(miku&syun)

「あ〜ん、やっぱり全然分かんないよ〜。」

みくの目は既に涙で潤んでいた。

「諦めんなよ。今度はもっと分かりやすく説明するから。」

瞬は自暴自棄になりかけているみくを必死で励ました。

「ほら、ここでこうするとこなるだろ・・。」

みくは涙を溜めながらも真剣な眼差しで、瞬の説明を聞きながら頷く。

「えっと、だから〜、こうすると・・。答えは・・。」

ぶつぶつ言いながら、みくは、途中式を書いていく。

「瞬、こう?」

そう言って瞬の目をみくは見た。

(うわ、可愛い、かも・・。)

瞬は涙が潤みかけているみくの顔を間近で見て、思わず、顔が赤くなる。しかし、すぐさま、それは、不謹慎だと思い、咳払いをして、途中式をチェックする。

「そうだよ。できたじゃないか。」

「やったー。」

みくが手をパチパチと叩く。

「だったら、これもできるよ。ほら、解いてみて。」

瞬は先程解いた問題の類題に当たる問題を指定する。

「やってみる。」

そう言ってみくはシャープペンシルを手にとり、問題にとりかかる。問題を解くみくの表情は真剣そのものだったが、その横顔は思わず瞬をドキリとさせる程、美しく映った。

(みくって、こんなに可愛かったんだ・・。)

みくが問題を解く間、瞬は目のやり場に困った挙げ句、自分の問題集を解き始める。しかし、先程見たみくの表情が頭が離れず、問題は手付かずだった。いつもの瞬なら、短時間で簡単にやり遂げてしまう問題にも関わらず。色々な考えが瞬の頭の中を巡っているを知ってか知らずか、みくは問題に集中していた。

「瞬。」

「瞬。」

頭の遠くからみくの声が聞こえる。

「瞬。」

「みく・・?」

みくの声はだんだん大きくなっていく。

「瞬、できたよ。」

「え、あっ・・。」

瞬は我に返った。

「あ、ごめん・・。」

「瞬、疲れてる?」

みくが心配そうな表情で瞬の顔を覗き込んだ。

「ごめんね。私の所為で瞬、自分の勉強できなくて・・。」

みくは今にも泣きそうだった。

「いや、そんなことないって。」

瞬は慌てた。さっきボーとなっていたのは、みくに教えることで疲れた所為ではないのだ。みくが気に病むことなどないというのに、瞬はそう思った。

「ほら、問題、見るぞ。」

「瞬、私、いつも、瞬の足、引っ張ってばかりだね。私なんか勉強できなくて・・。数学も赤点だし・・。私のこと、嫌いになっちゃったでしょ・・。」

「何、言ってるんだよ・・。俺は、そんなこと思ってないって。」

瞬は必死で否定した。瞬は、みくを教えることで自分の足が引っ張られているなどと思ったことはないし、むしろ、自分でも何かみくにできるのだとそう、思っていたのに。

「みく、お前は誤解してるよ。俺は・・。」

「無理、しなくて、いいよ。」

みくは、下を向き、涙声で言った。

自分のたった一つの行動がこうもみくを傷つけ、不安にさせてしまうとは、瞬は思ってもみなかった。

「みく、さっき、俺がみくの声が聞こえなかったのは、その、疲れてたからじゃない・・。みくが、その・・。」

「その・・。」

その後の言葉がなかなか続かない。続かないというよりは見つからないのだ。瞬は言いたいことは自分でも何となく分かるのだが、それを言葉に表すことができない。

「その・・。」

言葉に詰まる瞬をみくは、見つめる。

「瞬?」

「お前が、可愛くて・・。」

最後の所は、みくに聞こえるか聞こえないか といった感じの小さな声であったが、言った後、瞬の顔はカーッとなった。

(俺、何言って・・。)

瞬は、思わず、みくから視線を反らす。

「やだ、瞬、顔、赤いよ・・。」

「と、とにかく、俺は、お前を足手まといなどと思ってないから。それだけは、ほんとだから。」

瞬は、絡まる口調でそう言った。

「ありがとう。瞬。ごめんね、私、変なこと言って、泣いたりして、馬鹿みたいだね。」

そう言って、みくは無邪気に笑った。

その笑顔は瞬を思わずドキリとさせた笑顔の一つであった。

「あーあ、何か、お腹空いちゃったな。」

みくが、そう言って足をバタバタさせた。

「よし、この問題の出来次第で、今日は俺のおごりだ。」

「やったー!!。」

そして、瞬は、みくの解答に目を通す。

「うん、あってるぞ。仕方がないな。どっか食べに行くか。」

そう言って瞬はみくに笑って見せた。

「やった、やったぁ。」

みくは椅子はしゃぎぎみに椅子から立ちあがる。

時計を見ると、図書館は閉館間近だった。周りを見るともはや、瞬とみく以外の生徒は残っていなかった。

「その代わり、明日の追試、頑張れよ。学年トップのこの俺が教えたんだからな。」

「はーい。頑張りまーす。瞬せんせ〜い。」

そして、二人は、図書館を出た。

雨で濡れた校庭の上を夕日に照らされながら、二人は、歩いていた。みくは、照れ臭そうにする瞬の制服の袖を握り、水溜まりをはしゃぎながら、飛び越していた。

二人の間にもはや、図書館で感じた感情のすれ違いはなかった。二人はに、お互いを必要だという、小さな自身が芽生えはじめていたから。