「そっか、耕一郎も行くんだね。」

「ああ。」

大学のカフェテラス。午後からの講義のベルがなり、席を立つ学生が多い中、千里と耕一郎が少し隅の方の木の下のテーブルに向き合って座っていた。テーブルには、紙カップが二つ。二人は、今日の講義は午前で終りだったのだが、昼食は学食でとった。たまたま、学食で居合わせた二人。学食を出て、下校しようとする千里を止めたのは耕一郎の方であった。

千里と耕一郎が入学して、三ヶ月経った、6月。昨日まで雨が降っていた。雨続きの中で、久しぶりに晴れた。気温も、熱くもなく寒くもなく、心地よい風が、カフェテラスを吹いていた。千里の短く切られた髪の毛が僅かにそよぐ。

耕一郎が千里に切り出した話題は、これから一年間、休学して、海外にボランティアに行くというものであった。

「実はネジレジアを倒した後、考えてたんだ。今、メガレンジャーとしてネジレジアと戦う必要がなくなった。それで、終わりなのか。もう、俺が人の為にできることは何もないのかってね。そして、行き着いた答えは、メガレンジャーとしてではなく、遠藤耕一郎として何ができるかってこと。」

「遠藤、耕一郎、として?」

「ああ。」

耕一郎は頷く。

「弁護士を目指すのもその一つかもしれない。しかし、今の俺には、まだまだこれからもっと勉強して、司法試験にも合格しなければならない。勿論、やるからには、絶対、弁護士目指して必死で勉強するつもりだ。しかし、その前に、俺がやるべきこと、今の俺にしかできないことってあると思う。だから、俺はそれを探しに、いや、俺にできると信じて、志願したんだ。」

耕一郎の真剣な眼差しに千里は小さく笑った。

それに気付いた耕一郎は、

「俺、おかしなこと、言ってるか?」

そう言って、千里の顔を不安げに見た。

「違うって。やっぱり耕一郎だなぁって。」

「やっぱり、俺?」

そして、今度は、千里は大きく笑って言った。

「私、耕一郎のそんなとこ、好きだよ。」

「好き・・・。?」

耕一郎は突然の千里の言葉に驚き、まじまじと千里を見た。

「何てね。」

そう言って千里は小さく舌を出した。

「耕一郎、今赤くなったでしょ?」

からかうように耕一郎を見る千里。

「そっ、そんなことっ。」

顔を真っ赤にして、むきになる耕一郎。

「でも、行くんだったら、しっかりやってきなよ。まぁ、くそ真面目な耕一郎のことだから、いつでも、全力投球だろうけどね。」

「まぁな。俺は、いつだった、全力投球だ。」

その後、千里が、遠慮がちに、口を開く。

「でも・・・。」

その後の千里の言葉が続かなく、二人の間に沈黙が走る。

その沈黙を破ったのは、耕一郎の方であった。

「まぁ、でかいこと言ったが、一介の学生過ぎない。大きなことはできないだろうがな。」

そう言って、苦笑する、耕一郎。

「千里?」

耕一郎が千里の顔を覗きこむ。

一瞬、千里の目元が光ったように見えた。

そんな千里に耕一郎は、思わず、ドキリとした。そして、思わず、自分が海外へ行くという決心が揺らぎかける。そんな自分に耕一郎は戸惑った。

それから・・・。

「なぁに、らしくないこと言ってんのっ。」

そう言って、千里は、耕一郎の肩を思いっきり叩く。

「てっ!」

「リーダーらしくないぞっ。」

「そっ、そうか?」

少しヒリヒリする肩を抑え、耕一郎は言う。

「そうだよ。いっつも、俺について来いっみたいな奴じゃん。あんたはさ。」

「そういえば・・・。らしく、ないかもな・・・。」

「そうだなっ。らしくないっ。」

「そうだよっ。」

「だなっ。よし、俺はやってやる。できることをな。」

そして、もう一度、千里は耕一郎の肩を叩く。

「てっ!」

「がんばれっ!リーダーっ!」

「ああ。」

耕一郎は、千里に笑顔で答える。

「よし、今日は、遠藤耕一郎は、城ヶ崎千里にチョコレートパフェをおごること。」

「何でそうなるんだよ。」

「何でもっ。行こ、行こ。」

そう言って、千里は、颯爽と席を立った。耕一郎はよく分からないという表情だったが、何故か、そんな千里がやけに可愛くて、思わず、後ろから、見とれてしまう自分がいることに気付いた。

「あのっ、千里・・・。」

「何?」

千里は、きょとんとして、耕一郎の方を振り向いた。

「いや、何でもない・・・。」

「そう?」

耕一郎は、聞こうとしたのだが、辞めた。千里が、”でも・・・。”の後、何を言おうとしたのか。そして、千里が自分のことをどう、思っているのか、思わず知りたくなったのだ。しかし、それは、聞くべきではないと、思った。今の自分の為にも、そして、千里の為にも。

耕一郎は思った。

(今は、これでいいんだ。)