「お前、よくも、よくも賢を・・・。」
大輔は、激怒した。タケルは大輔の怒りを嘲笑うように、口元に軽い笑みを浮かべていた。
「何が可笑しい。」
「いや、別に。素晴らしい絆だな、と思ってね。」
言って、ニッコリと笑う、タケル。
「うるせー。」
大輔は、タケルの頬を殴り付けた。
「クク・・。」
タケルは顔の赤く腫れた部分を手で触れ、笑った。
「クク・・。」
「だから、何が可笑しい。」
「ハハハハハハ。ククク。」
「いいよ、賢を起こしてあげる。」
タケルは先程の行為で失神している賢の顎を掴んだ。
「賢、君にお客さんだよ。」
賢は、うっすらと目を開ける。体中に行為の余韻が残っていて、頭が冷めると同時に身体中から軋む音がした。
「つっ・・。」
「タ、ケル様?」
賢は状況が把握できずに、呆然としていた。タケルは賢の顔を指でなぞりながら言った。口元には笑みを浮かべている。
「君に会いたいってさ。ほら、会ってやったら。」
賢は虚ろな瞳で当たりを見回した。そして、その視界に入ってきたものは・・。
「だ、い、す、け・・・。」
賢は思った。この場にいる筈がない今、自分の視界に映っているのだ。賢は改めて目をこすった。
「大輔・・・。どうして、ここに?」
「賢、賢・・・。お前・・。」
「大輔・・。」
賢はポロポロと涙をこぼし始める。目の前の大輔が本物であるこを確信したからだ。込み上げてくる多量の思いをどう処理して良いか分からなくて、ただただ、涙が流れるばかりであった。
「会いたかった・・。」
「俺も・・。」
「どうしてこんなに・・。賢・・・。」
「こいつが、やったのか。」
大輔の声が怒りでだんだん、低くなる。賢は、大輔から顔を背ける。
「こいつが、やったんだな。」
「賢、逃げるんだ。」
大輔は、怒りのこもった声ではっきりと告げた。
賢は、首を横に振った。
「何で・・・?」
賢の意外な反応に、大輔は呆然とした。しかし・・・。
「何でだよ。賢!」
「ごめん・・・。僕、人間じゃないから・・。」
「な、に言ってるんだ?お前・・。」
予想もしなかった賢の言葉に大輔は自分の耳を疑った。
タケルは二人のやりとりを、唇を歪ませ、静かに見届けていた。
「ごめん、僕、君を騙してた・・。僕、本当は、タケル様のアンドロイドなんだ・・。だから・・。」
「アン、ド、ロ、イ、ド・・?」
賢は悲痛な顔で頷いた。
賢が、アンドロイド・・・?あまりに衝撃的な事実に、大輔は、一瞬が気が遠くなった。手を震わせ、賢の肩に触れる。そして、人間そのものにしか見えない、賢の仕種が頭をグルグル巡った。
「嘘・・・だ・・。だってお前、俺のコト・・・。」
「だからさ、帰って、もらえ、ないかな・・。」
賢は低く、そう、告げた。
「何で・・?」
大輔にとって賢が人間であるか否かはすでにどうでもよい問題であった。大輔は、賢が笑顔を見せる時の優しい顔、自分のことを「好き」と言ったときの嘘、偽りのない、純真な表情がありありと脳裏に蘇った。例えその身体が人間のものでないとしても、賢の心は信じる事ができる。大輔はそう、確信していた。だが、賢の口から出た言葉はどうだろう。大輔はどうすればよいか分からなくなっていた。
「俺が、嫌い、なの、か?」
その問いに賢は静かに首を振るだけだった。
「お願い、だ、から・・。」
賢は必死で鳴咽をこらえながら、言った。
さっきまで口を閉じていた、タケルがゆっくりと口を開いた。
「大輔君、だっけ。」
「賢は、君が思っているほど、純粋ではないんだよ。」
「お前は黙っとけ。」
大輔の声は震えていた。
大輔の言葉を無視してタケルはそのまま、言葉を続けた。
「確か、君は賢を抱いたんだよね。だけどさ、彼、僕にも嬉々として足を開くんだよ。”犯して下さい”ってね。まぁ、僕が主人であるということもあるけど。それだけなのかな。ねぇ、賢。君はどんなアンドロイドなのかな。」
賢は、屈辱に唇を震わせ、下を向いた。
「ホラ、ちゃんと大輔君に教えてあげなきゃ。彼が可哀相じゃない。」
言って、唇に指を当てる。
「だ、いすけ・・。僕、僕ね・・。ほん、とうは・・・。」
(大輔に嫌われる。)
賢は覚悟した。
(これでお終いだ。もう、会う事もないだろう・・。)
「僕は、ね・・。僕は・・。」
(さようなら・・。)
「誰、と、でも・・。その・・。」
賢の目から涙があとからあとから溢れてくる。
「ホラ、早く、言わなきゃ・・。大輔君が困ってるじゃない。」
タケルは賢の耳元に口を近づけ・・・。
「僕は、淫乱アンドロイドです。だから、誰でも良かったんですってね。」
「僕は、い・・んら・・・ん・・アン、ド・・ロ、イ・・ド、で・・す・・。」
「だ、か・・ら、だ、れ・・でも、よ・・かっ・・・た・・ん・・・で・・す・・。」
(誰でもじゃない・・。ほんとは違う・・。だけど・・。)
「嘘、だろ・・。だって俺、お前の「好き」は絶対嘘が感じられなかったんだ。お前はそんな奴じゃ・・。」
「そう、いうこと、だから、もう、僕に会わない、方が、いいよ。」
「僕は、誰からも、愛される、資格、なんて、ない、から・・。」