タケル様は変わってしまわれた。その原因は僕にあるみたいだったが、僕には、分からなかった。タケル様、僕を以前より、多くお側に置かれるようになったけれど、以前より、僕を見る目が、冷ややかになってしまわれている見たいで、僕は、恐怖心すら、感じてしまう。しかし、僕はタケル様から逃げる事など、考えては、いけないのだ。なぜなら、アンドロイドはそういう宿命を持って生まれてきたのだ。だから、タケル様に捨てられない限り、ずっと、お側にいて、服従しなければならない。僕は、そう、自分に言い聞かせていた。

以前は、そんなことを考えなくても、自然にそのようにできた。なのに、どうしてだろう。こんなことを考えるのは・・・。こんなにも、痛いのは・・・。こんなにも、タケル様以外の人のことを考えてしまうのは・・・。

僕は、自分でも混乱状態に陥っていた。タケル様の冷ややかな態度と大輔への不思議な感情・・・。

「わからないよ。僕はどうしたらいいのだろう。」

そんなある日、タケル様は一日だけ、出かけられる事になった。

タケル様が出かけられた後、僕は久しぶりに薔薇園に行ってみた。少し荒れ気味の庭を手入れしながら、僕はやはり待っていたのだ。しかし、僕は、何日も、いなかった。彼が来る筈がない。分かっている。なのに、僕は待っている。どうしてそんなに彼を待っているのだろう。

その時だった。

「賢。」

僕の名前が呼ばれた。とても懐かしい声だった。一瞬我を疑った。あまりにも会いたいと思ったのでそら耳なのではないかと思ったのだ。

「大輔・・・。」

「良かった。俺、毎日ここに来てたんだぞ。お前ここんとこずっといなかったから心配でさ。」

「ま、毎日来てくれてたの・・・。」

僕は、嬉しくて目元が熱くなっていった。

「病気だったのか。」

大輔が心配そうに聞いてくる。

「ごめんね。ごめんね。」

僕はひたすら、謝った。でも何故だろう・・・。理由が口から出てこない。僕はここに来れなかった理由を大輔に知られたくない?

ただ、ただ謝るだけだった。

「別にいいよ。こうして顔見れただけで俺、十分だから。」

すまない気持ちで一杯だった。しかし、僕の口から来れなかった理由が出てこなかった。そして、大輔もこれ以上追求しなかった。僕は妙に安心してしまった。

「俺、やっぱ賢の事、好きみたいだ。」

久しぶりに聞く大輔の「好き」。それが僕にとって最高の誉め言葉だった。

「僕も、好き、だよ・・・。」

思わず口から出てしまった。僕は初めて分かった気がした。人間のいう「好き」が・・・。

僕は、一時だったが、タケル様に対する不安を忘れ、大輔と話し込んだ。大輔が笑うだけで、僕は明るくなる。大輔ってすごいとつくづく思った。大輔も僕が笑うと明るくなるのだろうか・・・。

「なぁ、前にみたいにキス、していいか?」

「うん。」

僕は、大輔と唇を重ねる。最初した時の心地よい感触が蘇り、僕はそれに溺れていく。舌で大輔を受け入れながら、逆に大輔を求めていた。それは、あまりにも甘美な一時だった。

しかし、僕は舞い上がってしまって大切な事を忘れてしまっていた。最初に博士から言われてた、最も大切なことだった。それは、僕がアンドロイドであるために、最も重要なことでもあったのだ。