死んだと思われたヒュウガが五人のもとに戻ってきた。

そのことで、5人は、それぞれ、良い意味で影響を受けた。

”ヒュウガがいる”

五人は活気付き、バルバンとの闘いに、新たな闘士を燃やしていた。

そして、サヤは、もう一つ、影響を受けた部分があった。

それは・・・。

「ゴウキ、今日は、私が夕ご飯作るね。」

「は?」

いきなり、サヤが台所に、来るやいなや、ゴウキから包丁を取り上げる。

「おい、サヤ、お前・・・。」

「いいから。いいから。」

そう言いながら、サヤは、ゴウキを台所から押し出す。ゴウキは何が何やら分からぬまま、台所から出た。

「任せといて。」

バタンッ。

サヤは台所のドアを閉める。それから、嬉しそうに、鼻歌を歌いながら、何やら、作り始めたようだ。

「おい、ゴウキ、晩飯は?」

ヒカルが台所の前でゴウキにばったり会い、不思議そうに言った。

「そ、れが・・・。」

「サヤが作るって・・・?」

「ああ・・・。」

二人は顔を見合わせた。

「そう言えば、サヤってケーキ以外作れたっけ・・・?」

「あ・・・。」

ゴウキは、口を開けたまま止まっていた。考えてみれば、サヤが五人に振る舞った料理と言えば、ケーキくらいだったのではなかろうか。

「ケッケーキが作れるんだ。夕飯だって・・・。」

「だよなぁ・・・。」

二人は、一筋の汗を流しながら、笑い合った。

「でも、もしも、だ。サヤの奴、ケーキの作り方しか知らなかったらどうするんだよ・・・。」

「そう言えば、俺がサヤに教えた料理ってケーキくらいだったかも・・・。ほら、ギンガットにご馳走するとか何とかで・・・。」

「それって・・・。」

二人は、顔を見合わせた。

「おい、サヤ、やっぱり俺が作るっ!」

ゴウキが台所の戸を開けようとしたが、空かなかった。

「いいよ。今日は私が作るんだから。」

サヤは晴れやかに言う。

「頼むから、出て来てくれよっ。サヤ。」

ヒカルがすがるように言った。

それから・・・。

「おい、ゴウキ、ヒカル。こんな所で何してるんだ?」

ハヤテとリョウマである。

「それが・・・。」

「というか、ゴウキ、夕飯は?」

「いやぁ・・・。それが・・・。」

ゴウキは困ったように頭を掻いた。

「え・・・。」

「おい、ハヤテ、お前さ、サヤがケーキ以外のもの作ってるの見た事あるか・・・?」

ハヤテは首を振る。

「サヤっ。ほら、今日は是非ゴウキが作りたいってさ。」

リョウマが戸をドンドン叩きながら、言った。

「うるさいなぁ。黙って待っててよね。」

「ということは・・・。今日は何が出るんだろ・・・。夕飯・・・。」

四人は、それぞれ、冷汗をたらしながら、顔を見合わせた。

「おい、お前ら、こんな所に集まって何なんだ?」

ヒュウガが不思議そうな顔で四人を眺めた。

「あ、兄さん・・・。」

「サヤが、夕飯を?」

四人は、頷いた。

「ほぅ、サヤ、いつのまに、料理が上手くなったのか。」

ヒュウガが感心したように言った。

「そっ、そう、なのか・・・?ゴウキ・・・。」

「そうなのか・・・。」

「しかし、サヤの料理か。楽しみだな。」

「あっ、兄さん・・・。」

止めようとするリョウマに気付かず、ヒュウガは、その場を去って行く。

その後、台所の中から何かが落ちる音がした。

「これは、恋の病だな・・・。」

ヒカルは顎に手を当てて言った。

「は・・・。」

三人はヒカルを見た。

「ヒュウガだよ・・・。」

四人は、顔を引きつらせて笑い合った。

それから、一時間後。

「できたっ。」

台所の中からサヤの声がした。

そして、リョウマ、ハヤテ、ゴウキ、ヒカルの四人は、何ができるのか、ハラハラしながらずっと、台所の外に立っていたのだ。

カチャリと鍵の開く音がする。

