『涙の痕』

「もう、君とは会わない・・・。」

突然の別れの言葉に大輔は戸惑った。

その日、賢は決心して大輔の家を訪れた。これで終わりにしようと・・・。賢は何か月前からタケルと関係持ってしまった。勿論自分が望んだわけではないのだが・・・。しかしそれを隠しながら大輔と付き合うのに限界がきていたのだ。これ以上騙したくなかった。でも、知られたくもない・・・。

「何で、そんなこと・・・。俺が嫌いになったのか?」

「違う・・・。」

賢はかぶりを振った。

「じゃあ、何でだよ・・・。」

「君は僕と付き合うべきじゃない。もっと相応しい人ができると思うから・・・。」

「何だよ、それ。確かに俺はお前みたく頭よくねーよ。勉強だってからっきしだし。でも、だからって・・・。」

大輔の口調は涙声になってくる。

「そういう意味で言ってるんじゃない。僕には君は勿体無いから。君のためにならない。」

「何があったんだよ・・・。」

その言葉に賢は顔を俯けた。

「俺に言えねーことなのか?」

言えない、言いたくなかった。タケルに抱かれたと大輔の前でどうして言えようか。二度と会わないのならはっきり言って分かれた方がいいかもしれない。でもそこまでする勇気は賢にはなかったのだ。大輔が傷つくのを見たくなかった。そして何よりも、大輔が自分に失望するのが怖かった。嫌われるのが怖かった。二度と会わなくなっても大輔に嫌われていると意識して生きていくのはあまりにも辛すぎる。結局自分が可愛かった。それがどんなにずるくて卑怯な考えか賢は分かっていたが・・・。

「ごめん・・・。」

「何で謝るんだよ。俺は納得してねぇ。」

大輔は賢のシャツを掴んだ。

「好きだ、お前が好きなんだ。お前に何があったか知らねーけど別れるなんて、二度と会わないなんて許さねーから。」

大輔は賢に強引に賢の自分の唇を押し当てる。賢は大輔の体を離そうとしたが、服をがっしりと掴まれてしまっていてどうすることもできなかった。

賢の口内を大輔の舌が荒々しく掻き回す。もがきながらも賢には大輔の自分に対する激しい思いと悲しみが伝わってくる。大輔は唇を離した。

そのまま引き千切るように賢の衣類を剥いだ。賢はこんな大輔は初めて目にした。こんな暴力的な大輔は・・・。

いつも真っ先に自分を庇い、理解しようとしてくれた大輔。

そんな彼をこうまでにしてしまった。

「抵抗する資格、ないよね・・・。」

賢は大輔に聞こえないように小さな声で言った。本来ならもっと違う形で大輔と一緒になりたかったのに・・・。

大輔はそのまま、賢に覆い被さる。

「絶対離さないからな。」

そう言う大輔の声はいつもの彼からは想像も出来ないくらい低かった。そして再び唇を押し当てる。そのまま身体も賢の中に押し入る。

賢の体に激痛が走る。そして大輔自身にも・・・。大輔とてこのよう怒りと悲しみに任せてこのようなことをやってしまったが、初めての行為だったのだ。

「っ・・・。」

しかし賢は自業自得だと思い、痛みを訴える声を抑えた。痛くてもそれは当然自分が背負うべき痛みだったから・・・。

犯されながら、液体がが自分の顔に零れ落ちたのが分かった。熱くて塩っ辛い液体・・・。

(泣いている・・・。大輔が泣いている。)

(僕は幾人傷つければ気が済むのだろう・・・。最低な人間だ・・・。大輔まで僕は・・・。)

(ごめんね、大輔、ごめんね・・・。)

賢は心の中で何度も何度も謝った。

そして、何時の間にか二人とも果てて、眠りに落ちていた。

ふと賢は目を覚ました。隣で大輔の寝息が聞こえる。大輔の顔に涙が這った痕がたくさんある。賢その痕を指でなぞった。

好きなのに・・・。好きなのに大輔を追いつめたのは自分・・・。大輔を苦しめたのは自分・・・。

「もう、誰も好きにならない・・・。」