「賢、今日さ俺んち泊まりに来いよ。塾とか、ないよな。」

「ないけど・・・。」

僕は大輔のことが好きだ。

でも、僕は彼を裏切っている。高石と寝た。

好きでそんなことしたわけじゃない。でも、それは浅ましい言い訳にしかならない。

「あの・・・。」

「いいよな。」

大輔の明るい強引さに何も言えず、僕は大輔の家に泊ることになった。

「お邪魔します。」

「いつも礼儀正しいのね、一乗寺君はやっぱり天才少年は違うわよね。どこかの馬鹿息子と違って。」

「うっせー。」

「あ〜、賢君だ〜。」

「ほら来た、いくぞ賢。」

大輔は僕の背中を強引に押して部屋に入る。

「ほんと俺んちってうるせーだろ。」

「でも羨ましい。」

「そーかぁ?」

この家は僕の家と違う、そして、誰も帰らない高石の家とも・・・。つくづく僕と大輔の住む世界の違いを思い知らされる。

僕達は大輔の家族と食事をし、大輔の部屋で遊ぶ。ゲームに、他愛のない会話。

「たまにはこうやって遊ぼうぜ。あとさ宿題とか頼むかもな。」

そう言って大輔は罪のない笑顔を僕に向ける。

「あのさ、本宮・・・。」

「何だよ賢、突然かしこまって名字呼びなんて・・・。大輔って呼んでただろ。」

「本宮・・・。」

僕は再び大輔を名字で呼ぶ。僕には彼のことを「名前」で馴れ馴れしく呼ぶ資格がないと思ったから・・・。

「なんで・・・?」

さっきまで明るかった大輔の顔が曇る。

「大輔ってなんで呼ばないんだ?」

「ごめん・・・。」

「僕ね、高石と寝た・・・。」

「えっ・・・。」

「だから君とはもう・・・。」

「終わりってことかよ。」

僕は頷いた。これでいい、これで・・・。

「でも賢は俺のこと、好きなんだろ。」

僕は戸惑った。どう返答していいか分からなかったから・・・。本当のことを言っても、嘘をついても大輔を傷つけるような気がしたから・・・。

「お前ってほんと嘘つくの下手な奴だな。」

「大輔・・・。」

「お前が誰とどうなろうが、俺はお前をあきらめないぜ。」

「大輔、僕は・・・。」

「何も言うな・・・。」

「好きだ・・・。」

大輔の偽りのない瞳は僕を真っ直ぐ見詰めてくる。僕の汚さも、醜さも全て浄化してしまうかのように・・・。

大輔の口付け・・・。とても温かい。

「俺は賢を傷つけないから・・・。」

大輔はそっと僕の服を脱がせる。

僕はとても贅沢な気分がした。大輔の指が不器用に僕の身体に触れる。大輔は人こうやって触れることに慣れてないのだろう・・・。その初な愛撫が少しくすぐったくて心地よい。

「大輔、くすぐったい・・・。」

僕は思わずクスリと笑う。

「何だよ、こんな時に・・・。」

「ごめん・・・。」

今日だけ、今日で終わりだから・・・。

僕と大輔は体を重ねる。引き合うように・・・。高石に無理矢理体を開かれ、抱かれる時と違い、僕は大輔に対して自然と身体を開く。

大輔が不器用に僕の中に入ってくる。僕の身体と心の全てが大輔を感じる。大輔のぎこちない動き。

それが愛しい。

僕達はそのまま身体を重ねあってお互いに動く。

大輔、もっと来て・・・。側に来て・・・。僕は心の中で言い続ける。

今日だけ、今日だけ、許して・・・。

どのくらい、時間が経っただろう。隣で静かに寝息を立てている大輔。

小さな声で大輔の名前を呼ぶ。

少しくらいして大輔が目を覚ます。

「なんかすっげーよく寝たんだけど・・・。」

「うん、もうお昼だよ。」

「まじかよ、起こせよな。」

「だって君があんまり気持ち良さそうに寝てたから。」

(ずっと見てたかったしね。)

「遊ぶ時間減ったじゃねーか。」

「だったら早く、着替えて、大輔。」

「あっ、また名前で呼んでるじゃん。そっちのほういいぜ。」

これでいいのだろうか。汚れてしまった僕が綺麗な大輔に甘えてしまって・・・。

「大輔・・・。」

「あんま、気にすんなよ。」

神様、もう少しだけ時間を下さい。もう少しだけ夢を見させて下さい。もう少しだけ・・・。

せめて今日だけでも・・・。