1.山火事

水のエル、風のエル、地のエルは、アギト、ギルス、G3−Xによって倒された。そして、闇の創世主は、人間を見守ることを、約束し、姿を消し、再び、街は平和を取り戻した。

それから、数日・・・。

ここは、かつて、闇の創世主が眠っていた森である。

辺り一帯、尋常ならざる空気が流れていた。闇の創世主の復讐は終り、三体のエルロードも倒されたにも関わらず、あの時と、変わらない不気味な空気。それは、何かが生まれる前兆のようでもあった。

一本の木が光り始めた。そして、光に包まれた、その木がみるみる内に赤い繭のような物体に変化していく。そして、その繭は、赤い奇妙な光を発し始めた。更に、繭は、炎に包まれ始めた。その炎は次第に強くなる。強さを増した炎は、他の木々に移っていき、火事を起こした。炎はあっという間に辺りの木々を巻き込み、ゴーゴーと音を立てて燃えていった。

付近の住民が森が赤々となっているのに気付き、慌てて通報し、消防隊、警察官、救急車が次々に到着していった。

何台もの消防車が一斉に放水を始めた。しかし、火は一向に消えなかった。

警察官達は、付近の住民に、緊急避難命令を出し、住民達は、山から離れた小学校や中学校の体育館に次々と避難していく。

幸い、森 に入った人間は、この日は一人もおらず、人間に関しては、数人の軽傷者が出たのみで、住民は、無事、避難を終えた。

しかし、火の勢いは、消防隊員の努力も空しく、弱まるどころか、強くなる一方であった。そして、その火は不気味な光さえ、発していた。

警察官の中には、氷川誠と北條透も含まれていた。

「北條さん、変、だと思いませんか。この火事。」

「あなたも、何か、感じたのですね。」

「はい。もしかして・・・。」

二人の脳裏には、同じ考えがよぎっていた。二人は、お互いの考えていることを知り、無言で頷きあった。

(アンノウン。)

しかし、アンノウンと呼ばれていた、闇の創世主の使徒達は滅びた筈だ。しかし、人間の常識では、説明がつかない、異常な火事。

G3ユニットは、アンノウン、そして、アギト事件で有耶無耶のうちに解散されていた。

そして、氷川誠は、北條透とともに刑事課に、小沢澄子は、警視庁の研究機関に、尾室隆弘は、交通課に、G3ユニットは、もはや、過去の組織となっていた。

「氷川さん、これは、私の直感ですが、G3ユニット、復活の時だと思いますが。」

「北條さん・・・。」

二人は頷きあった。

2.G3ユニット復活

火事が起こって数日が経った。

しかし、連日の消防隊員の消化作業も虚しく、火は一向に消えなかった。しかし、広がることもなかった。ただ、人間が森に入ることを拒絶するかのように、森の中だけが、赤々と燃えていた。

