シャドームーンは南光太郎を抹殺した。

「私は勝ったのだ。」

シャドームーンは自分に確認するように呟いた。

南光太郎は、死に、勝利は決定的だった。

にも関わらず、実感が湧かなかった。

勝利の実感よりも、徐々に込み上げてくる、虚しさ。

脳裏のよぎる、杏子の涙。そして、自分には、もはや向けられていない、その顔。

シャドームーンは最初から分かっていた。例え、南光太郎を抹殺したところで、決して手に入れることのできないものがあるということを。分かっていながら破壊することしかできなかった。

「俺は創世王だ。」

(違う。お前は、半端だ。)

(お前は、善にもなりきれない。そして悪にも。)

「お前は死ぬがいい。」

シャドームーンは誰に言うでもなくその言葉を吐いた。

二人の侍女怪人が不思議そうにシャドームーンを見る。

「下がれ。」

シャドームーンは、動揺を隠しながら、二人の侍女怪人に命じた。

侍女怪人は、僅かな声を漏らし、神殿の玉座を後にした。

(お前は、何故、奴のキングストーンを奪わなかったのだ。)

「貴様には関係のないことだ。」

(言っただろう。俺はお前だと。)

「私に口を出すな。私は私だ。それとも、お前は創世王の・・・。」

(俺は、創世王の意志でお前に話し掛けているのはない。俺は、お前だ・・・。」

「お前は、亡霊か。」

声はひたすら、シャドームーンの脳裏に響き渡る。

(そうだ。俺は、亡霊だ。秋月信彦の。)

(俺とお前は、南光太郎を羨んでいる。)

「違う。私は、あのような弱さなどいらぬ。」

(そんなに大切か。妹が。死しても南光太郎をお前は憎んでいる。)

(それは、死しても、杏子は南光太郎のものだからだ。)

「黙れ。」

そう、例え、南光太郎を抹殺しても決して手に入れることができない。宇宙を手に入れる方が、どんなにか、た易いことだろうか。シャドームーンは、込み上げる、感情を抹殺しようとしていた。秋月信彦を抹殺しようとしていた。邪魔なのだ。秋月信彦こそ、最も邪魔な存在だった。妹を愛してしまった、兄。シャドームーンは認めたくなかった。自分も同じものを愛していることを。

不意に、目の前に現れる、幻影。

それは、秋月信彦の姿をしていた。秋月信彦は笑っていた。それは、銀色のバリアで覆われた心すら見透かすかのような不気味な笑みだった

「消えろ。」

シャドームーンは、秋月信彦に対し、サタンサーベルを振り下ろした。

しかし、サタンサーベルは、秋月信彦の身体をすり抜けて、虚しく空を切った。

「俺は、死なない。お前が死なない限り。」

「私は次期創世王だ。」

「同時に、秋月信彦だ。」

今度は、脳裏と同じ声をしていたにも関わらず、明確な響きを持った声であった。

「お前は、自分の甘さをいずれ後悔するだろう。」

そう、言い残し、幻影は消えた。

「私は後悔など、せぬ。」

「私に手に入れられぬものなど、ありはせぬ。」

シャドームーンは、自分に言い聞かせるように、言った。