第82回
西国三十三箇所巡礼の旅 Final
〜2006 夏休み特別企画〜

 いよいよ最終日。週も明けて平日。実に動きやすい。この日は予告通り、というか残り1つなので選択肢もないのだが、ラストとなる第三十三番札所、華厳寺への旅。1日で1つの寺しか行かないというのは初日以来。

 自宅  9/4(月) 7:20 

 場所が岐阜県の揖斐川町というところになり、大阪からだとかなり遠い。移動は初日同様電車ではあるが、米原を越える電車がなかなか無いことから、新大阪から一本で行ける特急ワイドビューひだを選択。少々値は張るが、もはやここまで来ると小さな悩みに思えてくるから不思議だ。

 新大阪駅  9/4(月) 8:04 

 8:04発のワイドビューひだ23号に乗車。空いている。さすがは平日。普通の社会人は働いているし、普通の大学生は…まだ夏休みか。それでもそうそう岐阜に向かう人はいまい。さらに東に行く人は新幹線乗るやろうし。

 あ、写真は自由席ですが乗ったのは指定席です。あしからず。料金は4610円。まともに行けば半額くらい(特急料金が無いので)かな。

ワイドビューひだ

 電車に揺られること1時間半。もちろん、大半の時間を睡眠に充てることは忘れない。

 大垣駅  9/4(月) 9:46 

 大垣駅到着。ここからは、本巣方面に伸びている樽見鉄道に乗り換え。JRの構内に乗り場があり、改札を通る必要はない。キップも乗り場で購入可能。路線図はなぜか手書きで風情があるというよりは、何か物々しい感じがする。時が経過しているせいか薄くなってしまっているし、沿線の情報は何が何やら読み取るのが難しい。

樽見鉄道車両。1両。
手書きの路線図
切符。紙ペラ1枚。

 路線図の横に時刻表があったので確認。次の電車は10:37発。…て1時間近くもあるやん。いきなり足止め。駅構外に出ることはできるが、何があるかわからないし、1時間弱の時間つぶしというのがまた微妙。やることは無いが時間を潰すには短い、どっちつかずの状況。9月初旬の朝10時。涼しいというには気温が上がりすぎている。

 電車で寝る気満々だった私は暇を潰せるものは何もない。新大阪駅で購入したスポーツ新聞は既に読んでしまっていたので、駅のキヨスクで別紙をもう1部購入。とはいえ、別に大きなニュースがあったわけではなく、読んでいても同じような内容ばかり。関西のスポーツ紙であるから、阪神の扱いが大きいだけだ。

 活字を一生懸命拾い、どうにか時間は潰れてきた。電車が混み始めたので私も乗る。これだけ待ってるというのに、座れないという愚かな状況だけは避けなければ。最終的には乗車率は100%を超えていた。庶民の足としての役割は果たされているのだろう。いつまであるかわからん電車だが、こういうのどかな地方の電車は大好きなので残っててほしい。

 大垣駅  9/4(月) 10:37 

 ようやく出発。ここから華厳寺の最寄駅となる谷汲口まではおよそ40分。確か7時半ごろに家を出たはずだがいまだに目的地に着かない。これも初日に似た状況である。途中の停車駅は殆んどが無人駅。まあこれも地方路線にはありがちだ。30分ぐらい経ったころ、本巣駅で長いこと停車。樽見までの中間地点ぐらいらしい。一番人の乗り降りがあった駅である。そこから谷汲口までは10分程度。

 谷汲口駅  9/4(月) 11:18 

 谷汲口駅到着。例に漏れずに無人駅。しかし降りる乗客は10人程度いた。他に行く場所もなさそうだし、目的地はみな一緒なのだろう。

谷汲口駅

 駅前にはバスが1台停車中。華厳寺に参拝に訪れる人は例外なくこのバスに乗る。今回も電車から降りた人は全員乗車。ここからはバスでの移動。華厳寺行きで所要時間は10分程度。

 周りの景色は一言、「のどか」。これに尽きる。民家はまばらにあるが、殆んどが田圃や畑のいわゆる田園地帯である。車道は整備されているが、車通りもまばら。たまに自転車に乗った人にすれ違う程度で、それ以外は人の気配すらない。田舎育ちの私には非常に馴染みある風景だが、大阪暮らしが慣れた現在、ここで暮らすとなったらある程度苦痛かもしれない。

 谷汲山バス停  9/4(月) 11:29 

 華厳寺到着。正確には「谷汲山」というバス停に到着。ここからは参道を歩いていくことに。但し車道はあり、車で訪れた場合はそのまま走っていけそうな道である。バス停の横には巨大な駐車場があり、この寺のスケールの大きさを物語る。事実、月命日の毎月18日は参拝客が多くなるらしい。ちなみにこの日は4日で何の関係もなく、従って閑散としていた上、駐車場は全面無料だった。それでも見えたのは1台だけ。まあこれは先述しているが車道が続いているため、この日にここに停める必要性を全く感じないからなのだろうが。