森の付近に住んでいた住民達は、都庁の計らいで提供された、臨時の、住宅に次々と引っ越していき、不安な毎日を送っていた。

氷川誠と北條透は、警視庁の研究室の一室を尋ねた。

「お元気ですか。小沢さん。」

「あら、氷川くん。久しぶりね。顔を見せてくれて嬉しいわ。」

小沢澄子の微笑に氷川誠ははにかみ笑いをした。久々の再開だったので、わけの分からず、緊張していたのだ。

その氷川誠の後ろから、北條透が現れる。

「お久しぶりです。小沢さん。」

「あら、あなたもいたの。北條くん。」

先程、氷川誠に見せた微笑を撤回するかのように、あからさまに、つっけんどんな態度に豹変する、小沢澄子。

「これは、また邪険な。」

北條透は、余裕を現す笑いを口元に浮かべて言った。

「全く、あなたは何を言っても皮肉笑いね。それもあなたの可愛くない一つの要因よ。」

「あなたに邪険にされるのは、慣れてますからね。」

少し、皮肉めいて言う、北條透。

「用件は、言わなくても分かってるわ。」

「さすが、小沢さん、察しが良いですね。」

「あなたに誉められても、嬉しくないわ。ねっ氷川くん。」

小沢澄子に同意を求められ、苦笑を浮かべる氷川誠。

「全く、氷川くんには、同情するわね。こんな奴と一緒に働かないといけないものね。」

「それは心外ですね。私と氷川さんは、今や心を通わせる親友なんですからね。」

「何、気持ち悪いこといってるのよ。」

「そうそう、今ね、尾室君も来てるのよ。」

「えっ、尾室さんが。」

嬉しそうに目を輝かせる、氷川誠。それもその筈である。尾室隆弘が現れれば、かつて、苦楽をともに分ち合った、G3ユニットが揃う訳である。

「あなた達と同じ用件でね。」

「でも・・・。」

「今ね、トイレにでもいってるんじゃない。急に血相変えて飛び出して行ったから。全く、いつもキマラナイ奴よね。」

それから、少しして、尾室隆弘がヘトヘトと入ってきた。

「はぁ〜。昨日、食べ過ぎちゃって、お腹下しちゃったんですよ。」

しかし、その眼中に、氷川誠が目に入るやいなや、さっきの、疲れ果てた顔はどこへやら、キラキラとさっきの氷川誠以上に輝かせた。

「氷川さんじゃないっすか〜。」

そして、尾室隆弘は、懐かしそうに、氷川誠の手を握り締める。

「会えて嬉しいっすよ〜。もう俺、寂しくて、寂しくて、最近ヤケ食いギミだったんですよ〜。」

「あっ、北條さんも。」

慌てて、北條透の手も握る尾室隆弘。

「いいんですよ。私はついでですから。」

そう言って北條透は含み笑いを浮かべた。

「さて、役者は揃ったわね。心は、一つってことね。」

四人は急に真剣な顔付きに変わりお互いに頷きあった。

四人の心は一緒であった。

”G3ユニット復活”である。

四人は早速、嘆願書を上層部に提出した。しかし、上層部は、苦い顔を浮かべ、四人を門前払いにしようとした。頭にきた小沢澄子が暴言を吐きかけたその時である。

そこに現れたのは、警視総監であった。

「私は、賛成だがね。君達は、あの火事を普通の火事だと思うのかね。そして、以前、アンノウンという人間には計り知れない力を持った未知の生物も実際に現れているではないか。そして、今度の火事だ。普通の力で、住民を守れない以上、それ以上の力に頼るべきときではないのかね。」

その警視総監の声で、上層部は苦い顔を浮かべながらも、結局、警視総監も交えた協議の結果、G3ユニットは復活することとなった。

「ありがとうございます。」

「いやいや、私は、君達こそ、あの火事を解決できると信じたまでだ。あとは君達に任せたよ。」

そして、礼をする、氷川誠の肩を一度叩き、警視総監は踵を返した。

3.焼死事件

深夜0時前だった。

森は、赤々と燃える炎で闇を照らしていた。

その中から奇妙な唸り声の様なものが微かに聞こえてくる。その声は低く、そして、怒りを孕んだものに聞こえる。声は次第に明確になっていった。

「アギト・・・。ニンゲン・・・。滅ぼす・・・。」

声とともに、赤い姿をした怪人が現れた。それは、以前、アギト、ギルス、G3−Xが倒したエルロードの姿を継承していた。いや、この生物こそ、創世主が残してしまった、最後の、そして、最も危険なエルロードだったのである。

翌日だった。奇妙な焼死事件が数件起った。手口は同じで、被害者は、死体どころか、身体すら残ることなく、少しの灰を残し焦げ臭ささを漂わせ、完全に消失していたのである。

マスメディアはこの事件を嗅ぎつけ、”アンノウン再び襲来か”というふうな記事が、新聞の一面を飾り、そして、ニュース、ワイドショーでは一日中、このことが報道され、周囲を賑わした。警視庁も、この事件の対応に追われ、氷川誠、小沢澄子、北條透、尾室隆弘の四人が嘆願書を上層部に提出しなくても、G3ユニットは復活を余儀なくされていたであろう、状況である。

北條透は、今まで通り、刑事課に残り、G3ユニットは、以前通り、小沢澄子、氷川誠、尾室隆弘の三人で編成された。

その決定が下された時、北條透は以前のように、氷川誠を妬むこともなかった。それは、どんな役割であろうとも、あの時、小沢澄子の研究室に集まった四人はアンノウンを倒すという一つの目的にによって、心は一つになっていたからである。

