(Storong Of Heart)

「お〜い、蓮。」

力の抜けるような声で俺を呼ぶ奴・・。

奴だ・・。麻倉葉。俺は、今シャーマンファイトの予選を終え、何故か奴の家に居る。

とりあえず、無視。

「蓮、蓮、蓮。」

「うるさいぞ!!」

「お前、暇そうだな。」

「暇ではない。」

「だって、何もしてないぞ。お前。」

「うるさい!俺は今、瞑想の修行をしているのだ。シャーマンのくせにそれも分からないのか。貴様は!」

「じゃ、おいらもっ。」

奴は俺のとなりにちょこんと座る。全く迷惑な奴だ。二人で仲良く瞑想なんぞできるか・・。

「あっち行け。」

「だって、あっちに行くと、おいら、アンナに怒られるしよ。今、機嫌がわりいんだ。」

とヘラヘラ笑う麻倉葉・・。全く、呆れてしまう。これで、シャーマンキングを目指そうというのだから。

「なぁ、ここにいさせてくれよ。ちゃんと修行するから。」

「だったら、しゃべるな。」

「ああ。」

(くか〜・・。)

いきなり奴は寝る。

「って、修行するんじゃなかったのか〜!!」

俺の声に起きた葉は、また、ユルイ笑いを見せる。

「ああ、わりい、わりい、何か、俺座るとすぐにねむっちまう癖があるんだ。」

「目障りだ!隣でユルユルと寝られていては。」

「わりい、わりい。」

相変わらず、ヘラヘラと笑う。

何で、この俺がこんな奴に振り回されているのだろうか・・。奴のユルサにもだが、奴のペースにはまっている自分自身にも呆れてしまう。

俺は、生まれてから今まで「復讐」、その二文字ばかり教え込まれていた。幼い頃から、憎しみを叩き込まれ、復讐することを教えられた。人に与えたり、人を愛することなど、教えられたことなどはなかった。俺も、それが普通だと思っていた。人を憎むことが当たり前になっていた。力さえあれば、どうにでもなると思い込んでいた。そして、憎しみさえも、その力の源の一つとして俺は利用した。

しかし、そんな俺が変わりつつあるのは、麻倉葉、奴との出会いだった。奴は、人を蹴落とすことを嫌った。奴は、奴の巫力を凌駕する俺の巫力をも風のように受け流す。その時、俺は、感じた。「復讐」という二文字にがんじがらめにされてしまっている俺と違い、奴は、何者にも囚われない、真の自由を手に入れているということ。俺は、奴に嫉妬していたに過ぎなかったのだ。何か、分からない、しかし、俺にはないものを持っている麻倉葉に。そうとは、気付かず俺は奴に敵意を抱いていた。その敵意すら、奴には通用しないことも分かっていながら。

「なぁ、貴様はどうしてそんなに自由でいられる。」

「えっ、おいらが自由に見えるか?あんなにこき使われているのに。」

「俺は真面目に聞いているんだ。いいからさっさと答えろ。」

「そうだなぁ〜。やっぱ、自分で楽でいたいって思うことが自由じゃないのか。」

”楽でいたいと思うことが自由”・・。

俺は、今まで、楽でいたいと思ったことがあったのか・・。いや、ない。そう言えば、楽になろうと思ったことなど一度もない。そんな考え方が甘いと育てられた俺は。

「俺も、自由になれるのか・・。」

「ああ、お前も自由になれるさ。お前が楽で、自由でいたいって思うだけで、自由になれる。」

「そう、なのか・・。」

奴が持っているものは絶対自分には手に入れることができないと思っていた。

”自由でいたい、楽でいたいと思うとが自由”・・。

ああ、そんな簡単なことに俺は気付かずに13年もの間生きてきたのか・・。憎しみに自分から囚われていたのは誰の所為でもない、俺自身の心の所為・・。

たったそれだけのこと・・。だけど、俺は気付かなかった。

「フフ、貴様らしいな。麻倉葉。」

「な、何だよ・・。いきなり笑うし。」

「見ていろ。本選では俺はお前を凌駕する力をつけている。」

って、奴はまた寝ていた・・。

「って寝るなー!!!」

「ああ、蓮・・。わりい・・。」

眠そうに目をこする、麻倉葉。

あまりにもユルすぎるといえば、ユルすぎるかもしれない。

あまりにも甘すぎるといえば、甘すぎるかもしれない。

しかし、そのユルサ、その甘さ、どんなものでも難なく受け入れてしまう奴の大きさに俺は救われたのも事実だった。

それこそ、奴の強さ。そして、俺に足りなかったもの・・。

「全く、お前がいると、修行にならん、あっちへ行け!」

「ケチケチすんなよ〜。友達だろ〜。」

「俺がいつから貴様の友達になった〜!!」