で入れないのだから実質歩ける場所は1kmもない。ゆっくり見て回っても30分あれば事足りるのである。

 フェリーの時間まで45分。退屈凌ぎなど持ってないし、土産屋は休んでいる観光客でベンチが完全に埋まっている。彦根行きのフェリーは来るが意味が無い。売店のおばちゃんと話すぐらいしかやることが無い。ここは巧みな話術でいろいろ話を聞き出せたり土産物を物色したり試食をたらふく食べたり。特に試食は満足のいくものだ。私は営業ではないが、営業に近い現在の仕事はこういう時の喋りに非常に役に立つ。気に入られてナンボである。

 途中、1隻のフェリーが出航。よく見ると、乗ってる人の数が半端じゃない。行き先を見ていなかったが、一体あの船はどこに行くのだろうか。集団疎開かと思った。

なにこの人数!?

 出航時間5分前、待ちに待った今津行きのフェリーが入港。一番に乗り込む。で、出航前に就寝。退屈とは眠気との戦いだったのである。

 今津港 9/3(日) 13:05 総走行距離 1266.7km

 次は前述通り、近江八幡。第三十一番札所の長命寺。カーナビを設定するとその距離60km。舞鶴→今津と変わらんやん。

 湖西の161号をひたすら南下。湖西の幹線道路はこの道しかないのだが、生憎この日は日曜日。ひどい混みようである。回避策が無いので渋滞とわかっていながら道を進むこのもどかしさ。13時を過ぎてわずか2つしか訪れていないペースの悪さもストレスに拍車をかける。

 堅田まできてようやく流れ出すが、堅田まで来ると眼前は琵琶湖大橋である。200円払って渡る。今度は湖東の湖岸道路をひたすら北上。ここは逆にガラガラである。渋滞のノロノロ運転からネズミ捕りに注意せなあかんぐらいのスムーズな運転。ストレスも発散。あ、法定速度は大きく逸脱しておりませんので捕まる心配はございません。悪しからず。

 長命寺 9/3(日) 14:40 総走行距離 1326.2km

 長命寺に到着した時には既に14:40。今津から90分かかったことになる。ペースダウンも甚だしい。

 長命寺は湖岸にあるが、湖岸から境内へは長い石段が伸びている。ものの本には段数が808段とあるが、時間が無いので途中まで車で行く。中腹に駐車場があり停め、そこからはいさぎよく石段を登る。とはいえそこからだと100段足らずなのだが。

下から石段を臨む。果てしない
山門。ここまでで800段

 宝厳寺とはうってかわって見どころだけを攻める単調な参拝。長居する気は毛頭ない。

西国第三十一番札所
姨綺耶山 長命寺
本堂

 ちなみにこの寺は読んで字の如く健康長寿にご利益があるそうな。もちろん手は合わせておく。

 長命寺 9/3(日) 15:02 総走行距離 1326.2km

 さあ15時を過ぎた。残るはあとたった2箇所。次は近場、安土町にある第三十二番札所、観音正寺。直線距離はそう遠くないのだが、今度はかなりの山間。繖山(きぬがさやま)と呼ばれる山の山頂に建っており、またしても山道を車で縫っていかなくてはいけない。

 あと2時間で2つ回れるか、それだけを考え先を見据えて最後の第三十三番札所、華厳寺も調べておくが、ここは不可能と即断。理由はただ1つ。所在地がなんと岐阜県なのである。連日のように繰り広げられた「間に合うか、間に合わへんか」のギリギリを突くようなレベルではない。明らかに間に合わないのである。残念ながらこの日の満願成就はおあずけということになった。ただ、逆にこの日は観音正寺に行きさえすればノルマ達成と気持ちを切り替えることもできる。気楽に、気楽に。

 観音正寺 9/3(日) 15:26 総走行距離 1343.0km

 15時半すこし前、観音正寺に到着。繖山を登った先の高台。車で登ったので、まああとは少し歩くだけかな、と思っていたのは甘い夢。駐車場から境内までやたらに距離がある。最後までツイてない。

 ただ歩くだけならまだいいが、車で登ったというのにまた登り坂。この旅のどこまでついてまわるのか。最後だと思ったが足取りは軽やかとはとても言えない。

 歩くこと10分、ようやく境内が現れる。やたら目立つところに休憩所が(しかも見えてきた建物の最初に)あるところからして、この行程の険しさがよくわかる。さらに進むと本堂。そういえば今回も山門が無い。