「氷川さん、私は、あなたのように、G3−Xは装着できませんが、刑事課という自分の立場から、あなた達のバックアップをさせて下さい。」

「ありがとうございます。北條さん、便りにしてます。」

「あら、随分、可愛くなったじゃない。少しは、あなたのこと、嫌いじゃなくなったかもね。」

そう言って、小沢澄子は鼻で笑った。

「それは、それは、女王陛下に気に入られて結構なことですね。」

そう言う北條透は相変わらず、皮肉めいた口調だが、そこには、以前のような妄執はなかった。

そして、G3ユニットの三人と北條透は別れた。

「さて、皆、久々のG3ユニットよ。G3−XもGトレーラーもこのために改修に出されて、パワーアップして戻ってきたのよ。さっさとアンノウンをやっつけるわよ。」

「はいっ。」

二人の返事はいつも以上に気合いが入っていた。

4.津上翔一と風谷真魚

津上翔一は、その頃、岡村可奈が去った、恩師、倉本のレストランで変わらず、修行をしていた。倉本は、岡村可奈に戻ることを許したのだが、彼女自身、気持ちの整理のために、レストランをやめることを決めたのだ。

そして、津上翔一のアギトとしての身体も、事件を察知し、時折、無性に、そわそわするようになっていた。

(もしかして、また・・・。)

津上翔一自身も、これからまた自分は闘うことになるのだろう、そう、感じ取っていた。

「先生、俺、先生に迷惑かけるかもしれないんです・・・。」

不意に口にした津上翔一の言葉に倉本は驚いた。

「どうしたんだ。突然・・。」

「でもここで働いてはくれるんだろ。」

「はいっ。働かせてもらいます。」

倉本の言葉に、津上翔一は嬉しそうに返事をした。

一方、美杉家では、津上翔一に関する不安を抱いた者がいた。風谷真魚である。彼女は、透視能力の類の超能力を持っており、時折、未来すら見通してしまうこともある。その風谷真魚、胸のざわめきがおさまらないでいたのだ。しかし、その未来は、殆ど見えないに等しい。しかし、何かが起ることだけは、見えている。あまりに不完全なだけに風谷真魚はさらに不安にかられていた。

彼女は、部屋の勉強机に座り、津上翔一が、居た頃に、家族全員で撮った、一枚の写真を見つめていた。

(翔一君なら、大丈夫よね・・・。)

風谷真魚は自分の不安を掻き消すように、何度も自分に言い聞かせた。

そして、津上翔一は、今まで、何度も風谷真魚の不安と負のビジョンをよそに、様々な試練を一年間で乗り越えてきたのである。風谷真魚もそのことを信じたかった。そう、今回も何が起ろうとも、津上翔一が乗り越え、笑顔で戻ってくることを。

5.葦原涼

全てを失った葦原涼は、東京から離れ、埼玉県のとある町で、小さな安いアパートを借り、近所の、夫婦が営む、バイク屋でアルバイトをしていた。

そして、葦原涼も、津上翔一と同じく異変に気付いていた。そして、予感していた。近い将来、再び、自分がギルスに変身せざるを得ない時が来ることを。

しかし、そんな葦原涼にもはや迷いはなかった。

(俺は、普通の生活を守る為に、自分の為に闘う。)

葦原涼は静かな決意を固めた。

「おやっさん。」

いつになく、真剣な表情で、年にして60前の、白髪で、大柄なバイク屋の主人の前に葦原涼は立っていた。

「俺、少し、バイト休ませて貰うかもしれないんです。」

「何か、重大な決意をしたようだな。涼。そういう時の男の顔はな、今のお前みたいに、いい顔をしてるもんだ。ワシは何も言わん。」

「ただし、帰ってこいよ。ここがお前の居場所なんだからな。」

「はい。必ず、帰ってきます。」

そう言って、葦原涼は、くったくのない笑顔を見せた。

葦原涼は、今、確信した。ここが、自分が普通に暮らすことが出来る、自分の夢を叶えることができる場所なのだと。そして、心から思った。この場所を、守りたいと。その為に闘うのだと。

