「僕はグエン様の道具なんかじゃない・・・。」
満月が照らす夜、ロランは眠れず、ホワイトドールの操縦席に座り込んでいた。
「僕はどうして地球人になりたかったんだろ・・・。」
地球にやってきたばかりの15歳、ロランには見るものが全て美しく、躍動感に満ちた世界映り、心から地球人になりたいと思っていた。しかし、今の自分があの時望んでいた地球人なのだろうか。
「ううん、違う・・・。」
ロランは頭を振る。
「僕はグエン様の道具・・・。」
キースに言われた言葉が頭から離れない。何だか自分が惨めにすら思えてくる。
キースはパンを多くの人に売ることで中立地帯を増やそうとパンを作る。フランは戦争の真実を伝えようと写真を撮る。二人とも自分の信念をしっかり持ちそれに忠実に生きているのに・・・。
僕は一体何をやってるのか。グエン様に言われるがまま、ホワイトドールに乗って戦争の手伝いをしている・・・。
「違う、僕は誰も殺してなんかない・・・。」
何故か涙が溢れてくる。
「ロラン、そんなとこで何してるんだ。」
ホワイトドールの下から声がする。
「キース・・・。」
「降りてこいよ。パン、持って来てやったぜ。」
ロランはコックピットから降りた。
「まぁ、座れよ。」
「うん・・・。」
「なんかさ、俺言い過ぎたみたいだな・・・。道具だなんて言って。」
「そんなことない。ほんとのことだし・・・。」
キースの言うことは正しい。キースは本当にディアナカウンターと地球との戦争を止めようとしているのに、自分は平和を願っていると言いながらも自ら戦いに身を投じているのだ。
「お前も考えてるって俺、分かってる。だからホワイトドールに乗ってるんだよな。道具じゃないよ。」
「食えよ。」
キースはロランにパンを手渡す。
ロランはキースのパンをかじった。
「やっぱ美味しいや。」
キースのパンをかじりながらロランは涙が止まらなかった。パンと一緒に涙まで口に入って少し塩辛かった。
「俺、今日お前にひどいこと言ったけどさ、お前がホワイトドール に乗らなかったら、ミリシャもディアナカウンターもさ、もっと無茶やってたと思うぞ。」
「ありがとう。キース。」
ロランは手で涙を拭って言った。
「だからさ、自分をあんまり責めるなよ。」
月に居た時からキースには助けてもらいっぱなしだな、とロランは思った。
献体候補生だった時のことをロランは思い出していた。キースは人と違う外見を持ったロランのことをいつも庇い、外見のことを悪く言うものがいたら本気で怒った。
「僕はキースがいなかったらどうなってたんだろ・・・。」
「えっ、何だよ。」
「すっごく荒んでたかもしれないよ。僕・・・。」
「そんなこと、あるわけないだろ。荒んだロランってなんか想像できないよ。」
「そうかなぁ・・・。」
そう言って二人は笑い合った。その時の二人の思いは同じだった。
これからも一緒に地球で生きていければいいと・・・。
そして、その為に自分ができる役割をこなしていこうと誓ったのであった。
月は誓いの証人のように、明るく二人を照らした。