「あれっ?皆、何で、そんな所にいるの?」

サヤは不思議そうに首を傾げた。

「いやっ、サヤの料理が楽しみだなぁって・・・。」

リョウマが言った。

「そっか。多分、期待に応えられると思うよ。」

「それから、ヒカル、ヒュウガ、呼んで来てくれる?今日はご馳走だよってね。」

「あっああ、分かったよ・・・。」

ヒカルはもうやけだと言わんばかりに走り去って行った。

それから・・・。

食卓には、どこか、よそよそしい、リョウマ、ハヤテ、ゴウキ、ヒカルと、彼らを不思議そうな顔で眺めているヒュウガがついていた。

「今日はご馳走だから一杯食べてよ。」

言いながら、サヤがテーブルに置いた物体は・・・。

”ケーキ”・・・だった。

「サヤ、一つ聞いていい?」

リョウマが笑顔を極力作りながら尋ねる。

「これって、おやつ、だよ、な・・・。」

「何言ってるのよ。今日のご飯はケーキ。でもさ、ご飯だから、いつもと違うよ。中に、トマトとか、キュウリとか入れてみたんだ・・・。だってさ、苺だと、おやつじゃない。」

「は・・・。」

サヤは嬉しそうに言った。

四人は恐る恐る、その物体を見た。いつもなら、苺である、赤いものは、よくみると、トマトだった。恐らく、中には、キュウリが挟まれているのだろう。

「俺、今日、ドーナツの食いすぎでさ・・・。」

そう言って、席を立とうとする、ヒカルの服をキツクハヤテが引っ張った。

「一人だけ、逃げるのか・・・。」

ヒカルの耳元でボソリと呟くハヤテ。

一方、ヒュウガは・・・。

「皆、何をやってるんだ。お前らが食べないなら、俺が貰うぞ。ほら、おいしそうじゃないか。このトマトなんか新鮮そうで。」

「は・・・。」

四人は、ポカンと口を開けたままだった。

そして、隣では、サヤが顔を赤くして、嬉しそうに目を輝かせていた。

「サヤ、頂くよ。」

「うん。」

サヤが少し照れ気味に頷いた。

いいながら、側にあった、包丁でケーキを切り、一切れ、自分の取り皿に取り、食べ始めるヒュウガ。

四人ははらはらしながら、ヒュウガを見ていた。

そして、サヤ・・・。

「どう、美味しい・・・?」

サヤの問いに、四人はゴクリと喉を鳴らす。

「ああ、お前がこんなに料理が上手かったとはな。」

思いがけない、ヒュウガの反応だった。

「ほんとに?」

サヤが目を輝かせながらヒュウガを見た。

「ああ。ちょっと見ない間に、成長したな。」

言いながら、爽やかに笑っているヒュウガ。

「サヤ、味見、して、たのか・・・?」

ハヤテが苦笑いを浮かべながら、尋ねた。

「当たり前でしょ。」

「そうか・・・。」

「食ってみないか・・・?」

「そう、だな・・・。」

四人は、極力、小さなサイズにケーキをカットして、取り皿に取る

「皆、まだ一杯あるから、そんなに遠慮しなくていいよ。」

ヒュウガに誉められたサヤはもう、目を輝かせっぱなしで、言った。

「そっ、そうだな。ほら、ゆっくり味わった方がいいかなぁって・・・。」

リョウマが言う。

それから、四人は、トマトがのっかり、キュウリが挟まれたケーキを恐る恐る口に入れた。

彼らの口の中は、酸っぱさと甘さのミスマッチな何ともいえないもので広がった。

「・・・。」

「ハハ・・・。」

「お腹一杯だな。」

「お前ら、もう、いいのか?」

「うっ、うん。俺達、実は、昼飯食いすぎちゃってさ。」

四人は口を揃えて、速やかに台所を立ち去った。

「そうか・・・。じゃあ、俺とサヤが頂くよ。」

そう言って、ヒュウガとサヤが残ったケーキをたいらげてしまったのは言うまでもなかった。

そして、ヒュウガとサヤが寝静まっている間、リョウマ達は・・・。

「ヒュウガとサヤの味覚ってどうかしてるよな・・・。」

「うん・・・。」

などと言いながら、冷蔵庫をあさっていたのだった。