だだっ広い駐車場
「無料」の案内

 参道は少々登っているが、勾配としては全然きつくはなく、平坦よりちょっとだけ角度があるかな…程度。問題なし。街路樹が整然としていてなかなか壮観。これで最後のお寺かと思うと非常に達成感を感じる。

きれいな並木道

 華厳寺  9/4(月) 11:40 

 数分歩き、ようやく華厳寺到着。広い境内。山門から本堂まで真っ直ぐな参道だが距離がある。いよいよ結願。33箇所目である。

西国第三十三番札所
谷汲山 華厳寺
山門
本堂

 最後の納経も終了。ちなみに納経帳には最後に3箇所に御朱印をもらうので、納経代は3倍の900円かかる。頼んでないのにそう書かれたということは、こういうものなのだろう。ガイドブックには載ってなかった。

 旅の目的はこれで全て果たしたことになる。7日かかったこの旅も、長いことかかったがようやく満願成就。この寺の習わしで、本堂の柱にある精進落としの鯉に触れて還俗する。出家したわけではないので還俗というのかは不明だが、要するに俗界に帰るのである。

精進落としの鯉

 この寺には、本堂の他に満願堂と呼ばれるお堂がある。「満願」と大きく書かれたその石像物が、また喜びを膨らませてくれる。どこまでもニクい演出である。

満願堂への道
満願堂

 その他、巡礼中に着ていた笈摺(お遍路さんなどでよく見る、袖の無い白い法被)を納める笈摺堂もあったが、私は道中笈摺を着ていたわけではないし、着ていたとしても記念の品なので納めていなかったと思う。お堂の中には確かに沢山の笈摺があるにはあったが、同じことを考えてか千羽鶴などもあった。長い旅を共にしてきた思い出の品だ、そう簡単に手放せない気持ちはよくわかる。

 谷汲山バス停  9/4(月) 12:05 

 一通り見渡したので来た道を引き返し、バス停に行く。これであとは家に帰るだけだ。時間に追われて移動することもない。飯を抜く必要も無い。あるのは心地よい疲労感と満足感だけだ。徒歩63分などという考えられないような苦難もあったが、もうここまでくるといい思い出。あとは帰って家で疲れを取るだけだ。

 参道を戻ると、ちょうどバスが出て行くところ。走って間に合う距離ではなかったので諦める。焦る旅じゃない、次のバスまで待とう。心に余裕すら出てくる。人間が一回り大きくなったイメージだ。この旅をやってよかった。















 が、しかし!!バス停に来てみて1つの重大な、覆すことのできない事実にぶちあたるのである。バスは私が乗ってきた樽見鉄道の谷汲口駅に向かうものともう1つ、離れてはいるが近鉄養老線の揖斐駅に向かうものと2系統ある。今さっき見たのは来た道のほう、谷汲口駅行きなのであるが、このバスが次にやってくるのが時刻表によると15:05とのこと。ちなみにこの時の時刻が12:05。揖斐駅行きは1日5本しかなく、さらに時間がかかる。ということは…。最短でも15:05のバスになる、ということである。

 さあ大変。今、たった今見逃したあのバスに乗れなかったばっかりに、何もないバス停で3時間待ちという大ハプニングが発生したのである。俗界に戻ってきたというのに、まだ修行が続くとは…。昔の人は言いました。家に帰るまでが遠足だと。言い得て妙だ。まさにこの状況を物語っている。往きのバスを下車した時にバス停の時刻表を見るほんのちょっとの余裕があればよかったのだが、もうあとちょっとで満願成就が目の前にぶら下がっているという現状に目がくらんでしまったのが最大の敗因。どんな時も冷静さというのは忘れてはいけない。

 悔やんでもしょうがないので無い知恵絞ってリカバリプランを考える。一番手っ取り早そうなのが、車で来ている他の参拝客にヒッチハイクして乗っけてもらい、駅まで送ってもらうという作戦。が、車通りの非常に少ない平日の昼、まず車がロクに通らない。2台ほど通ったが停まってくれない。断念。

 次は金はかかるがタクシーを呼んで乗るという作戦。電話ボックスに張ってあったタクシー会社の連絡先に連絡。ところが、なんと誰もでない。これも平日の昼間という時間帯が悪さをしているか、地元の人はタクシーなんか乗らない(みんな車を持ってる)のだろう。出ないんだったらどうしようもない。断念。