西国第三十二番札
繖山 観音正寺
山門?
本堂

 特記事項なし。とにかく粛々と納経。

 観音正寺 9/3(日) 16:01 総走行距離 1343.0km

 この日最後の納経も無事終了。ということで、遠く離れた岐阜の1箇所を除き、車での行程は終了することに。ただし、表記のように時間が早い。レンタカーショップにその足で返却しにいくことに。本当はこの日と次の日の晩までのレンタルだったが、早めに返して差額をもらおうという魂胆だ。

 ということで安土からひたすら大阪に向かって走る。レンタカーの返却なので当然給油もしなくてはいけない。お泊りセットの量も少なくはないので一度家に戻って荷物を置かなくてはいけない。なんだかんだで時間はかかりそう。できるだけ早く戻して多額の金を返してもらわなくては。

 竜王ICから名神をひた走るルート。だがその竜王ICまでが険しい道のり。距離も長ければ渋滞にもハマる。17時までの制約がなくても渋滞の呪縛からは逃れられない。まったく日曜日が恨めしい。

 レンタカーショップ 9/3(日) 18:32 総走行距離 1444.9km

 大阪に戻ると時間は既に18時半。なんやかんやで2時間半かかった。レンタカーショップには予め電話で話を通しておいたのですぐに手続き。1日プラス2時間半を引いてもらう。差額はなんと12,600円也!!馬鹿にできない金額である。納経だけで32箇所、9600円かかっているのでこの分はペイできた。いや、ペイと言うべきかどうかわからんが(戻ってきてはいるがレンタカーなので間違いなく金は払っている)。

 自宅 9/3(日) 18:49 総走行距離 1444.9km

 2日ぶりの自宅。車も無い、日常の生活。車というものがどれだけ金を食うかをイヤというほど知らされた旅だった。と締めのコメントみたいになっているがまだ終了ではない。あと1箇所大事なところが残っている。休みはあと2日。丸1日は休息できそうである。

 万歩計はこの日も目標クリア。11443歩。竹生島が大きかったか。

 次回はいよいよ最終回。最後に待ち受けている、この旅一番の試練とは果たして!?


経費
納経 29 松尾寺 300
駐車 松尾寺パーキング 400
フェリー 今津⇔竹生島往復 2420
入山料 30 宝厳寺 300
納経 30 宝厳寺 300
渡橋 琵琶湖大橋 200
納経 31 長命寺 300
納経 32 観音正寺 300
駐車 観音正寺パーキング 500
高速 竜王→吹田 2100
給油 ガソリンスタンド 5246
レンタカー早期返却差額 -12600
小計 -234
これまで 115576
合計 115342

訪問寺院
1 青岸渡寺 和歌山県那智勝浦町 2 金剛宝寺 和歌山県和歌山市 3 粉河寺 和歌山県紀の川市
4 施福寺 大阪府和泉市 5 藤井寺 大阪府藤井寺市 6 南法華寺 奈良県高取町
7 岡寺 奈良県明日香村 8 長谷寺 奈良県桜井市 9 興福寺 奈良県奈良市
10 三室戸寺 京都府宇治市 11 上醍醐寺 京都府京都市 12 正法寺 滋賀県大津市
13 石山寺 滋賀県大津市 14 園城寺 滋賀県大津市 15 観音寺 京都府京都市
16 清水寺 京都府京都市 17 六波羅蜜寺 京都府京都市 18 頂法寺 京都府京都市
19 行願寺 京都府京都市 20 善峯寺 京都府京都市 21 穴太寺 京都府亀岡市
22 総持寺 大阪府茨木市 23 勝尾寺 大阪府箕面市 24 中山寺 兵庫県宝塚市
25 清水寺 兵庫県加東市 26 一乗寺 兵庫県加西市 27 圓教寺 兵庫県姫路市
28 成相寺 京都府宮津市 29 松尾寺 京都府舞鶴市 30 宝厳寺 滋賀県長浜市
31 長命寺 滋賀県近江八幡市 32 観音正寺 滋賀県安土町 33

巡礼の旅 コンプリートまであと1箇所

目次へ