プレゼントノベルス
仮面ライダーBLACK RX

ターミネーター







西暦2029年7月の半ば、暴走したスーパーコンピュータ「スカイネット」と核戦争を生き延びたわずかな人々との31年にもわたる長い戦争が、終結のときを迎えようとしていた。
コロラド州シャイアン山にあるスカイネット本体が破壊されたのだ。
人類は勝利し、スカイネットの誇る殺人マシーン「ターミネーター」のほとんどはその活動を停止した(ほとんど、というのはスカイネットの直接的な指揮系統に入っていないスタンドアローンのターミネーターも存在するからだ)。
しかしスカイネットは、時間移動機、すなわち「タイムマシーン」を完成させ、二体のターミネーターを過去に送り込み、人類の指導者ジョン・コナーとその母サラ・コナーを殺害し、未来を変えようとした。
この計画は、優秀な兵士カイル・リースと、人類の命令をインプットされた1体のターミネーターに阻止された。スカイネットの野望は完全に潰えたのだ。
だが、もし・・・。
スカイネットが、タイムマシーン開発中に時間軸の平行線、パラレルワールドへの移動法を発見していたとしたら・・・。
1体のターミネーターが人類に気付かれることなくパラレルワールドへと移動し、スカイネットの脅威を知らないほかの世界の人類に牙を向けたとしたら・・・。
ターミネーターは非常に優秀なマシーンだ。スカイネットのAIのバックアップを持って他の世界へと生き延び、その世界にスカイネットの狂気を持ちこんでしまうかもしれない。そうなれば、その世界の人類は、元の世界と同じ道のりを歩むことになるだろう。
一つの世界に、人知れず危機が迫っているのだ!




衝撃とともに、体外の空間の湿度や気温が瞬間的に変化したのをセンサーが感じ取った。まぶたをあけて頭部のメインカメラを起動させる。人気のない廃工場の風景が映った。
成功だ。ここはスカイネットが人類軍に敗北した、核戦争後の世界ではない。放射能値が出発前よりも少ない。
足元に1枚の紙が風に飛ばされて引っかかってきた。記録されている内容から推測すると、これは1989年の日本の新聞であるらしい。データベースに記録されているこの日の出来事とは、内容が若干違っている。やはりここは、邪魔をするコナー親子のいないパラレルワールドなのだ。スカイネットのAIをインプットできるほど高性能のコンピュータは未だ開発されていないが、自作できる材料はある。どこかの工場で奪取すれば済むことだ。
不意に後方で爆発音を感知した。そちらを振り向くと、どこからか小型のミサイルが飛来して、破壊活動を行っているらしい。破壊工作の必要性を示すものは何も無い(周辺の廃工場を破壊しても意味が無いし、土地を確保したいのであれば小型ミサイルを使用する必然性が無いと判断できる)。この世界の人類の軍隊だろうか。
キュラキュラキュラ・・・とキャタピラが動く音がして、ミサイルを発射していた存在を目視確認することができた。戦車ではなく、ターミネーターのような自律ロボットのようだ。
ロボットが、ふいに話し掛けてきた。
「そこの人間、この怪魔ロボット『デスヴィアス』さまの秘密テストを覗き見するとは良い度胸・・・ん?貴様、いやお前は・・・お前も、怪魔ロボットか?見なれない内部機構だが・・。」
どうやら、ターミネーターが人間ではないと理解したらしい。演算処理能力はあまり高くなさそうだが、性能や内蔵した武装はターミネーターをしのぐ部分もある。興味深い存在だ。
「わたしは、ターミネーターだ。怪魔ロボットとは何か。」
返答をし、質問を投げかけてみると、相手も答えを返してきた。
「怪魔ロボットとは、俺様のような、強く、賢く、忠実な、クライシス帝国軍の兵士のことだ!よく、覚えておけ!それにしても、『たぁみねぇたぁ』とは初耳だな。内部機構をちょっとスキャンしてみたところじゃ、お前戦闘用ロボットみたいだから、われわれとは敵ではないのだな?それにしても良くできた人工皮膚だなぁ。俺様も見ぬけなかったぞ。ただ、その・・・全身の皮膚が丸見えってのは人間どもの中でも目立つと思うぞ・・・。それよりどうだ、せっかくこうして知り合ったんだ、一緒に・・・」
質問していないことまで返答してきたが、質問の答えも理解できなかった。「クライシス帝国」とは何だ?そんなものはデータベースに記録されてはいない。
自律ロボット(デスヴィアスという名称らしい)は相変わらずしゃべっていたが、無視して相手の機構を調べることにした。背面に回りこみ、背部装甲板を外し、内部機構の分解を開始した。デスヴィアスはまだ喋りつづけている。
「・・・でだなぁ、俺の自慢のキャタピラは、あのデ」
突如デスヴィアスのお喋りがとまった。恐らく、CPUへの電源供給を断ってしまったのだろう。かまわず分解を続ける。スカイネットの開発したあらゆるメカニックとは、まるで設計システムが違う。まるきり異質なものだ。だが、少しずつ理解することができていた。この世界でターミネーターを生産するときは、この技術の応用ができるに違いない。
背後で、大きなエンジン音がした。バイクの音のようだ。振り向くと、バイクに跨った若い男がいた。
「すいません、このあたりでロボットを見ませんでしたか?大きなキャタピラのついたミサイルを発射するロボットです。」
「そのロボットとは、怪魔ロボットデスヴィアスのことか?」
「そうですが・・・、まさか、そのバラバラのパーツが!?」
男がバイクから降りて歩み寄ってきた。体内スキャンを行ってみる。
「あなたは、誰なんですか?なぜ、その・・・そんな格好で怪魔ロボットを分解しているのですか?」
男が話し掛けてきたとき、その体のスキャンが完了した。驚くべき検査結果が報告された。
彼は改造人間だったのだ。
細胞や遺伝子の操作とともに、各種メカニズムと、正体不明の球体(大きなエネルギーを発生させることができると思われる)が埋め込まれ、さらにその後何らかのエネルギーの影響を受けて、有機的にグレードアップしたらしい。改造人間でありながら、進化を遂げた痕跡があるのだ。
もう一度詳しくスキャンすることにして、頭部ユニットを男に向ける。その間も分解作業は怠らない。
そのとき、かすかに風が吹いて、ミサイルポッドユニットの配線がショートし、小型ミサイルが発射された。
発射されたミサイルが、頭部ユニット側面に直撃し、バランスが崩れて倒れてしまった。
「大丈夫ですかッ!」
と男が叫び、抱き起こそうとして飛び退いた。
外装の人工皮膚が吹き飛んでしまったらしい。
「お、お前はッ、怪魔ロボットだったのかッ!?」
若い男が叫ぶ。警戒体制に入ったらしい。探索・研究モードから戦闘・排除モードへCPUのスイッチが切り替わる。若い男=改造人間を敵として確認。排除行動に移った。
肩口をつかみ、殴りつける。男は吹き飛び、廃工場の壁に激突した。歩みより、腹部に蹴りを加える。
「グッ!」
男は低く叫んで空中高く蹴り上げられる。数秒してから地面に叩きつけられた。
肩で荒い息をつきながら、男は予想だにしない行動に出た。

