「あのケーキ、キースが作ったんだぁ。」

戦闘の合間の一時の休息。日も大分落ちて月が見え隠れしていた。

ロランはキースを訊ねた。

キースも丁度商売が一段落していたところで後片付けに入っていた。

ベルレーヌも、

「行ってきなさいよ。お友達なんでしょ。」

とすすめてくれたので、しばし、ロランに付き合うことにしたのだ。キース自身、ロランの顔が久々に見たくなっていた。というか、キースはロランが心配だった。

あの気弱で戦いなどに縁がないようななロランがホワイトドール乗ってディアナカウンター相手の戦闘に参加しているのだ。これが幼馴染として心配せずにいられようか。

「元気そうだな。ロラン。」

思っていたよりも元気なロランの顔を見てキースは安心する。

「キースこそ、結構繁盛してるんだね。」

「まぁな。」

ロランは正直キースに会いたいのは山々だったが、何を話すのか考えてなかった。話題に困ったロランが口にした話題は、ディアナ・ソレルが親睦のために開いたパーティーのことだった。

お互い特にロランだが、久々の再会に少し興奮ぎみで饒舌になっていた。

「キースってパンだけでなく、ケーキも作れるんだ。」

「当たり前だろ。パンもケーキも一緒だよ。」

「でもあのケーキ凄いよ。綺麗だった。食べれなかったのが残念だけどね。」

「まぁな・・・。あのケーキ目茶目茶になったしな。正直俺もショックだったよ。あれ作るの苦労したんだぜ。」

言ってキースは苦笑する。

「しかしロランが女装かぁ。」

キースは笑いをこらえながら言った。

「あっ、今キース笑いそうになったでしょう。」

ロランがムスッとして言う。

「笑ってないって。」

そう否定すればするほどキースは笑いが隠せなくなっていた。

「でもね、キエルお嬢さんがダンスを教えてくれたんだ。お陰で大分上手になったんだよ。」

「あのお嬢さんと踊ったのか?」

「ほとんど人形が相手。」

キースはこらえていた笑いが爆発した。ロランが女装して、人形相手に必死にダンスをしている姿を想像してしまい可笑しくなったのだ。

「笑うなよ。」

ロランは拗ねたように抗議する。

「ごめん。だってあまりにも、可笑しくて。」

「キースの馬鹿。」

「悪かったって。」

キースがなだめるように言った。

「ねぇ、キース、ダンス、教えてあげようか。」

ロランが少し得意げな表情を作って言った。

「はぁ?言ってんだよお前・・・。」

ロランの意外な申し出にキースは驚きを隠せなかった。

「折角覚えたもの。披露したいじゃない。付き合ってよ。あの時はちょっとしか踊れなかったし。」

「本気かよ。」

「うん、本気だよ。手、出して。」

「しょうがないな。ちょっとだけだぞ。」

「うん。」

ロランが嬉しそうに頷いた。

(こいつって結構ガキなんだよな。)

キースは一人ぼやいた。

二人は手を取り合った。

「じゃ、いくよ。僕が踊る通りについてきてくれればいいからね。」

「分かったから。」

キースは恥ずかしそうに言った。

ロランがワルツのステップを踏み始める。キースの足が少し遅れてぎこちなく動く。ロランはそんなキースをリードするように踊った。

「ほんとはキエルお嬢さんかディアナ様の方がいいんだろう。」

キースはからかうように言った。

ロランは顔を真っ赤に染めた。

「な、何言ってるんだよ。お、恐れ多いよ。そりゃあ・・・。」

だんだん、ロランの声が小さくなり口の中でモゴモゴ言った。

「からかいがいのある奴。」

キースはクスリと笑った。

「何だよ・・・。」

ロランはキースを恨めしそうに見て、口のなかでぶつぶつ言う。

「でもね。」

ロランは真面目な表情でと変えて、キースを見た。

今度はキースが驚く。ロランがあまりに真っ直ぐ自分を見てくるから。

「でも、キースと踊るのも、結構楽しいよ。」

その言葉にキースはますます驚きが隠せなくて、顔が赤く染まる。

「あ、あのさ、俺達一応、男友達だよな・・・。」

「知ってるよ。やだなぁ、キースってやっぱ面白いや。」

ロランが無邪気に笑う。

「か、からかうなよ。」

キースがロランから目を反らすようにして抗議する。

「お互い様。」

ロランはニッコリ笑った。

「だな。」

二人は月の明かりが照らす中、ステップを踏んだ。

「ねぇ、僕、今度こそキースの作ったケーキ食べたいんだけどな。」

「また作ってやるよ。だが当分はケーキ見てると気分悪くなりそうだからな。」

「そっか、それが直ったらキースのケーキが食べれるんだね。待ってるから。」

「分かったから。」

キースは照れを隠しながら言う。

「ねぇ、ダンス、また教えてあげようか。」

「いいよ、俺には性に合わない。」

ロランもキースも今まで気を張り詰めていただけに、お互いの顔を確認することで、しばしの心の休息をとったような、そんな安堵感に浸っていた。