6.エルロード

謎の生物が発見されたのは、間もなくのことであった。

そのことは、Gトレーラー内のG3ユニットにも伝わった。

「来たわね。」

G3ユニットの三人は、真剣な顔で立ち上がった。

「氷川くん。行ける?」

「はいっ。」

「よし、尾室君、準備して。」

「はいっ。」

Gトレーラー内は静かだったが三人緊張感でピリピリとした空気が流れた。

G3−Xの頭部以外の部分を装着し終わった氷川誠。

「氷川くん。」

小沢澄子は、そう言い、一度頷いた。そして、氷川誠も小沢澄子に頷き返す。

「はいっ。」

それを感じ取った氷川誠は、心からの返事をした。

「氷川さん、頑張って下さい。」

いつもおとぼけキャラの尾室隆弘はどこへいったのか、真剣な眼差しで氷川に声を掛けた。

現場が近くなると、氷川誠はガードチェイサーにまたがった。

「G3−X、出動。」

小沢澄子の声とともに、Gトレーラーのコンテナの扉が開き、昇降装置が伸び、ガードチェイサーを送り出した。

エルロードはすぐに発見された。エルロードは、いままさに、目の前の中年男性にターゲットを絞ったところであった。

ガードチェイサーがエルロードに向かって突進する。それに気付くとエルロードは、手を翳し、ガードチェイサーを跳ね飛ばす。

エルロードに気付いた中年男性は、悲鳴を上げ、逃げていった。

(強い・・・。)

それは、少し前に、闘ったエルロードと同じ、力、いや、それ以上の力を氷川誠は感じ取った。

体中がゾクリとする感覚に襲われる。

氷川誠は、初めて、恐怖で全身が麻痺しかけていた。

(動け!僕の身体!)

「どうしたの!氷川くん。大丈夫?」

小沢澄子の声が、マイクを通して聞こえる。

「はいっ。」

自分自身に喝を入れるかのように、氷川誠は返事をした。

エルロードは、目の前の獲物を、弄ぶように、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

「うぉぉぉぉ!!!」

氷川誠は、叫びをあげながら、GX−05を敵に向かって放つ。しかし、エルロードは、その玉を跳ね返し、氷川誠の身体に直撃させる。

「死ネ、裏切リシ、ニンゲンヨ。」

「氷川くん!!!」

小沢澄子が叫ぶ。

エルロードの手から炎が出ようとした時であった。

エルロードが手から炎を自身で止めた。

「オマエタチハ。」

突然、エルロードの前に二人の青年が立ちはだかった。

「氷川さん、しっかりして下さい!」

「俺達も、闘う。」

それは、津上翔一と氷川誠であった。

「津上さん。葦原さん。」

津上翔一は、G3−Xを装着した氷川誠に手を差し出す。その手を取り、氷川誠は立ち上がる。

そして、二人は同時に変身の構えをとる。それぞれの腰に、ベルトが現れる。

「変身!!」

同時に声を発し、津上翔一と、葦原涼は異形の者に姿を変えた。

「オマエタチガ、アギトカ・・・。」

エルロードは二人を見据えた。

「うぉうぅ。」

すぐにギルスが唸り声を上げながら、エルロードに食らいつく。続いてアギトもエルロードに突進していく。そして、G3−XもGK−06を手にし、エルロードに向かっていった。

しかし、エルロードは、いとも簡単に、三人を同時に跳ね飛ばしてしまう。

「脆弱ナヒカリノテシタドモヨ。」

アギトがライダーキックの構えに入る。足先に全ての力を集中させ、空中に飛ぶ。続けて、ギルスのライヴレックスに生えている爪が伸び、ギルスが大きな雄たけびをあげながら、空中に飛ぶ。

しかし、二人の必殺技は、虚しく、命中する前に、弾き飛ばされ、二人は地に叩き付けられ、変身がとけ、傷ついた生身を曝け出す。

二人にジワジワと詰め寄る、エルロード。

「やめろぉぉぉぉ!!」

氷川誠は、GX−05を乱射する。もはや、無我夢中であった。しかし、その玉一つ一つを弾き返され、いくつかが、自身に命中し、氷川誠は倒れ伏す。G3−Xの損傷部分は酷く、あちこちがひび割れていた。

