大輔は、気を失った賢を自分が働きながら、住み込んでいる離れ屋に連れ帰り、首輪を外し、ベッドに横たえた。

その離れ屋は、最低限の家具とベッドがあり、どちらかというと、粗末なものであった。

正直、大輔はまだ信じられなかった。賢が人間であるか否かという問題は、確かにどうでも良かったが、どうしても、賢が人間に見えて仕方がない。

小さな寝息をたてて眠っている賢を大輔はまじまじと見た。それは、アンドロイドであるにも関わらず、疲弊と悲しみを湛えた容貌がありありと見受けられた。そして、首輪の痕が痛々しく、赤くなって残っている。それだけで、賢がタケルから受けた仕打ちが酷いものであることが分かる。

「どうして、こんなになるまで・・。どうして・・。」

賢の痛々しさを目の当たりにして、大輔は、やるせなさが込み上げてくる。どうして自分は知らなかったのだろう。気付いてやれなかったのだろう。もっと早く知っていれば、力づくでもどうにかしたものなのに・・。

「俺の馬鹿・・。」

涙が止まらない・・。賢がいかに苦しんだのか、その顔を見ていれば、大輔は分かった。

大輔の涙が賢の頬に落ちる。

ピクッ。

賢がその涙に反応する。

閉じていた目が、開く・・。

「あれ・・。ここは・・。」

「賢、目が覚めたのか。」

「だ、い、すけ・・。どうして、君が・・?」

賢は、辺りを見回し、そのあまりの質素さから、そこが、高石邸ではないことを確認する。

「ごめんな。ごめんな。ごめ・・。」

ポロポロと涙を流しながら、何度もその言葉を繰り返す大輔。

「どうしたの・・。大輔・・。」

「だって、お前が苦しんでるのに、俺・・。」

「ううん。」

賢は、起き上がり、静かに首を振った。

「君は悪くない。誰も悪くないんだよ。だから、泣かないで。ねっ。」

そう言ってニッコリ笑った。

「それにさ、僕、ほんとはとても嬉しかったんだ。人間でもない僕のことを君がそこまで思ってくれてて、そこまでしてくれて。それだけでさ、生まれて来て良かったって、思えたんだ。本当はね、少し前まで、君が来てくれるまで作られたことをすっごく後悔してた。でも、今は違う。今なら、例え、どんな目にあっても、生きていけるし、生きたいんだ。」

「何で、何でそんなふうに笑うんだよ。お前は・・。」

大輔は賢の肩を握った。

「それも君のお陰だよ。」

「だから、ありがとう。これからは君に迷惑掛けないで生きていくから。」

「それって、まさか・・。」

「うん。僕、タケル様のところへ帰る。」

賢ははっきりとした口調で言った。

「駄目だ。お前、今度、あいつのとこへ帰ったら・・。」

「大丈夫。僕は、大丈夫だから・・。」

「駄目だ。絶対に行かせない。お前が良くても、俺が嫌だ。」

そう言って、大輔は賢にしがみつく。

「なぁ、ここで暮らそう。俺とお前くらいならどうにかなるから。だから、ここで、ずっと一緒に暮らしてくれよ。」

駄々をこねる子どものように賢にしがみついて泣きじゃくった。

賢は、少し、困ったように、笑った。

「でもね。大輔。」

「そんなの聞きたくねぇ。」

「その気持ちだけで・・。」

「いや、出て行かないって言うまで離さない。」

大輔は、断固として、賢の主張を拒む。どんなことをしたって離すことは、できない。離したら駄目だ。そう思った。

「ありがとう。本当に、ありがとう。」

「じゃあ・・。」

大輔は、顔を上げた。

「うん。僕、君と暮らす。」

「本当に?」

頷く賢。

大輔は、半信半疑の顔から本当に明るい顔に変わった。

賢と暮らせる。ずっと暮らせる。そう思うだけで、胸が一杯だった。これから一緒にいられる。

「もう、絶対に離さないから。」

もう一度、強く抱きしめた。その時、大輔は、決意する。絶対に賢を守ると。自分にしか賢を守れないのだと自分に言い聞かせた。

「これから、幸せになろうな。」

賢は、頷いた。