 結局取った手段は、駅まで歩くというもの。バスで10分の道のりである。頑張れば30分ぐらいで着けるだろうという安易な予想も立てた。どれくらいかかるか正直わからない。手持ちのガイドブックにある小さな地図を見てルートを割り出すが、これをパッと見る限り、明らかに4kmはある。しかも平坦な道ではない。そういやバスの道中、途中のバス停に一度も停まることはなく、ルートに信号があった記憶もない。バスのノンストップの10分は4kmぐらいは軽くあるだろう。10分で4kmなら平均時速が24km/h、路線バスで信号が無いんだったらそれくらいで走ってそうだ。計算が合う。

 かくして、この旅最大の試練となる修行が始まったのである。

 ところが、最初の角を曲がったところにあった地図(住宅街などによくある、誰それがどこそこに住んでいる、ということを表す簡易的な地図)に谷汲駅の表記を発見。しかもそこからは鉄道の線路と思しき線も描かれている。誰がどう見たって電車の駅だ。場所もここから程近い。

 地図を頼りに行くと、その建物はすぐに見つかった。遠目からも駅っぽく見えるし、「駅」という文字も見える。間違いない。あとは電車の時間との兼合いだけだ。

谷汲駅

 どうか15時前に電車が出ますように!!と祈りをこめて駅構内に入る。だが、ふとした違和感を覚え、もう一度駅の表記を見直す。すると、

「旧」谷汲駅













 「旧」って何やねん、「旧」って!!

 冷静に考えると、ホンマに現役でこの駅から電車が走っているのなら、ガイドブックの「アクセス」の欄に真っ先に載せるわな。後で確認したが(というかもう見たままだが)名鉄には谷汲線という路線が2001年まであったが、廃線になってしまったとのこと。でこの駅は廃駅なのである。申し訳なさそうに1両だけ電車が残っていたが、逆にそれがさらなる脱力感を生む。一度可能性を見出しただけに、落胆の色が隠せないし疲れを助長させる。

名鉄の旧車両。谷汲駅跡に保管

 ちなみに廃線後は線路は廃駅周辺のわずかな部分以外は完全に除去されていた。廃線後を歩こうと思えば歩けたが、道から外れていく方向だったので余計な体力を使うことになりそうだったことから途中で断念。いろいろ断念するな、今日は。

唐突に線路は切れている
廃線後。跡形も無い

 もう迷いはない。歩く以外に選択肢は無い、と言い聞かせ、とにかく歩く。歩かずとも立ってるだけで汗が噴き出る陽気。歩いて出る汗の量は半端ではない。熱射病にやられないように、タオルで頭を保護し、水分をこまめに補給。幸い、自動販売機はすぐ見つかった。

 2kmぐらい歩いただろうか、今までの路線とは違う路線のバス停を発見。

ついに発見、1日1本のバス

 以前北海道の阿寒湖に行く最中に見た1日2本のバスを凌駕する、1日1本のバス(ただし平日のみ)。ついに「俺ら東京さ行ぐだ」の世界を具現化した場所を発見。答えは北海道ではなく岐阜にあったか。

 ただ、このバス停はそんな生易しいものではなかった。上の写真をよく見ればわかるのだが、アップにした写真がこちら。

意味深な「◎」
その驚愕の理由

 なんと、「1日1度」レベルじゃなく、「月に1度」だったのである。ピンポイントで乗る人は、前述通り谷汲山の縁日に行く人ぐらいしか浮かばない。まさに「秘境」。車社会以前の問題である。末恐ろしい。そんなところを歩かざるをえない私の心境を察してくれ。

 しかし道は整備されていて、秘境感が無いのは事実。田園地帯ということは、その田園を管理している農家の方々がいるわけで、そういう意味では山間でもなければ秘境でもない。歩くには何一つ支障の無い道である。ただ単に店が無くて歩く用の格好(特に靴)ではない、というだけだ。

 駅があっても電車が来ない、バス停があってもバスが来ない。漫画みたいな話である。あのバスに乗れていれば気づかなかった。ある意味貴重な体験。

 そこを中間点としてまた2kmほど、民家が出始めた。看板には小学校も先にあるとのことだったが、その途中で駅を示す標識を発見。小学校は見ることなく駅に無事辿りついた。

 駅前には民家が。久しく見ていなかった自動販売機もあり、喉を潤そうと思ったがここには買わせまいと邪魔が入っていた。

大胆すぎる障害物

 なんぼ家の前の土地だからって、こんなに大胆に洗濯物って干すものか?大らかな人だ。

 谷汲口駅  9/4(月) 13:05 

 とにかく駅に到着。所要時間はちょうど60分。大変な修行だった。駅には当然誰もおらず。時刻表を確認すると、次の電車は13:50。また1時間近くの電車待ち合わせ。さすがにこれだけ歩くとやることなくても椅子に座って落ち着く以外ない。駅の周りは民家しかなさそうで(小学校はあるらしいが別に興味が無い)、周りを歩く気力も無い。とはいえ45分も長すぎるので、とりあえず駅のホームに出てみる。すると、