「小沢さんっ、損傷率80%です。」

「氷川くん!!!」

小沢澄子が、Gトレーラーをから飛び出した。

三人は、既に意識を失っていた。

小沢澄子は、倒れ伏した三人を見下ろすエルロードを睨み付ける。

「許さない!」

言い知れない怒りが込み上げてくる。

「許さない!」

小沢澄子は、怒気を孕んだ声で叫ぶ。

「オマエタチニナニガデキルノダ。」

エルロードは、そう、言い残すと、姿を消した。

7.四人の闘い

津上翔一と葦原涼と、氷川誠は、すぐさま、救急車で都内の病院に運ばれた。三人とも、それぞれ、重態で、絶対安静だった。

津上翔一の一大事を聞いて風谷真魚、美杉義彦、太一親子、そして、恩師の倉本がかけつけた。そして、小沢澄子、尾室隆弘と落ち合った。そして北條透もかけつける。

「翔一君が、翔一君が・・・。」

風谷真魚は今にも泣きそうであった。

「先生っ。翔一君は、大丈夫なんですか?」

「真魚、少し落ち着きなさい。」

「だって・・・。」

「大丈夫よ。命の別状はないわ。」

小沢澄子が風谷真魚の肩に手を置いて言った。

「小沢さん・・・。」

「私は信じてるわ。氷川くんをね。」

「そう、ですね。」

風谷真魚は、そう言うと涙を拭った。

「私も、信じます。翔一君を。」

「そうね。」

小沢澄子は、微笑んだ。

「それでは、私はこれで。」

そう言って小沢澄子は踵を返した。

「って小沢さん、もう帰るんですか。」

尾室隆弘が言うと、

「やらなきゃならないことがあるのよ。」

「小沢さん、何かをやるつもりですね。顔を見れば分かります。」

北條透の言葉に小沢澄子は頷いた。

「どうやら、重大な決意のようだ。」

「そうね。だったら、これから何日か、私に近寄らないことね。怖いわよ。」

そう言う、小沢澄子は、他を寄せ付けない威圧感すら漂わせていた。それほどまでに、強い決意が彼女の胸の内に秘められていたのだ。

そして、足取りも、確かに、小沢澄子は歩いていった。

それから数日、小沢澄子は、Gトレーラーに篭りきりだった。

その間、津上翔一と、葦原涼と、氷川誠は意識が不明の状態をさ迷っていた。風谷真魚は、学校が終ると毎日お見舞いに行った。

しかし、小沢澄子は、お見舞いも行かずに、ただ、Gトレーラーに篭ったままであった。

「小沢さん、そんなに篭りっきりじゃ身体に、悪いっすよ。それに、たまには氷川さん、お見舞いにも行かないと・・・。」

「尾室君、私に近寄ると怖いといった筈よ。」

そう言うと誰も寄せ付けない様に、ひたすら、コンピューターに打ち込んだ。

そして、アンノウン事件はというと、火事は、案の定、広がることもなく、森だけが赤々と燃え続けていた。しかし、温度が上がる訳でもなく、臨時の住宅に住んでいる森の付近に住んでいる住民以外に支障はなかった。そして、焼死事件の方は、一時、収まっていた。