「変身!」

と叫び、両腕を十字を描くように振るったのだ。
男の腹部から閃光が迸り、その体全体を包み込んだ。
「トウアッ!」
という叫びとともに閃光の中から、黒い外骨格に包まれた何かが飛び出してきて、廃工場の屋根の上に着地した。
「俺は太陽の子、仮面ライダー・・・BLACKッ!R・X!」
名乗りをあげるとRXは身構えた。
それにしても、まさか変身機能を備えた改造人間だったとは、スキャンを終えていたにもかかわらずまったく予測不可能だった。
「貴様っ!いったい何が目的で味方を分解していたッ!?」
「私とその『デスヴィアス』とは協力体制にはない。」
それ以上の返答義務はないと判断し、こちらに不利な位置差を縮めるために屋根の上に飛び上がると、フルパワーのパンチを行った。RXは、
「RXパァンチ!」
と叫び、パンチでパンチを受け止めて来た。ターミネーターは、RXの黒い外骨格に覆われた手を破壊できると予測し、回避行動は取らなかった。
が、その判断は間違いであった。金属製の骨格が捻じ曲がり、肩部ユニットが火花を散らした。RXパンチをもろに受け止めた拳は、熱で融解して指一本一本の判別がつかなくなった。
すかさずもう片方の手でもパンチを繰り出すが、さっと受け止められてしまった。
RXが空中高くジャンプする。実に、60メートルの高さまで飛び上がり、空中で一回転した後、両足をそろえて急降下してきた。
「RXキィィィック!!」
先ほどの経験から、今度は回避行動を取った。あの落下速度では、天井を破り、廃工場内に落下するだろう。そうなれば優位な位置関係に立つことができる。
しかし、またもその予測は外れた。RXは落下角度の修正を行ってきたのだ。その両足は赤熱化している。
次の瞬間、地面にボディがめり込んでいるのを感じた。起き上がってみるが、それだけで全身の駆動ユニットに過負荷がかかり、多くのサーヴォモーターが稼動しなくなり、そこから一歩も動くことができなくなった。
かく座したのだ。
かろうじて動く頭部ユニットを巡らせると、RXが数メートル離れたところに立っているのが確認できた。
「リボルケイン!」
RXはそう叫ぶと、腰部の赤い円形の部分から、光り輝くスティックを引き抜いた。
RXは一気に走り寄ると、ターミネーターの腹部に光のスティックを突き立てた。大量のエネルギーがボディに流れ込み、爆発した。
爆発によって、使い物にならない全身の骨格もスカイネットのAIのバックアップも、そしてターミネーターのメインCPUも、すべてがこなごなに吹き飛び、ターミネーターの人造知能は無に帰した。




クライシス帝国の野望とともに、スカイネットの最期の陰謀は(それとは知られずに)粉砕された。
今日も地球の平和は守られたのだ。
しかし、クライシス帝国はこれからも強力な刺客を送り込んでくる。
がんばれ、南光太郎!
地球の平和は、君の闘いにかかっているのだ。
変身せよ光太郎!闘え!仮面ライダーBLACK RX!

<完>