案内板。偽りない情報

 華厳寺の情報が。バスって8分で4.5kmも走るのかと改めて実感。

 谷汲口駅  9/4(月) 13:50 

 待つこと45分。ようやく電車が来る。もうヘトヘトなので電車に乗るなり睡眠。周りの景色も何も覚えていない。ここから後はもう帰るだけ。電車であることがわかっているし、樽見鉄道で大垣に出た後はJRだ。大垣→米原間はJR東海→JR西日本の変わり目ということで電車の本数が少ないが、3時間待ちはもう無いだろう。

 大垣駅  9/4(月) 14:32 

 大垣駅到着。米原行きの電車が停車している。車内アナウンスでは乗り換え時間はわずか4分。先ほどまで45分とか3時間とか半端じゃない待ち時間を経験しているので(「3時間待ち」は結局待ってないが)4分なんて屁みたいなもの。乗り換え4分て逆にせわしないか。

 電車に乗る。が、ひどい混みよう。やはり本数が少ない路線のこと、1回の乗車率が高いのだろう。しかし樽見鉄道の発着に合わせてダイヤを組んでいるわけではあるまいし、4分の待ち合わせはツイてるとしか言いようが無い。修行も終わり、さすがにもうキツい行程ではなくなったか。米原まで座れることはなかったが、今はそんな贅沢よりも早く帰りたい、その一心だ。

 米原駅  9/4(月) 15:10 

 米原では11分の待ち合わせ。30分に1本の新快速が11分待ちならばこれも運がいいほう。始発だし絶対座れるし。すぐ寝ようとしたが、大垣での乗り換えに急いだことで大垣からの切符を持っていないので車掌が来るのを待ち切符を購入。往路は4610円だったが復路は特急ではないので運賃だけ、2520円。半額ではなかった。往復で7000円は決して安くない。

 自宅  9/4(月) 17:02 

 自宅に戻ったのは17時過ぎ。寄り道を一切していないのにこの時間。とにかく疲れた。万歩計は17612歩と軽く1万歩を突破。そらそうか。

 7回にわたりお送りした今回の特別企画。終わって思うことは、軽い気持ちで始めたらアカンということ。あと体力よりは経済力が大事。下記にかかった経費をまとめているが、12万を超えた。一人でやるもんじゃない。孤独感云々ではなく金銭的に。これを見て「よし、私もやってみよう!!」と思う人は皆無と思われるが、ラクな旅では決してないので覚悟を決めてやるのがよろしいかと。次回、特別企画がもしあるとしたら、もうちょっと簡単なものでご勘弁を……。

 …でも旅の魅力(特においしいところ)は伝わったでしょ?


経費
JR 特急ワイドビューひだ23号 4610
樽見鉄道 大垣→谷汲口 650
バス 谷汲駅→谷汲山 250
納経 33 華厳寺 900
樽見鉄道 谷汲口→大垣 650
JR 大垣→新大阪 2520
小計 9580
これまで 115576
合計 125156

訪問寺院
1 青岸渡寺 和歌山県那智勝浦町 2 金剛宝寺 和歌山県和歌山市 3 粉河寺 和歌山県紀の川市
4 施福寺 大阪府和泉市 5 藤井寺 大阪府藤井寺市 6 南法華寺 奈良県高取町
7 岡寺 奈良県明日香村 8 長谷寺 奈良県桜井市 9 興福寺 奈良県奈良市
10 三室戸寺 京都府宇治市 11 上醍醐寺 京都府京都市 12 正法寺 滋賀県大津市
13 石山寺 滋賀県大津市 14 園城寺 滋賀県大津市 15 観音寺 京都府京都市
16 清水寺 京都府京都市 17 六波羅蜜寺 京都府京都市 18 頂法寺 京都府京都市
19 行願寺 京都府京都市 20 善峯寺 京都府京都市 21 穴太寺 京都府亀岡市
22 総持寺 大阪府茨木市 23 勝尾寺 大阪府箕面市 24 中山寺 兵庫県宝塚市
25 清水寺 兵庫県加東市 26 一乗寺 兵庫県加西市 27 圓教寺 兵庫県姫路市
28 成相寺 京都府宮津市 29 松尾寺 京都府舞鶴市 30 宝厳寺 滋賀県長浜市
31 長命寺 滋賀県近江八幡市 32 観音正寺 滋賀県安土町 33 華厳寺 岐阜県揖斐川町

巡礼の旅 コンプリート!!

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