どのくらい、日にちが経ったのか、分からない。新・旧選ばれし子ども達や源内さんが動き、どうにか、デジタルゲートは開き、僕と高石はこちらの世界に戻ってきた。僕達はどうやら10日間デジタルワールドにいたらしい。父と母は、警察ん僕達の捜索願いを出していたらしく、世間では「神隠し」などなんだのと、大騒ぎになっていたらしい。特に僕はというと、これが二度目の謎の失踪ということで、マスコミは僕がデジモンカイザーであった時の失踪と比較して、マスコミはその関連性を取沙汰にし、警察も究明しようとしていたらしい。
帰ってきた直後の僕達は精神的にも肉体的にもボロボロな状態で即病院に運ばれ、三日間眠り続けていたという。
僕の母は、ボロボロになってこの世界に帰ってきた僕を見て、取り乱し、父は取り乱したいのを我慢しながら、母を必死で励ましていらしい。
高石のお母さんは、デジタルワールドの存在は三年前の事件で知っているので、僕の母ほど取り乱したりはしなかったが、それでも、ボロボロになった高石を見て、辛そうな顔を隠せずにいたということであった。
ワームモンとパタモンは光子朗さんが預かってくれていると後から聞いた。
僕は、デジタルワールドで高石より多く眠っていたらしく、高石より早く意識が戻っていた。
そして多くの事情を少しずつ、聞かされ、父と母とそして、他の選ばれし子どもたちに何度も謝罪した。帰ってからワームモンにも謝らなければと思う。
デジタルワールドで高石と身体を重ね続けた記憶も今度ははっきりと残っていた。高石が何故、あのように執着的に僕を抱いたのか、僕には不可解だった。そして、それを知っているたった一人の本人はまだ意識が戻っていない。彼の睡眠時間がいかに少なかったのか、僕は、今になって知る事になる。僕が眠っている間、高石が何を考えていたのかは分からない。
しかし、どうしてだろう、高石がここまで傷ついて、ボロボロに見えるは・・。僕は、隣で眠っている高石を見つめた。高石の寝顔が穏やかだが、その穏やかさのなかに幾ばくかの疲弊の様子が見て取れる。
僕は、病院ですることもなく、ぼんやりと高石の寝顔を眺めていた。今、自分がどうしてここまで冷静なのかは分からない。ただ、高石の隠された傷に気付きつつある自分がいることも確かだった。
「君は何を考えていたの?」
不意に眠っている、高石の口から洩れる一言・・。
「け・・ん・・。」
それは僕の名前を呼んでいた。何故・・?
「賢・・。」
まただ。今度ははっきりと聞こえる。何故、彼は僕を呼んでいるのだろう・・。
高石の目から涙のようなものが流れている。何故彼は泣いているのだろう・・。
何故・・・。
「高石君・・。」
僕が小さく名前を呼んだ。
「何故、泣いているの?君は何故泣いているの?」
あれだけ僕に暴力的に接してきた高石だが、何故か、僕はこの理由の分からないこの涙だけは信じる事ができると思った。
「高石君・・。目、覚まして、教えて・・。」
僕は高石に呼びかけた。あれだけ憎んでいた筈の高石・・・。しかし、この疲弊した様子、そして、涙を流しながら僕の名前を呼んだ高石・・。何を思ったのか、僕は高石の唇に口付けいた。自分でも信じられなかった。
僕は高石が、隣で眠っている病室で二日間過ごした。高石が集中治療室に移されなかったのは、疲労が原因だと医者のお墨付きを貰っていたからで、僕と同じ病室で栄養は点滴で取っているのだ。そして、その間、僕は10日間の出来事、高石の涙、高石の考える事、色々なことを考えた。僕自身、目を背けるのではなく、少しづつでも自分で整理する勇気を持たなければならなかったし、高石の涙も何故だか分からないが自然に受け入れることができたのだ。
そして、二日目の朝・・・。
僕は、朝の眩しい光で目を覚ます。そして、いつものように、隣に患者に目をやった。その患者はいつものように眠っているのではなかった。そう、身体を起こし、その顔は窓の方向に向いていた。
(意識、戻ったんだ・・・。)
しかし僕はどう声をかけて良いか分からず、ただ、高石の背中を眺めているだけだった。高石はどんな顔をしているのだろう。僕は気になったが、やはり第一声が見つからぬまま、時間は過ぎる。
不意に金髪の頭が動いた。
(こっちを向く・・・。)
僕は焦った。どうすれば良いか分からなくて、寝たふりをしようにも間に合わなくて・・・。
僕は覚悟を決めた・・・。
「あ・・・。」
僕達は、顔を合わせたまま、何故かお互い言葉を交わせずにいた。高石もただ、僕を見つめるばかりで何も話さない。しかしその、顔は以前のそれとは違い、穏やかであった。
「あの・・・。」
「お、は、よう・・・。」
「おはよう・・。」
僕達はぎくしゃくしながらも挨拶を交わした。
「僕が、こ、わくない、の・・?」
「えっ・・。」
高石の以外な言葉に僕は驚く。
そう、あの10日間、僕にとっての高石は恐怖の対象であった事を今更ながら思い出す。しかし、不思議とその感情は今は消えていた。
僕は静かに首を振った。
「そう。」
そして、また、高石は向こうを向いた。
「あ、の、高石、く、ん・・。」
「何?」
高石は、また、僕を見た。その高石はどこかぼんやりしていて、やはり、まだ、疲れが残っているようだった。
「僕さ・・・。色々考えたんだ。」
「それで、さ・・・。その・・・。」
高石は黙って僕が話す事に耳を傾けていた。
「やっぱり、いい。」
「そう。」
高石は一言言うと、また、窓の外を眺めていた。
僕は思った。高石自身、自分の心を整理しているのだろうと・・。