僕は、賢を取り巻く、奇妙な違和感から賢が育った環境がが尋常ではないと薄々感じてはいたけれど、詮索しなかったし、知りたいとも思わなかった。賢も、僕の事を知りたがらないのか、僕に気を遣っているのか、何も聞いては来なかった。僕もそれで良いと思っていた。僕は、ただ、彼の少女めいた、不思議な魅力に取り付かれつつ、あった。賢は穏やかな性格で、声を荒げることもなかったので、僕達の生活はそれなりに順調だった。
そんなある夜だった。か細い、けれど、喘ぎにも聞こえる声に僕は目を覚ました。
その声は明らかに賢のものだった。
「何、やってるの?」
賢は、眉をひそめ、苦しそうにしていた。
「賢。」
僕の存在に気付いた賢は慌てたように布団を被る。
「賢。」
僕は賢の布団を取り去ろうとする。
「見ないで・・・。」
「お願いだから・・・。」
「何があったのさ。」
僕が布団に手を触れると賢はますます堅くなってく。一体、彼は・・・。僕は、初めて賢の事を知りたいと思う。
「賢。」
僕は力ずくで布団を取り去る。
布団の下の賢は、眉間に皺をよせて、「悶えている」という表現が的確であるといえた。
「賢・・・。」
「これ、以上・・・。見な、いで・・・。」
「やぁんぁぁ・・・。」
(これって・・・。自慰行為?)
「ここが、欲しいの?」
賢のあまりにも色っぽくて、今まで感じていた、少女めいた魅力もあいまって、僕は、思わず賢の寝間着のズボンに手に入れ、そのまま太股を滑らせた。
「あはぁあ・・・。」
僕の手の動きに賢が反応する。
「高、石・・。」
賢は驚いたように僕を見た。
「辛いんでしょ。」
賢は頷いた。
「はぁあんん・・。」
「やはああんん・・。」
この年になると自慰行為をしたって不思議なことではないのに、賢のそれには、どこか、違和感があった。しかし、僕は、そんな感情など、すぐに消えてしまい、乱れる賢に夢中になって、賢の中で指を動かした。
賢のそこからは粘着質な音が響いてくる。白い液体が、滲み、布団に落ちる。
(クチュウ・・。)
「やだはぁあん・・。」
そして、僕自身、我慢ができなくなり、自分のを賢の中に挿入し、僕達は繋がった。
「あ・あ・・・。」
「やだはああん・・。」
「賢、賢・・。」
「可愛いよ。賢・・・。」
僕は思わず賢の耳元で囁いた。
僕は、賢の中で夢中で動く。賢も腰を振ってそれに応えた。僕達はお互いのを放出し、布団に、二人のが交じり合い、飛び散った。
賢は、ただ、満ち足りた快感からなのか、嬌声をあげる。
「あはああんんん・・。」
「やはああん。」
最後の賢の嬌声を聞き、僕達は果てた。
次の朝・・。
僕は賢より、早く目が覚めた。何時の間にか、賢のベッドで眠っていたのだ。そして、昨晩のことが、鮮明に蘇える。賢の奇妙な自慰行為・・。そして、自分自身、賢の身体を求め、繋がってしまったこと・・。僕は一瞬全て夢にすぎないのではないかと疑った。しかし、布団には、賢と僕の精液が付着していた。僕は、それを目にして、昨日の出来事が全て夢ではないことを確信する。
その時、僕ははじめて賢の生まれに対する興味を覚えた。賢の、あの、乱れ様は尋常ではない。
「これが、はじめて、じゃ、ない、のか・・。」
一体、ここへ来る前、どんな生活をしていたのだろう。それは、ぼくが知るべき事ではないと分かっていたけれど、気になって仕方がないのも、事実・・。
僕は、僅かな寝息を立てて眠っている賢を見やった。しかし、その寝顔から何が分かる訳でもなく、僕は溜め息をつく。
そして、この時からだろうか。僕の賢に対するこれもまた、奇妙ともいえる欲望が芽生えはじめていたのは・・。
起床時間・・。
賢は、気だるそうにその身を起こした。
「おはよう。」
僕は極力平静を装った。
しかし、賢は、僕の顔を見るなり、面食らったようになった。
「あ・・・。」
そして、僕の顔を直視しようとしなかった。
「高石、君・・・。昨日・・・。あの、その・・。」
「別にいいよ。無理に話さなくても。」
僕も何だか、きまりが悪くて、気まずい雰囲気が僕達を取り巻いた。
「ごめん・・。」
「授業に遅れるよ・・・。」
「そう、だね・・・。」
僕達は無言で支度をして、部屋を出た。僕達は、無言のまま、宿舎を出て、校舎に向かう。いつもなら、授業のこと、学校生活のこと、趣味のことなどをお互いに話しながら校舎まで行くのだが、今日はそんなに気分にもなれなかった。お互い、昨日の晩のことが頭から離れなかったのである。それぞれ、別のクラスだったので、廊下で別れた。
「それじゃ、また・・。」
「うん。」
僕達は、淡々と事務的に挨拶を交わして、それぞれの教室に入っていった。
僕は、授業中も、賢の、あの、淫らな、嬌声と表情が頭から離れなくて、上の空で授業に参加していた。そして、賢のそんな声や表情を思い出す為に、正体不明な欲求が疼き、僕を困惑させた。そして、淫らな賢を犯す想像をしては自己嫌悪に苛まれる僕が、そこにはいた。