それから、三人が負傷して、一週間が過ぎた。

そして、津上翔一、氷川誠、葦原涼は、少し前に意識を取り戻し、回復に向かっていた。

小沢澄子がついにGトレーラーから出て来た。

「小沢さん。」

「アンノウンの状況は?」

小沢澄子の顔は相変わらず真剣であった。

「火は燃えたままで、焼死事件は、一週間、一件も起っていません。」

「そう。さて、そろそろ行動に出るわよ。」

そして、一週間ぶりに、焼死事件が起り始めた。

「いよいよね。」

小沢澄子は呟いた。

その時である。

「おや、一週間ぶりにお出ましですか。女王陛下。」

北條透である。

「全く、一週間たっても、口が減らない奴ね。」

「一週間の成果、興味がありましてね。」

「まぁ、見てて。これから凄いことが起ると思うわ。」

おどけた口調だが、小沢澄子の顔つきはいつになく真剣であった。

そして、アンノウン目撃情報。

「行くわよ。澄子。」

小沢澄子は自分自身に言い聞かせる様して、Gトレーラーの奥に入る。

そして数分。

北條透と尾室隆弘が驚愕の声をあげたのは、言うまでもなかった。何と、小沢澄子がG3−Xを装着していたのだ。

「小沢さん、それは・・・。」

「駄目です。無茶しないで下さい。」

「そう言うと思ったわ。

「私が変わりに装着します。」

「これはね、あなた達では無理なの。私の身体状況に合わせてかなり前から独自に私が開発を進めたものなの。だから、これの適格者は私以外にいないのよ。」

「しかし・・・。」

「尾室君、バックアップ、頼むわね。北條くん、あなたも暇そうだから手伝ってもらうわ。オペレーターは二人は欲しいの。」

「しかし・・・。」

「だったら私が氷川さんのG3−Xを着て・・・。」

「それは無理ね。G3−Xは氷川くんに合わせてるから。あなただと、拒絶反応起こして多分、一分と持たないわね。」

「まぁ見てて。私が新たに開発したってことは、数段パワーアップしたってことなのよ。」

「バックアップ頼むわね。」

その表情は、微笑と堅い決意が入り交じっていた。

「分かりました。あなたが、そこまでおっしゃるのなら、女性を戦地に赴かせるのは、私の主義ではありませんが。」

「しかし、これだけは言っておきます。危険を感じたら、離脱して下さい。私を見習ってね。」

そう言ってクスリと北條透は笑った。

「そうね。あなたの腰抜け根性を見習ってね。」

「言いましたね。」

そして、北條透と小沢澄子は笑い合った。

「氷川さんの為に、がんばって下さい。」

「知ってたの。」

「ええ、あなたは天才の割には単純ですからね。」

そして、二人は、お互い、親指を立てる。

「小沢さん、絶対危なかったら逃げた下さい。でないと俺・・・。」

尾室隆弘は半泣き状態であった。

「行くわよ。」

小沢澄子は、小さく呟く。

「G3−X出動。」

尾室隆弘の声とともに、ガードチェイサーにまたがった小沢澄子が出撃した。

目の前に現れる、エルロード。

「あなただけは許さない。」

そう言って小沢澄子は、ガードチェイサーの後部にあるGX−05をエルロードに狙いを定めた。

発射。

GX−05はこの一週間、小沢澄子が研究を重ね、数段の攻撃力を増して改良されたのである。

しかし、それをも跳ね飛ばすエルロード。

「最後に勝つのは、人間よ。」

そう言うと、GX−05をバルカンモードに変形させ、乱射する。

しかし、それは氷川誠の二の舞で、全てを弾き飛ばされる。幸い、彼女の身体には一発当たったのみであったが。それでもかなりのダメージはあった。

「つっ・・・。」

小沢澄子は、のけぞる。しかし、怒りを込めて、そのまま、エルロードに突っ込んで行く。

その時だった。

Gトレーラーに一人の人物が飛び込んできた。

「僕に、G3−Xを装着させて下さい。」

「氷川さん。」

「小沢さんと、闘います。」

「身体は・・・。」

北條透はもはや、この男にも何を言っても無駄だと分かっていた。

側で、尾室隆弘はあたふたしていはいたが。

「僕の身体は大丈夫です。ですから、お願いです。」

「やれやれ、あなたたちは、本当に、バカップルというかなんというか・・・。」

それから・・・。

「小沢さん。」

「氷川くん・・・。」

「あなた、身体は。」

「僕の身体は大丈夫です。一緒に闘いましょう。」

「駄目よ。」

「あなたが何と言おうと闘います。」

その氷川誠の、口調は、今まで見たことのないほど、強いものであった。

「信じてたわ。」

「おっと、俺達も忘れないで下さいよ。」

後ろから2台のバイクが到着した。津上翔一と葦原涼である。

「シブトイニンゲンドモ。」

二人は、バイクをおり、変身の構えをとる。

「変身!!」

掛け声とともに、葦原涼はエクシードギルスに変化し、そして、津上翔一は、アギトバーニングフォームに変身した。

アギトは拳から炎を出しながら、エルロードに突進していく。そして、跳ね返そうとするエルロードにすかさず、拳をいれる。

「何!?」

初めて、驚愕の声をあげるエルロード。そのまま、アギトは、力づくでエルロードを持ち上げるが、エルロードはスルリと宙を飛んだ。その頭上をエクシードヒールクロウが襲う。

が、僅かに外れ、エルロードは着地。そこを待っていたのが、氷川誠と小沢澄子のGX−05の乱者であった。それも何とか、はじくが、エルロードは明らかに揺らいでいた。

そして、エルロードは、手から炎を放つ。炎はアギトをがんじがらめにするが、ギルスの触手で断ち切られる。アギトの身体から蒸気が出る。

「コンナニ、ニンゲンドモニチカラガアロウトハ。」

「そうよ。言った筈よ。最後に勝つのは人間よ。行くわよ。皆。」

小沢澄子の声とともに、アギトは胸とベルトが光を放ち、最終形態であるシャイニングフォームに変形し、神々しいまでの光を放つ。

「うぉぉぉ!!!」

続いて雄たけびをあげながら、エクシードギルスの触手が伸び、エルロードを襲う。

エルロードは焦りを見せたものの、これをかわす。

すかさず、エルロードを捕らえたのは、鋭い光を放ちながら、アギトのシャイニングライダーキック。

ダメージはかなりのものであった。更なる、大きな叫びをあげながら、ギルスが、その頭上から、エクシードヒールクロウを振り下ろす。

「今よ。氷川くん。」

「はい、小沢さん。」

「GX−05アタッシュモード。」

二人は同時に声を出し、今度はGX−05を確実に命中させた。

そして・・・。

ドドーン!!!

