「嫌・・。」

シャドームーンの脳裏によぎった杏子の声。妹の拒絶意味する台詞だった。

(何だというのだ。所詮、小娘の戯言ではないか。)

シャドームーンはそう、自分に言い聞かせた。

しかし、そうすればするほど、杏子のあの言葉が頭に響いた。そして、杏子の脅えた瞳が頭を駆け巡る。

(シャドームーン、お前は次期創世王ではないのか。小娘の戯言で何を動揺しているのだ。)

シャドームーンは自分自身を叱咤する。

そんなことをした所で、意味がないことは承知だった。

しかし、他に方法があるというのか。

(私は本当に創世王の座を望んでいるのか。)

不意にそんな思考が頭をよぎる。

(私はどうしてしまったというのだ・・。)

秋月杏子。秋月信彦の妹。

「我が名はシャドームーン。」

シャドームーンは不安を振り払うごとく、言った。

「シャドームーン様、如何なされましたか?」

ダロムが不思議に思い、訊ねる。

「何でもない。一人になる。おまえ達、下がれ。」

自分の中に駆け巡る、訳の分からない動揺を隠しつつ、シャドームーンは3人の大怪人に命令する。

シャドームーンに従い、玉座のある部屋を出ていく、3人の大怪人。

「一体あの小娘が何だというのだ。一体・・。」

微かに頭に残る、妹の笑顔。

「やめろ。やめろ。私は信彦ではない。シャドームーンだ。次期創世王だ。」

シャドームーンはそう叫び、サターンサーベルを手にとり、一振した。そうすることで、今の自分にとって邪魔な映像を消そうとした。しかし、そうすれば、するほど、逆効果であった。

(私は・・。)

その時だった。玉座が揺れ始めた。その震動はしだいに大きくなり、基地のがれきが崩れてくる。

(創世王・・。)

それは創世王の言葉に代わる震動であった。

「私の心が弱いというのか。創世王。」

「貴様は黙っていろ。私は次期創世王だ。」

シャドームーンは天に向かって叫ぶ。

「何をするのだ。創世王。」

気を失っていくシャドームーンの意識。

(創世王・・。)

どのくらい、時間がたったのか、分からなかった。

気がつくと、シャドームーンはいつもの玉座に立っていた。

「私は。何をしていたのだ。」

シャドームーンは先程の記憶を呼び覚まそうとしたが、何かがそれを妨げるのを感じた。

「私は。」

「我が名はシャドームーン。」

「我が名はシャドームーン。」

自分がここにいることを確固たるものにしたかった。不安を全て掻き消さなければならなかった。

「私に記憶など要らぬ。」

「私は次期創世王なのだから。」

シャドームーンは高く笑った。

(そうだ、私は人ではないのだ。)

(私は全てを支配する者なのだから。)

シャドームーンは、側に控えていた侍女怪人の一人に言いつけた。

「大怪人供を呼ぶのだ。次なる作戦を発動する。」

そして、大きく、サタンサーベルを振りかざした。

(そうだ。私はこの手でブラックサンを倒すのだ。そして、生けとし生ける者の王になるのだ。)

創世王はシャドームーンに何を施したのかは誰にも分からない。

それは、シャドームーン自身にも分からない。

だが、シャドームーンはこれだけは分かっていた。

(創世王は私に次期創世王に据えようとしている。)

シャドームーンは、もう一度、天に向かって高く笑った。

その声に迷いはなかった。

そう、その時は。