「ねぇ、耕一郎、クリーム餡蜜おいしかったよ。」
二人は、約束通り、喫茶店に入り、耕一郎のおごりでクリーム餡蜜を食べたその帰り道だった。
「そ、そうか・・。」
「ありがとね。」
千里は、にっこり笑って、耕一郎を見た。それをもろに目の当たりにしてしまった耕一郎は、顔が燃えるように熱くなった。
「なーに赤くなってんの。」
千里は、耕一郎の、肩を叩く。
「てっ。」
「べっ、別に赤くなってないから・・・。ちょっと熱いかなとか・・・。」
耕一郎は絡まる舌を必死で動かそうとした。
「熱くないよ。夏じゃないし。」
千里は、きょとんそして言った。
「そっ、そうか?」
「そうだよ。」
「おっ、おい、そう言えば。」
耕一郎は、必死で話題を変えようとした。
そして思い付いた話題と言えば・・・。
「おい、みくが明日数学の追試ということは、健太も、そうじゃないか。」
「あ・・・。そう言えば・・・。」
「あいつ、絶対勉強してないぞ。あいつの勉強しているみくはともかく・・・。」
「そうだねぇ・・・。」
千里は、言いながら腕を組んだ。
「悪い、千里。俺、デジ研の部長として、あいつの追試を何とかする義務があると思うんだ。だから・・・。今日は・・・。」
耕一郎の必死の頼みに千里はクスリと笑った。
「だったら、私も付き合うよ。耕一郎。」
「いいのか・・。千里・・・。」
「うん、クリーム餡蜜もおごってもらったし。ちょっと、嬉しいこともあったしね。」
「嬉しいこと?」
耕一郎が不思議そうに千里を見た。
「ううん。何でもない。何でもない。」
千里は慌てて、両手を自分の顔の前で振ってみせた。
その時だった。
向こうから、瞬とみくが歩いてくるのが見えた。
「あれ、瞬とみくじゃない。」
「おっ、そうだな。」
千里は小さく二人に向かって手を振った。千里と耕一郎に気付いた瞬とみくは、ふたりのもとに走り寄ってきた。
「おまえ達も今帰りなのか。もう家についたと思ったんだが。」
「まっ、まあね・・・。」
「あ〜、もしかして、千里と耕一郎・・・。」
みくがさも嬉しそうな顔で言った。
「なっ、何、変なこと言ってんのよ。二人ともお腹空いたから、そこの喫茶店でクリーム餡蜜食べただけだよ。ねぇ、耕一郎。」
「そっ、そうだぞ・・・。」
「あっやしい〜。ねぇ、瞬。」
千里と耕一郎の、たじろぎ様に拍車をかけるように、瞬に同意を求める、みく。
「だな。」
そして、瞬もにやりと笑う。
「そう言うあんた達こそ。図書館、結構、遅くまで残ってたみたいじゃない。」
「馬鹿、俺達は、勉強だよ。勉強。なっ、みく。」
「うん、でも私は、ちょっといいことあったかな。」
そう言って、瞬の方を見て笑うみく。そんなみくに瞬は、少し顔を赤らめる。
「これは何かあったってことだね。」
仕返しだと言わんばかりにニヤリと笑う千里。
しかし、二組とも、ちょっとの展開に、泣いたり、笑ったりしていた自分を思い浮かべ、内心、苦笑ながらも、小さな喜びを感じていた。
「俺達、これから、明日の数学の追試で最も、やばい健太のところへ行く訳だが、おまえ達はどうする?」
「あっ、そうだ、あの馬鹿のこと忘れてたな。」
「そうだな。付き合ってやるかな。みくはどうする?」
「そうだね。私ももうちょっと、瞬に聞いときたいところあるから、一緒にいく。」
「じゃあ、決まりだね。」
四人は、それぞれ、今日起った出来事を脳裏に走らせながら、歩を進ませたのだった。そして、彼らの後ろには、最近では、滅多に見られない、現象、虹の橋が空に架かっていた。