魔獣ダイタニクスを倒し、ヒュウガが再び五人の前から姿を消して、幾日かが過ぎていた。
五人は、来るべき、ゼイハブ達との闘いに備え、アラクモダケで訓練に励んでいた。
「星獣剣!」
「エイッ!」
「ヤァッ!」
五人の気迫のこもった掛け声とともに、星獣剣がぶつかり合う、金属音がアラクモダケに響いていた。
サヤは、ヒカルと対峙していた。
「行くよっ。ヒカルっ。」
「望む所だっ。」
「ハァー!!」
サヤは、気合とともに、ヒカルに向かって行った。
ヒカルも同時に、サヤに向かい走る。
「エイッ!」
サヤはすかさず、ヒカルに足払いを仕掛ける。それをギリギリよける、ヒカル。二人とも、互角、お互い譲らなかった。
そして、向こうでも、リョウマ、ハヤテ、ゴウキの気迫のこもった訓練が繰り広げられていた。
サヤは、三人をチラリと見て言った。
「私達も負けてられないよ。ヒカル。」
「ああ。行くぜっ。」
二人は、同時に飛び、星獣剣を交える。
その時だった。サヤの目に、ある光景が飛び込んでくる。
「あれは・・・。」
サヤは宙を舞いながら、驚愕した。そして、そのまま、剣を引き、着地する。
「サヤ、どうしたんだよ。いきなり、剣を引いたりして。」
「ごめん。ちょっと、待ってて。」
そう言って、サヤは、先程、目をやった方向に走って行く。
「おい、サヤ、どこへ行っているんだ?」
サヤの行動に気付いた、リョウマ、ハヤテ、ゴウキがヒカルのところへ寄ってくる。
「さぁ、なぁ・・・。」
ヒカルは不思議そうな顔をした。
一方サヤは・・・。
(あれは、確かに・・・。)
(確かに、ヒュウガだった・・・。)
そう、サヤが飛んだ時に、目にした、光景は、ブクラテスとヒュウガが歩いているものだった。サヤは先程目にした光景を頼りに走った。
(ヒュウガ・・・。)
サヤは、ヒュウガが五人とは、別の方向で、ゼイハブを倒し、星を守ろうとしているのは、分かる。そして、ヒュウガを信じて疑ったことはなく、今まで、孤独に耐えながら頑張っている、ヒュウガの為にも、自分も耐えなければならない、ゼイハブを倒すことを考えなければならないと、自分に言い聞かせ、必死で訓練に励んできたものだ。しかし、実際、ヒュウガを目にしてしまったサヤはいてもたってもいられなくなって、思わず、ヒュウガを追っていた。
(ヒュウガ。)
(ヒュウガ。)
”ヒュウガに会いたい”
今まで抑えていた感情が湧きあがってくる。一瞬姿を目にしただけで、こんなになってしまう自分に驚愕しながらも、サヤは走り続けた。
そして、ついに、一つの岩陰でヒュウガとブクラテスの話声が聞こえるのを突き止めた。
「大分ナイトアックスを使いこなすようになったが、まだまだだ。お前には、必ず、わしの復讐を遂げてもらわなければ困るからな。そう、ゴウタウラスの為にもな。」
「ああ、分かってる。」
サヤは岩陰の中を思わず覗いてしまう。
(ヒュウガが、ここに・・・。)
確かに、岩陰の中には、ヒュウガとブクラテスが焚き火を囲んで座っていた。
(ヒュウガ・・・。)
その姿を間近すると、サヤの思いはさらに強くなっていく。
(ヒュウガを、連れ戻したい。)
(また、ヒュウガといたい。)
ガタン!
気が付いたら、そばにある、木の枝を踏み、音を立てていた。
「何やつじゃ。」
ブクラテスがサヤがいる方向を向いた。
「ヒュウガ・・・。」
思わず、サヤはヒュウガの名前を口走っていた。
ヒュウガも振り向く。
「サヤ・・・。」
「お前が、何故、ここに・・・?」
「ヒュウガに、会いたかったから・・・。さっき、訓練してて、ヒュウガの姿が目に入って、いてもたってもいられなくて・・・。」
「帰るんだ。」
ヒュウガは突き放すように言った。
「ヒュウガ・・・。」
ヒュウガの物言いにサヤは愕然とした。ヒュウガがこのくらい言うことは予想はできていた筈なのに・・・。
「黒騎士、これはどういうことじゃ?」
ブクラテスが忌々しげに、ヒュウガを睨み付けた。
「大丈夫だ。すぐに、追い返す。」
「さぁ、行くんだ。サヤ。」
「いやっ。」
思わず、サヤは言い、その口を手で抑えた。そんなことを言うつもりはなかった。ヒュウガの邪魔をしたくなかった。しかし、自分でも思いがけなく出た言葉は・・・。
(ヒュウガに迷惑を掛けてしまう・・・。)
サヤは自分の理性のない行動を後悔し、恥じた。
「いい加減にしろ。サヤ。」
ヒュウガは少しキツめにサヤの手首を掴んだ。
「ブクラテス。こいつの始末は俺に任せてはくれないか?」
「お前がそこまで言うならいいじゃろう。」
「だが、ゴウタウラスの命が惜しかったら、お前のすべきことは、分かってるじゃろうな。もし、この娘と逃げようなどという気を起こしたら、全てが終りじゃということはお前が一番分かっとる筈じゃ。」
「ああ。」
ヒュウガは低く答えた。
「いいじゃろう。」
ブクラテスは、そう言うと、岩陰を出ていた。そう、ブクラテスには、自信があった。ヒュウガを繋ぎ止める自信が。それは、ゴウタウラス以外でもヒュウガが、自分と組む事で、ゼイハブを倒す最後の賭けに出ているのだから。
「ヒュウガ・・・。」
手首を掴まれたまま、サヤはヒュウガを見た。
ヒュウガは無表情のままだった。
「ヒュウガ、ごめん・・・。」
その時だった。
ドスンッ!
サヤの腹部に衝撃が走る。
そのまま、サヤはその場に、意識を失った。
ヒュウガがサヤの腹部に拳を入れたのだ。失神する程度に。
そして、ヒュウガは、サヤを両腕で抱え上げる。
そして、その岩陰から、なるべく、遠くまで歩いて、その場に、サヤを横たえ、その場に、肩膝をつき、しゃがむ。
「サヤ、すまない。今、おまえ達の前に俺が現れれば、俺は敵でしかなくなるんだ。」
そう言って、軽く、気を失ったサヤの髪の毛に触れた。
「俺は、必ず、ゼイハブを倒す。だから、おまえ達も、頑張るんだ。」
そして、ヒュウガは立ち上がり、そのまま、背を向け、あの、岩陰がある方へ戻って行った。
それから、少しして、サヤは目を覚ました。
「ヒュウガ・・・。」
気を失っている間、夢の中で感じた手の感触が生々しく残る。
温かい、感触だった。
「ヒュウガ・・・。」
その時、サヤは改めて確信。例え、アースを失っても、ヒュウガは全く変わっていないと。そして、そんなヒュウガの為にも、自分は、頑張ろうと、新たなる決意を固めたのであった。