マツリが寝込んだ。38℃の熱を出して。
家事を分担していたとはいえ、大体の家事は彼女なしでは、どうしようもない、巽家だった。その上、ゴーゴーファイブとしての厳しい闘い。過労だった。
「起きなきゃ。」
マツリはフラフラしながら起き上がった。
「マツリ、寝てろよ。」
「そうだよ。家事は、僕達で何とかなるから。」
四人の兄達は、マツリをベッドに戻そうとした。
「駄目よ。いつ、災魔が襲ってくるか、分からない、のよ・・・。」
その場で気を失う、マツリ。
「マツリ。」
兄達は、マツリの所によって来て、抱き起こす。そして、長男、マトイがマツリを抱きかかえ、部屋に連れて行く。そして、ベッドに寝かせた。
「お前が、一番、疲れてたんだな。」
眠っているマツリの前、そう呟いた。
「お兄ちゃん・・・。」
不意に目を開けるマツリ。
「気がついたのか。」
「うん。それより。」
マツリは何か言いかけたが、マトイがそれを遮る。
「寝てろ。兄ちゃんが、上手いお粥を作ってやるからな。」
「マトイ兄さん、タオル、冷やしてきたよ。」
四男のダイモンが洗面器と冷えたタオルをマトイに手渡す。
「おう。」
「マツリ、早くよくなれよ。」
そう言って、ダイモンはマツリに笑って見せた。少し、照れくさそうに。
「ダイモン兄ちゃん・・。」
マツリは、赤い顔で小さく息をしながら、ダイモンに笑い返す。
マトイはタオルをマツリの額にのせてやる。
「マツリ、気持ちいいだろ。」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん。」
「何か、欲しいものあったら、言うんだぞ。様子、見に来るからな。」
「ごめんね。お兄ちゃん。」
「何言ってるんだよ。お前が一番頑張ってるの、俺は、知ってるよ。」
そう言い残し、部屋を出て行く。
「お兄ちゃん達だって、私なんかよりいっぱい頑張ってるって私、知ってるよ。」
マツリは一人、呟いた。
キッチンでは、兄達が悪戦苦闘していた。
「兄さん、お粥、吹いてるよ。」
ダイモンの声。
「ああぁ・・。こげちゃったよ〜。」
「これだから、まとい兄には任せられないよな。」
呆れ返るショウ。
「やかましいぞ。ショウ。仕事しろ、仕事。」
「これ、まじで食えないって。」
「作り直すよ。」
「俺が作ってやるよ。マトイ兄のお粥なんて、マツリに食わせられるかよ。」
今度は、お粥作りを、ナガレが買って出る。
「何だと!」
マトイがナガレに食ってかかる。
「喧嘩はやめようよ。マツリが寝てるんだよ。」
ダイモンが必死に止めに入る。
「そう、だな・・・。」
そうこうする内にどうにか、二度目の正直というか、どうにか、まともなお粥が出来上がった。
「今度は、俺が行くよ。」
ショウが言うと、
「ここは、長男である俺がだな。」
そう言って、ショウからお粥を取り上げた、マトイがマツリの部屋に直行した。
「何だよ・・。長男、長男って偉そうに・・・。」
ショウが不満の声を上げた。
マツリの部屋の外で聞こえる、ノックの音。
「マツリ、起きてるか?」
「マトイ兄ちゃん。」
マツリの声を確認すると、マトイはドアを開けて部屋に入ってきた。
「お粥、できたぞ。ちょっと、こげちゃって、二回作ったから遅かったけどな。ごめんな。」
「うん、聞こえたよ。お兄ちゃん達の声。」
そう言って、マツリはクスクス笑った。
「そう、か・・。」
マトイは恥ずかしそうな表情を見せた。
「テッ。」
ドアの外から、声がする。ヒソヒソ声。
「おい、お前ら。」
マトイが言うと、ナガレ、ショウ、ダイモンの三人が部屋に転がり込んでくる。
「おい、マツリはなぁ、熱があって寝てるんだぞ。少しはだな。」
マトイが三人説教を始める。
「だって、俺達だって、マツリが心配なんだよ。」
ダイモンが言う。そして、ナガレとショウが頷く。
「そう、だな。皆、マツリが心配なんだよな。」
そう言って、マトイが頭を掻いた。
その様子を見て、マツリがクスリと笑った。
「嬉しいなぁ。お兄ちゃん達がいっぱい心配してくれて。」
「早く、治れよな、マツリ。」
照れくさそうに、ナガレが言った。
「そうだぜ。」
同調するショウ。ダイモンも頷いた。
「そういうわけ、だから。」
マトイがまとめるように言う。
「うん。みんなありがとう。」
そう言って、赤い顔してマツリは微笑んだ。
それから、マトイはマツリにお粥を食べさせる。妹にご飯を食べさせたり、するのは、マツリが2歳くらいの時、少しやった以来だった。だから、少し、照れくさかった。そして、マツリもそれは同じだった。
「お兄ちゃん、おいしいね。」
「そうか。」
「あの、お兄ちゃん、自分で食べる、から。」
「無理するな。」
「じゃあ、今日だけ、食べさせてね。」
「ああ。」
”信じあえるのが、家族です。”
ふと、思い出す、母の言葉。もはや、巽家の家訓のようなものになっていた。
「信じ合えるのが、家族です。」
マツリは、その言葉を口ずさんでみた。自分が熱を出して倒れただけで、兄達は、本当に心配してくれた。家族だから、いや、それだけではない、仲間だから、心配してくれる。以前、マトイ以外、全員が、災魔獣に呑み込まれた時、外から聞こえてきた、マトイの言葉。仲間だから・・。
「仲間かぁ・・。」
嬉しい言葉。そう、彼らは、同じ目的に向かって、闘うことで、もはや、血の繋がりを越えた絆が生まれていたのだ。それは、一人が傷つけば、四人が、悲しみ、心配する。そして、一人が危機に陥れば、四人が命を賭して、救おうとする。”仲間”。
マツリは思った。仲間がいて良かった。兄達がいて良かった。人の看病がこんなに嬉しいと思ったことはなかった。
「家族が、仲間が、一番、だよね・・。」
それから、マツリは、眠りについた。