「分かりました。賢さんを誘拐したのは、本宮大輔という人間です。この屋敷の近くに住んでいます。」
「そう。」
執事の報告にタケルは唇を歪めた。
「すぐに、連れ戻しに行きたいんだけど。」
「でしたら、部下を向かわせます。」
「いいよ。僕が行くから、車、出しといてよ。」
「タケル様、自らですか?」
執事は少し、驚いた顔をする。
「何か、不都合がある?」
「い、いえ。でしたらそのように致します。」
「お願いね。」
ニッコリと微笑むタケル。
「かしこまりました。」
一礼して、執事はタケルの部屋を出た。
「クク・・。」
「クク・・。」
「ハハハハハ・・。」
訳もなく笑いが込み上げてくる。
タケルは狂ったように笑った。
「アハハハハハ・・。」
どうしてこんなに笑いが止まらないのか、もはや、自分でも分からない。ただ、笑い狂いたかった。
「僕は、おかしくなっちゃったのかなぁ・・。」
一人、呟き、ジャケットを羽織り、部屋を出た。
「じゃ、行ってくるから。」
「あの、連れの者を・・。」
「いいよ。僕だけで。」
タケルは、運転手にリムジンの座席の後頭部に乗りこむ。
リムジンは、十分ほどして、とある、家の前に止まった。
「こちらです。この離れ屋です。」
運転手は、運転席を降り、タケルの座っている座席のドアを開けた。
「ありがとう。」
タケルは、一言言って、離れ屋の壊れかけた呼び鈴を鳴らした。呼び鈴は鈍い音を立てる。
そして、戸が開いた。
中から、出て来たのは、紛れもない、賢であった。どうやら、大輔は仕事に出かけているらしかった。
「タケ、ル様・・。」
「久し振りだね。といっても、2日しか経ってないけどね。」
タケルは口だけで笑った。
「その分だと、僕が連れ戻すことくらい分かってたみたいだね。」
賢は頷く。
「それで、帰るの?」
「はい。」
賢は、大輔に、一緒に暮らすと言ったが、本当は、そんな気はなく、タケルのもとへ帰るつもりだったのだ。少しでも、大輔の気が休まるならと、嘘を吐いてしまったのだ。確かに大輔と普通に生きることができたのなら、どんなに良いことだろう。しかし、賢は、それが、自分の生まれてきた意味に反することだと分かっていた。どんなに、幸せを望んだところで、それは、妄想に過ぎない。賢はそう、思っていた。
「素直だね。お別れは、言わなくていいの?」
賢は頷く。
これで大輔とは二度と会えないであろう。賢は覚悟していた。後悔もなかった。大輔と出会ったことも・・。最後に心残りなのは、大輔を騙してしまったという結果になってしまったということ・・。
(ごめんね。大輔・・。でも僕は・・。)
(ごめんね・・。だけど、僕は、君の思いがあれば生きていける。ありがとう。)
大輔へのたくさん思いが賢の頭を巡っていた。
でも、これだけははっきりと思える。
大輔と出会えたことで、賢は生きる希望、生きる意味を見出せた。
それが、わずかな間であったも。
「そう。辛くなるだけだよね。」
そして、賢とタケルはリムジンに乗った。
「申し訳、ありません、でした・・。」
「いいんだよ。帰って来てくれたらね。」
言いながら、タケルは邪悪な笑みを浮かべた。
「ここも、また、僕のものになるわけだ。」
タケルは、賢のスカートの中に手を忍び込ませる。
「やっ・・。」
「久久で驚いたの?慣れてるでしょ。このくらい・・。」
「は、い・・。」
そして、その手で、太股を愛撫した。
「や、だぁ・・。」
賢はその手に身体を震わせる。その時、改めて思った。自分がいかにもがいても、タケルの手の内で飼い慣らされた奴隷、そう、玩具に過ぎないのだと・・。タケルの玩具であることこそ、自分のアンドロイドとしての使命であるということを。
(それでも、僕は生きる・・。)
「タケル様ぁぁ・・。」
「そう、君は僕のものだ。」
タケルは満足げな笑みを浮かべた。