(強戦士〜強さに魅せられた女戦士マリバロン〜)
”鬼女”
かつて、マリバロンはそう呼ばれた。
彼女の家は、クライシス帝国の中でも、皇帝一族に長きに渡り武の部門で仕えてきた名門だった。
しかし、彼女の父親の代からである。武に長けた者が減り始めた。彼女の父親でさえ、対して、武に長けているわけではないので、多くの奴隷を皇帝に貢ぐことで、皇帝から武勲を授かろうと躍起になっていた。彼女は、そんな父親に憂えていた。何故、武の訓練を積もうとしないのか。武勲とは、強さの証明ではないのか。貢ぐ事は強さではない。マリバロンは物心つき始めた頃から、父親を憎んだ。
マリバロンは、女ばかり三人姉妹の末の娘であった。父親は、長女を皇帝の側室に、そして、次女、三女であるマリバロンを皇帝の側室に据え、皇帝とさらなる繋がりを持とうとした。そして、彼女の家庭では、クライシス人の貴族としての、女としてのエリート教育にも力を入れてきた。
しかし、そんな家の意志を無視するかのように、マリバロンは、父親の目を憚っては、クライシス兵の訓練所で大人の男に混じって、厳しい訓練を自主的に受け、兵法を学んだ。そして、妖術を身につける為に、祖母である、百目婆のもとで修行を積んでいた。そんな彼女を見る目は冷ややかだった。上流階級の娘に生まれながら、何故、そのようなことを、するのか。父親も彼女だけとは、口はきかず、時折顔を合わせれば、蔑むような台詞を吐くだけであった。
「お前に、家の名を名乗る資格などない。」
二人の姉ですら、彼女に冷たかった。しかし、マリバロンも、家に利用される為に躍起になって、淑女教育を受ける姉を軽蔑していた。
おまえ達は、所詮”女”を利用されているに過ぎないのだと。
そして、彼女の運命が大きく回る時が来た。
マリバロンが、遂に父親に牙を向いた。
マリバロンは父親に果たし状を送ったのだ。
無論、父親は、そのような果たし状など、相手にはしなかった。
使いの者から、父親が果たし状を破いたと聞き、マリバロンは、短剣を片手に、潜ませ、父親の部屋に出向いた。
彼女は、怒りに震えながらも、冷ややかな態度で父親の前に立ちはだかった。マリバロンの心内は、父の軟弱さを怒り、そして、父の浅はかさを軽蔑していた。
「このような小娘の果たし合いに怖じ気付きなさったのか。父上がここまで臆病だったとは。」
「何を言う。お前の戯れ言に付き合う程私は、暇ではないのだ。失せろ。お前には、もはや、皇帝一家と結びつく価値すらないではないか。世間はどう言っておるか。あのような、変人娘は、皇帝陛下の側室になれようかとな。」
彼女を見て、せせら笑う父親。
父親がマリバロンに背を向けたその瞬間だった。
短剣を振り上げ、真っ直ぐに父親の背に突き立てた。
吹き出る血。
「ぎゃぁぁぁ。」
醜い形相でうめく父親は、兵士を呼んだ。
父親は、数名の従者によって安全な場所に運び込まれ、かわりに、父親直属の、クライシス帝国でも屈強の兵士が十数人かけつけた。マリバロンは、その兵士達にも牙を向けた。
相手は、屈強の男が銃数人、しかも、長剣を持っている。対して、マリバロンは女一人。しかも武器は短剣。あまりにも不利すぎる、状況だった。
しかし、マリバロンは、何故か、口を歪めて笑っていた。
その笑いに、十数人の兵士は少したじろぐ。しかし、相手は、女一人。十数人は、彼女を取り押さえるべく、一斉にかかっていった。
マリバロンは、今まで培った、剣術、兵法、知能、あらゆる軍人としての武器を使いこなし、兵士達を地に伏せていった。
女性ならではの軽い身のこなしは、兵士達を惑わし、その隙に仕留める。迷いのない、剣は、確実に兵士の息の根を止めていった。
しかし、状況はあまりにも不利で、ついに、マリバロンは力尽き、数人の兵士を残し、彼女は、その場に血を吐いて倒れた。
それから、残った数人の兵士によって、マリバロンは牢に入れられた。この日から、彼女は、父親に剣を上げ、兵士を殺した鬼娘と呼ばれ、家をはじめ、噂を聞いた世間を恐れさせた。
数日後、マリバロンは裁判にかけられ、異次元空間への追放が決定した。異次元空間は、怪魔界で最も、忌み嫌われ、恐れられている空間で一度、その場所に辿り着くと、そこに住み付いている、あらゆる妖術を操る怪物に襲われ、死は確実と言われている場所であった。マリバロンに下された判決は、まさに、死の判決と等しいものであった。
しかし、マリバロンは、内心、ほくそ笑んだ。
(必ず、生き延びて見せる。そして、さらなる強さを身につけてやる。)
マリバロンはそう決意した。マリバロンは、この時から強さという欲求にさらに取り付かれるようになる。
それから、数万年の時が過ぎた。
マリバロンは、生きていた。
異次元空間で、臆を越える怪物共と闘い、それを、時には傷つき、そして、鬼畜の勢いで粉砕していった。そして、彼女は、戦いを繰り返す内に、1000の妖術を見に付け、強大な強さを手に入れていた。
しかし、彼女でも、勝てない怪物がいた。そう、異次元空間で、1000億年生き続けた。怪物。それは、あらゆる、クライシス人や怪物の魂を食い、強さを増幅させ、巨大で、ドロドロした不気味な肉体と、あまりに一つの空間をも簡単に呑みこむ力を持ちあわせていた。
無論、マリバロンは闘いを挑んだ。
しかし、結果は敗北だった。1000のどの妖術を使ってもきかなかった。そして、さんざん、傷を負わされ、遂に食われるかという瞬間であった。
どこからともなく、稲妻が怪物を直撃した。怪物は不気味な声でうめきながら、のたうち回った。かなりのダメージを受けたらしい。
「とどめだ。」
攻撃の主は、低く、抑揚の声で言うと、持っていた、杖のようなもので、怪物の頭をいとも簡単に落とした。
そして、怪物の頭は、少しうめくと、静かになった。
その様子をマリバロンは呆然と見ていた。
”強い”
あまりの、強さ。
自分が求めていた、強さ。
マリバロンは、その顔を見た。
この強き者は一体どんな顔をしているのか。心底、心を震わせたこの者は・・。
その顔は、黄金で、仮面のように無表情だった。しかし、その無表情さは、他者に、有無を言わせない、強さをそのものを感じる事ができた。
その黄金の仮面の男が口を開いた。
「どうだ。余とともに強き国を目指さぬか。」
「強き、国・・。」
「そうだ。お前は、強い。余は、お前の強き目が気に入った。ギラギラとしてその獣のような目が。どうだ。余について来ぬか。」
「お前は・・。」
「私は、ジャーク。」
黄金の仮面の男は、そう名乗った。
マリバロンは、確信した。この男とともに、歩めば、自分の求める強さが手に入る。
「しかし、余は、お前を女だとは思わぬ。」
その言葉に、マリバロンはニヤリと笑った。
「望む所だ。女など、とうに捨てている。私は鬼だ。」
それから、マリバロンは、ジャークがクライシス皇帝に仕える将軍だと知り、ジャークの計らいにより、異次元空間追放の刑に終りを告げ、その強さを見込まれ、ジャークから直に地球攻撃兵団の隊長に任命されたのであった。