大きな爆発音が起り、白い煙が当たりを立ち込めた。しかし、エルロードは消えてはなかった。

「ナゼ、オマエタチハ、脆弱ナクセニココマデツヨクナレル。」

「人間にはね、絆があるからよ。」

「キズナ。」

「そう、絆。この絆がある限り、人間は強くあり続けるわ。」

小沢澄子は、そう言い放った。

「ソウセイシュハダカラオマエタチヲホロボサナカッタノカ・・・。」

「創世主だか何だか知らないけど、人間はこの絆がある限り、絶対に勝ち続けるわ。」

「ナラバ、ワタシモ、ミマモルトシヨウ、ニンゲンガソコマデツヨイカイナカヲ。ソウセイシュトトモニ。」

「ワタシハイツデモ、ソウセイシュノソバニイル。」

そう、言うと、エルロードは姿を消した。

8.それぞれのエピローグ〜小沢澄子と氷川誠〜

あれから数日。火事は、消防隊員の手によってではなく、自然に消え、森の付近住んでいた、住民は我が家に無事戻っていった。

それから、氷川誠は、本人の希望で、刑事課に配属が決定した。そして、尾室隆弘は、新たにできたG5ユニットの主任に任命された。そして、小沢澄子は、辞表を出した。

「小沢さん、本当に辞められるんですね・・・。」

「まぁね。でも、最後の闘い、忘れないわ。」

「僕もです。小沢さんと闘ったこと、一生忘れません。あの闘いを胸に、そして、小沢さんの強い心を支えに、生きて行こうと思います。」

「しかし、何故、小沢さん、もう一体G3−Xを開発されてたんですか?」

「いっ、いざと言う時のためよ。」

そう言う小沢澄子の顔は少し赤かった。本当の答えは別にあることを氷川誠は気付いたであろうか。

「小沢さん、本当にありがとうございました。」

「こちらこそ、今までありがとう。また会えるといいわね。」

「会えます。会いたいと思えば、会えます。」

氷川誠は少し強い口調で言った。

「そうね。じゃあ、見送りはいいわ。だって、また会えるでしょ。そのために、休みなってとったら許さないから。上司として最後のお説教。」

「小沢さん・・・。」

氷川誠の目から熱いものがこみあげてきた。

「今まで、ありがとうございました。小沢さんと闘ったこと、絶対に忘れません。」

9.それぞれのエピローグ〜津上翔一〜

「翔一君、今日はお仕事、お休みなんでしょ。」

「まぁね。」

風谷真魚は、津上翔一のもとをたずねた。

「今日は、一杯、翔一君の手料理を食べさせてもらうからね。」

「任せといて。かなり、腕も上げたから、期待してて。」

すると、津上翔一の顔は急に真剣になった。

「ごめん。今回は、真魚ちゃんに心配ばかりかけて。」

「そうだよ。すっごく心配したんだよ。翔一君が・・・。」

風谷真魚は何かが込み上げたらしく、涙もろくなっていた。

「真魚ちゃん?」

「嬉しくて、翔一君が無事帰ってくれて。」

「当然だよ。皆の居場所を守るんだったら、自分の居場所も守らないとね。」

「そういうこと。」

そう言って、風谷真魚は、涙を拭い、明るく笑った。

「よし、ご馳走、作るぞ。」

「やったー。」

風谷真魚は、これからも津上翔一を心から信じていて良かったと思った。そして、これからも、津上翔一を信じよう、そう思った。

10.それぞれのエピローグ〜葦原涼〜

「帰ったか、涼。」

「はい。」

「もう、涼ちゃん心配したのよ。一杯事件が起っている東京なんかに行って。」

バイク屋のおかみは半泣き状態であった。

「涼、何だかまた一段とでっかくなったな。」

バイク屋の主人は、満足そうに、豪快な笑いをたてた。

「これからも、お世話になります。」

「ああ、しっかり頑張ってくれ。」

涼は、心から幸せを噛み締めていた。普通に生きて行くことの素晴らしさを、そして、全てを失った自分にも、生きる場所があるとくことの幸福感を。そして、思った。これからも、この場所を守りたいと。