1.復活の時

ブラックサン・・・。

ゴルゴム神殿。

栄光の廃虚は、もはや、その形を失っていた。

ブラックサン・・・。

そこには、一つの、錆びれた、銀色の肢体が転がっていた。

それは、かつての、この神殿の主でもあった。

しかし、それも、今や死んでいるかのように、見えた。

それは、そこまでにも、朽ち果ててしまっていたのだ。

しかし、その念だけは、あまりに強すぎるくらい、残っていて、そこに近寄る人間、そして、動物、植物あらゆるものを遠ざけていた。

ブラックサン・・・。

その肢体から流れる念は、たったそれだけであった。憎悪をはるかに越えた憎悪とでも言うのだろうか。

朽ちるものか・・・。

ブラックサン・・・。

”力をよこせ!!”

その念が最大限に達した時だった。

地震が起った。そして、その影響は、廃虚の内外だけでなく、世界中を震撼させ、世界のあちこちで、地震が観測されてしまうまでに至った。

銀色の肢体の体内に埋め込まれている、王の石が輝きを放った。それは、赤く、憎悪と邪悪に満ちた輝きであった。その輝きを受け、錆びれた銀色の肢体は、輝きを放ち、かつての、それをみるみるうちの取り戻していった。そして、灰色に変色していた、大きな瞳に、エメラルドの光が灯る。

2.もう一つのキングストーン

神殿の地震の廃虚の影響は、勿論、光太郎や、玲子、佐原家の仲間達のところにも渡っていた。

その日は、玲子が休日を利用して、佐原家に遊びに来ていた。そして、佐原空港も、休日だった。

茂とひとみも学校から帰って来ていて、光太郎と玲子、そして、茂とひとみ、そして佐原家の主である俊吉の四人でトランプのババ抜きに夢中になっていた。

「これかしら。」

玲子が光太郎のカードを抜いていた。

茂、ひとみ、俊吉が、次々と上がっていくなか、光太郎と玲子が残っていた。

「あっ・・・。」

ジョーカーを持っていた光太郎は、ジョーカーを玲子から抜かれそうになって、少し顔をほころばせていた。

「もう、光太郎さん分かりやすいんだからっ。これはやめね。」

そう言って、玲子は別のカードを抜いた。

「はいっ、上がりっ。光太郎さんの負けね。」

そう言って、玲子はにっこり笑った。ビリになってしまった、光太郎は苦笑しながら頭を掻いた。

「光太郎兄ちゃん分かりやすいもんなぁ。」

茂が笑いながら言った。その言葉に同調してひとみも嬉しそうに笑った。

「はーい。皆さん〜。お茶の時間ですよ〜。今日はお母さんが腕によりをかけてクッキーを作りました〜。」

言いながら、紅茶の入ったカップを6つと、クッキーが盛られた皿を唄子が盆で運んできた。

「あっ、唄子さん、私手伝います〜。」

玲子が唄子に手を貸そうとする。

「いいよの。大丈夫だから。」

周りがグラグラと揺れ始めた。

「キャー!」

唄子は、驚きの叫びとともに、手にしていた盆をひっくり返す。

「光太郎兄ちゃん、怖いっ!」

ひとみが光太郎にしがみつく。

「大丈夫だよ。」

光太郎は、瞳を庇うようにした。

光太郎は、この地震がただの地震ではないような気がしていた。

クライシスの仕業なのか・・・。

それとも・・・。

ひとみを庇いながら、光太郎は頭に様々な考えを巡らせた。

「地震よ〜。きゃー、地震よ〜。」

唄子が喚きながら慌てまくる。

「ちょっと、唄子さん落ち着いて下さい。」

「そうだ、落ち着くんだ。こんな時は、まず落ち着いて外に出る。」

「そうだよ。母ちゃん。」

茂も俊吉に同調する。

玲子が唄子をなだめようとした。

しかし、その地震も大したものではなかったらしく、すぐに揺れが止まる。

「何だ、すぐに終っちゃった。」

茂があっけらかんとして、言った。

溜め息をつく、唄子をなだめながら、玲子は、こぼれた紅茶の始末をしていた。

「良かったわ。」

ひとみは、光太郎に向けて安心の笑みをこぼした。

その時だった。

「うっ・・・。」

光太郎の、キングストーンが埋め込まれている、腹の中心部に激痛が走った。

その痛みは、熱さとも言えた。

(これは・・・。さっきの地震と関係があるのか・・・。)

(まさか・・・。)

光太郎の脳裏に、一年前のシャドームーンとの決着のことがよぎる。

(信彦・・・。)

「どうしたの?光太郎さん。どこか、悪いの。」

玲子が光太郎を心配そうな顔で見た。

「何でもない。何でもない。」

光太郎は、無理に笑って見せた。

「ちょっと、俺。」

そう言って光太郎は、外に出た。

そんな光太郎を、他の5人が不思議そうに見た。

「光ちゃん、何か、あったのかしら・・・。」

「さぁ・・・。」

光太郎は、佐原家の玄関の前に立っていた。

まだ、体内のキングストーンは、光太郎に熱と痛みを与えていた。

(まさか、信彦が・・・。)

