(第1話:プロポーズ)

「氷川君。」

いつもの激の入った声が飛んでくる。小沢さんだ。

「ハイッ。」

「私のこと、嫌い?」

「は?」

唐突な質問に僕は困惑する。

「いえ、嫌いではありませんが・・。」

「だったら、その・・す、きとか・・。」

小沢さんらしくない言い方だった。いつもはっきりとモノを言う小沢さんらしくなく、急に声が小さくなる。

「あの、よく、分からなくて・・。」

「私に恥をかかせる気?」

いきなり怪訝な顔になる小沢さん。

僕は何故彼女の怪訝の原因がいまいち理解できなかった。

「いえ・・。」

「だから、好きかって聞いてんのよ。」

「えっ!?」

事情は呑み込めたのだが、その事情に驚く。

(それって・・。もしかして・・。)

「あの、小沢さん、それは、その・・。」

「そうよ、あなたが思っている通りよ。」

小沢さんは顔を真っ赤にしてプイと横を向いた。

「あの、私は・・。」

「いい、ハイかイイエかで答えなさい。」

「ハイッ。」

「ということはOKなのね。結婚・・。」

「いえ、それは、その・・。」

「何?あなた、私が嫌いなわけ?」

「と、とんでもないです。」

僕は慌てて首を振る。

確かに小沢さんの事は好きだ。強くて、言い方が少々きついが根は優しい女性で、僕は彼女に何度も救われている。僕の方も好意抱いてはいたのだが、彼女はIQ180を超える天才科学者である。僕と釣り合う筈がないであろうと、あきらめていた。それだけに、贅沢すぎる展開だった。

しかし、少々急すぎる展開と、彼女のワイルドすぎる告白に僕は混乱していた。

まさか、彼女がいつもの「出動よ。」のノリでせまってくるとは思ってもなかった。

考えられない事もないが・・。

「ちょっと、突然なんで・・。その・・。」

僕は改めて息をとり直す。

「で、どうなの?」

「その、僕も、その・・。」

「私にこれだけ言わせといて何ではっきり返事ができないわけ?」

「その、それは・・。」

僕はこういうことに限らず小心者で特にこういう場面には弱くて・・。

それでも、自分は小沢さんが好きなんだろうと・・。混乱する頭を整理しながら言葉を引き出していく。

今まで見た小沢さんの笑顔、元気付けられた時・・。

そう、僕は小沢さんが好きだったのだ。

その彼女が不器用ながらも僕のような人間に好意を抱いて告白してくれているのだ。

「僕も、その、あなたが、好き、です・・。」

やっと出せた一言・・。

「じゃ、成立ね。」

小沢さんはニッコリ笑った。

あまりに急すぎる結婚までの展開・・。

正直自分でも驚いている・・。

僕達は、とりあえず、結婚をする約束をした、らしい。