(戦士の休息)

今日は一条薫の数少ない休日であった。

いつもの戦いの合間を縫って五代と一条は数少ない休日を楽しむことになった。それは五代の一方的な誘いに一条が渋々付き合う形ではあったが。

それでも一条は、内心悪くないと思うのであった。

「何か一条さんのスーツ以外のカッコ俺、初めて見るかも。」

「そうか?」

「たまにはいいっすよ。似合いますし。新鮮ですし。」

「で、一条さん、どこ行きます?」

「俺はどこでもいいが。お前は当てがあるのか?」

「実は、とっておきの場所があるんすよね。」

五代は得意げに笑う。

「コレはあまり誰にも教えたことはないんですけでど、行きます?俺、実は弁当作ってきたんすよ。」

「ああ。いいだろう。」

その答えに五代は親指を立てる。

「歩いてすぐですから。俺の秘密基地。」

歩いて10分くらいだった。

「ほら着きましたよ。」

そこは、自然の花が咲き、大きな木が一本立っている美しい景色が広がっていた。東京には数少ない生きた自然を思わせる場所といってよい所であった。

「すごいでしょ。この東京にもまだこんなところが残ってるんですよね。初めて見たとき、俺感動したんすよ。それ以来、ここ、俺の秘密基地。」

「そうだな・・。俺も、もう何年もこんな自然に触れてないな。」 「ほら、あそこが俺のとっておきの場所。あの木の下ですよ。」

五代と一条は木の下に向かって歩く。そして、その下に腰をかける。 秋も真っ盛りで気持ちの良い、風が二人を吹きさらす。天気も良く、暖かい太陽が木の下を照らした。 黄色の葉が風で落ち、二人の頭を撫でた。

「最高でしょ。ここ。夏は涼しいし、秋はほらこの通り。」

「ああ。」

一条は幸せそうに目を閉じる五代を見て微笑んだ。

「さぁて、お弁当食べましょう。」

そう言って持参の弁当を広げる五代。

「本当にここで食べるのか?」

「当たり前じゃいっすか。さあ、たくさん食べて下さいよ。」

言いながら五代は一条に皿と箸を渡す。 広げられた弁当は重箱二つにまとめられており、卵焼き、スパゲティ、チキン、おにぎり、サラダなど基本的なものではあったが、その盛り付けは流石に美しく、食欲をそそるものであった。

「どうです?ちなみにこの弁当もポレポレ特製っすよ。さぁ食べて下さいって。」

言いながら、五代は一条の皿におかずやおにぎりを置く。

「一条さん仕事大変なんすからたくさん食べた方がいいっすよ。」

「ああ。」

盛られた卵焼きを一条は口に運ぶ。

「どうですか?」

「ああ、うまい。」

そう言って一条は微笑した。

「やっぱり?かなり自身ありだったんすけどね。」

言いながら嬉々として親指を立てる五代。

「よし俺も。」

言いながら五代も卵焼きに箸をつける。

「うん、我がポレポレながらうまい。」

それから二人は五代の作った弁当の味を堪能した。

「ああ、食った。一条さんも食べてくれて俺、嬉しいっすよ。」

「ああ、うまかったからな。」

「しかし、何年ぶりだろうな。こんな所で食事をするのは。」

「俺は結構昼寝とかに来てますけどね。」

「良かったら、また来ませんか?一緒に。」

「ああ、そうしたいな。」

五代は一条を見て、笑って頷く。

「食べたあとは昼寝っと・・。」

その場に寝転ぶ五代。

「一条さん、たまには休息も必要ですよね。」

「そうだな・・。」

「五代、俺はここに来て、まだこの世界は美しいって改めて知ったよ。だから俺はこの場所を、人間を守りたいと思った。未確認生命体からな。」

「協力してくれるか?」

「守りたいのは俺も同じ。それに俺はどこまでも一条さんについていきますから。」

「ああ、頼りにしてる。」

そう言って一条もその場に寝転ぶ。

「五代・・?」 見ると五代がフラリと起き上がる。

「五代・・。」

「一条さ、ん・・。」

寝ぼけていたのだろう。そのまま一条に倒れこむ五代。

「五代、重い・・。」

気が付くと五代の唇が一条に重なっていた。

「おい・・。」

思わず赤くなる一条。 この状況にどうしてよいか戸惑ったが、とりあえず、五代の体を自分から離し、その場に寝かせてやる。

「全く、こいつは・・。」

無邪気な五代の寝顔を見て、一条はふわりと笑った。

そんな穏やかで、一時の戦士の休息。