これは、善の予兆であるのか、それとも、邪悪なる予兆であるのか。

善の予兆であって欲しい。光太郎は願った。

しかし、光太郎は、そうでないことも分かっていた。あの、悲しい対決は二度としたくない。

光太郎は、唇を噛み締め、握り拳を作った。

(キングストーンよ。願わくば、もう、俺達を闘わせないでくれ。)

光太郎は、心の底から願い続けた。

3.そして、復讐

ジャークは、一人、かつての栄光の廃虚に足を踏み入れていた。

そこには、神殿らしきものがあった。が、それは、すでに形を残すことなく、瓦礫が僅かに残るのみであった。

そう、ここは、かつて、日本を征服し、人々を震撼させた組織、ゴルゴムの神殿であったのだ。

そこには、怪人の死骸こそないが、様々な怨念がひしめき合い、人間を、遠ざけていた。

ジャークは一人、そこに佇んで、自らその空気を肌で感じていた。

「何と心地良いものか。」

ジャークは静かに言う。

「クク、クク。」

「ハァハッハッハァ!」

ジャークは狂ったように笑った。

「ここは、死して未だに、余の力さえも脅かそうとしておる。」

そして、その怨念の中で、一際、いや、それらをはるかに抜きんでた憎悪が混じっているのをジャークは感じ取っていた。

「出てこい。貴様がいるのは、分かっているぞ。」

ジャークの声が深閑の中、響き渡る。

「余は貴様の憎悪など恐れはせぬ。」

黄金のマスクは無表情だった。

ゴゴゴゴゴゴー!

地鳴りとともに、銀の肢体、そして、エメラルドの瞳が闇の中から光りを放った。

エメラルドの瞳から稲妻が、ジャークに向かって放たれる、ジャークはそれを黄金の杖で振り払う。行き場を失った稲妻は、大きな爆発音とともに、僅かに、形として残っていた、瓦礫も、粒となった。

「ブラック・・・。」

銀色の肢体はそう言った。

「クク、憎悪だけで再生するとはな。流石だ。」

ジャークは低く笑った。

「憎いか。仮面ライダーブラック、いや、ブラックサンが。」

「ブラック・・・。」

銀色の肢体は再びその言葉を繰り返した。そして、それは、両方の手から引き出した、赤い、光を剣に変えた。

そして、その片方の刃をジャークに振り下ろす。ジャークは黄金の杖でそれに対抗した。しかし、もう片方の刃が、ジャークの肩に振り下ろされようとした。ジャークはその光の剣を恐れることなく、握った。掌から、僅かにジャークの体液が滴る。

両者の力が摩擦し合う。

その時だった、銀色の肢体は、剣を引き、身体を回転させ、そのまま、空中で蹴りを放つ。

そのタイミングを計り、ジャークは杖からビームを放った。蹴りの威力とジャークの放ったビームが直に衝突し、爆発を起こす。

煙の中、銀色の肢体が姿を消した。

ジャークは、それでも、構えを解かなかった。

あの銀色の肢体は消えてはいない。ジャークには分かっていた。

”必ず、姿を現す。”

廃虚内に、不穏に沈黙した空気が流れた。

その間ジャークは、僅かに心を躍らせていた。

久々に感じる緊張感。

相まみえる敵は、強く、そして、不気味だった。

ジャークはそれが、心地良かった。

司令官までに上り詰め、戦場に出ることが少なくなった。しかし、戦士の血は全く衰えを知らないのである。

戦士の血が、敵の強さ、戦いへの喜びを本能として感じ取らせるのである。

ジャークは、改めて、実感した。

”自分は、やはり、戦士にしかなれない”のだと。

それから、僅かの時間、といっても、秒単位。

足元の金属音とともに、銀とエメラルドが煙りの中から光る。手には再び、あの、赤い剣を光らせている。

「失せろ。」

銀色の肢体が低く言った。

「ククッ。」

ジャークは負った傷など、なかったかのように、不敵に笑った。

「その刃、貴様の望み通り、仮面ライダーブラックに向けさせてやろう。」

「何だと・・・。」

「貴様の妄執を遂げさせてやろうと言っているのだ。」

「影の貴公子、世紀王シャドームーンよ。」

銀色の肢体はその名で呼ばれ、ゆっくりと、空を仰いだ。まるで、太古の記憶を辿るかのように。

「世紀王、遠く、昔、そう、呼ばれた記憶が、ある・・・。」

「だが・・・。」

シャドームーンは、赤の、光の、剣を片方、ジャークに向けた。

「俺は、全てを捨てた。憎悪のみで蘇った。」

「俺は、無だ。」

「余計なものは、ない、というわけか。」

ジャークは静かに言った。

「俺が、求めるのは、仮面ライダーブラックの抹殺、それのみ。」

「ジャーク、といったな。俺は、貴様の指図は受けん。ただ、奴を抹殺するのみだ。」

そう言って、シャドームーンは、闇の中に溶け込む様にして、その銀色の肢体を消した。

まだ、戦いの残煙が立ち込めていた。

「それで、十分だ。」

ジャークは、一人、言った。

「クク、ハーハッハッハァ!!。」

不気味な空気が放たれる中、ジャークの笑いが、ただ、高く木霊するのみであった。