(kizuna)
未確認生命体との一つの闘いが終りを告げた。
「やりましたよ。一条さん。」
クウガの変身を解いた五代はいつものように親指を立て、一条に向かって、笑った。
「ああ。」
一条も静かに笑い返す。そして、五代の方へ向かって歩く。その、笑みを残したまま。
が、その時だった。
バタン。
大きな音を立てて、一条はその場に倒れ込んだ。
「一条さん。」
五代の笑顔は消え、必死の様相で一条に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「一条さん。しっかりして下さい。」
五代は一条の額に手を当てた。
「ひどい熱だ・・。」
一条は、すぐに病院に運ばれ、椿の診察を受けた。
「椿さん、一条さんは、一条さん、どうなんですか!」
いつもにない、五代の必死な様相に少し驚く椿。
「ああ、過労だよ。2、3日休めば治るから。安心しろ。」
「良かった。」
椿の答えを聞いて、胸を撫で下ろす、五代。
「しかし、一条の奴、働きすぎなんじゃないのか。」
「はい、一条さん、昨日も、報告書や色々な仕事で一睡もしてないって言ってました。」
五代は、少し思いつめた表情でそう、言った。
「そうか。あいつ、一生懸命なのはいいが、昔から自分の身体は労らない奴だったからな・・。」
「すみません。俺がついていながら・・。」
「お前の所為じゃないさ。」
「とにかく俺、一条さんのところに行ってきます。一条さんについててあげないと。」
「ああ、そうしてやってくれ。」
五代は診察室を出て、一条のいる病室に向かった。
「俺が、もっと強かったら・・。」
自分がもっと強くなっていたなら、自分をサポートする一条は倒れなかったのではないのか。五代はそんなことを考えていた。
「俺が、もっと・・。」
今ほど、強くなりたいと願ったことがあっただろうか。以前も、五代は強くなりたいと願ったが、それはその思いよりもはるかに強いものであった。
「失礼します。」
五代は一条の眠る病室に入る。
「五代か。」
「一条さん・・。」
唖然としている五代を一条はいつものように静かな笑みを浮かべ見つめた。
「すみません。俺が、もっと強くなってれば。一条さんがこんな目に遭わなくて良かったかもしれないのに。」
「何言ってるんだ。お前らしくないぞ。」
そう言う一条の口調は穏やかだった。
「でも、俺・・。」
「お前は十分頑張っている。それは俺が一番よく知っている。」
「一条さん・・。」
「だから、そんな顔はしないでくれ。それに体を壊したのは俺の責任だ。」
「そんなことないです。一条さんは悪くないです。ほんと、全然。」
「ありがとう。」
五代の口調に思わず笑みがこぼれる一条。
「でも、俺、もっと強くなります。前から思ってたことだけど、もっと思うようになったんです。一条さんに楽させてあげます。」
「俺はいつでも楽をさせてもらっているよ。お前の方が無茶をしているくらいだ。今日倒れたのだって、ただの疲労だ。お前はもっとひどい怪我をしたことだってあるじゃないか。」
「俺は再生能力ありますから大丈夫ですよ。それより俺は一条さんが心配です。だから、無理しないで下さい。俺、思うんですけど、一条さんがいなかったら、クウガになって闘うことに耐えられたか分からないんです。」
「そうか?お前は十分強いと思うが。」
「そんなことないです。一条さんがいるから今の俺があるって、俺、分かってますから。」
五代の口調は次第に強くなっていった。五代も本当はいつ、自分が闘う為だけの身体になってしまうかもしれないことに対して恐怖を感じないわけではなかった。だが、一条がいるからこそ、自分の心は人間であれるのだと、思っていた。そして、その存在がある限り自分は人間であり続けることができる自信すらあった。それほどまで一条の存在は五代にとって大きなものであったのだ。
そして一条もまた、五代が自分のことをそこまで、思い、心配していたことを、一条は改めて感じた。それがどんなに嬉しかったか。一条は、初め、五代のことをはねつけてしまっていた。五代が民間人にも関わらず何故、危険を冒してまで闘うのか、全く理解できなかった。が、今となっては、一条はその理由が少し分かった気がしていた。今まで、忠実に任務を遂行することばかりしか念頭になかった自分を五代の存在は変えていった。五大から多くのものを与えられた。人を思うことの大切さ、人の為に命懸けになる尊さ、そして、生きることを素晴らしいと思うこと。五代は身を持って、それを自分に教えてくれ、かけがえのないものをたくさん自分にくれた。だから、以前、椿から、五代の心臓が停止してしまったことを聞かされた時は胸が張り裂けんばかりの痛みを感じたのも事実だった。
(俺は、ここまで五代のことを・・。そして奴も・・。)
「そうだ。一条さん、退院したら、好きな食べ物言って下さい。俺、何でも作りますから。」
五代は急に思い付いたように言った。
「そうか、じゃあ、思いっきり豪華なものを食べさせてもらわないとな。」
そう言って一条は笑う。
「はい、何でも任せて下さい。ポレポレ特製の最高のご馳走、作りますから。」
そして、五代はいきなり、真剣な顔になった。
「一条さん、絶対、無理しないで下さい。一条さんが辛い時は俺が一条さんの分まで頑張れますから。俺、一条さんが辛いのが一番辛いんです。だから。」
「ああ、分かった。無理しない。だから、お前も約束してくれ。お前も無理はしないと。」
「はい、俺はいつでも無理してませんから。」
「そうか?やたら病院に運ばれ、椿に診てもらっているのはどこの誰だか。」
「そ、それは・・。」
思わず苦笑する五代。
「ハハ、俺一条さんに一本取られました。」
二人は笑った。
この時、二人は今まで以上に互いを大切なパートナーとして受け止め、その見えない絆はより一層深まるのを感じたのは言うまでもない。そして、二人はこの強い絆をもって、より、一層激しくなる闘いに身を投じることになるのだ。